「男性差別」の声も 理系学部入試で“女子枠”導入の大学が急増 「イメージを変える入口としてはアリ」「他にも様々な困難がある」

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横浜国立大学が6月、「電気・電子・通信・情報工学の分野全体の多様性に貢献してくれる女子学生が増加することにつながる」として、2027年度の入試から理工系学部に“女子枠”を導入すると発表した。電子情報システム教育プログラムに8人の募集を行うとし、「多様性」に富んだ社会の実現に向け、進路として認識・検討してほしいと呼びかけている。
【映像】「女子枠」に対するネットの声
特に理工系の学部で、男女の比率の偏りを是正するために導入が進んでいる“女子枠”。文科省によると、国公立の理工系学部で昨年度の入試に女子枠を設けた大学は30校と、前年の14校から2倍以上に急増した。東京医科歯科大学と東京工業大学が統合した「東京科学大学」では、旧東工大の女子枠58人から149人に大幅拡大し、志願倍率は約4倍の人気を集めている。
しかし、Xでは「女性優遇にも程がある。男性差別すぎる」「本来受かるはずの男子生徒が落ちてしまう」「多様性や男女平等って何だろう」といった声もあがる。そこで、『ABEMA Prime』では女子枠拡大の是非を考えた。
大手予備校で化学講師を務める坂田薫氏は、女子枠に賛成の立場。「最終目的は『女性の科学者を増やす』ことだと思うが、女子が増えれば環境を整える必要が出てくるので、そのカンフル剤になる。全ての課題が解決するわけではなく、博士課程に進んでもらうための努力などはまた別で必要だが、イメージを変える入口としてはアリだ」と評価する。
一方、慶應大学大学院生で推薦対策塾「スキルパス」代表の國武悠人氏は、「女子枠は真の多様性につながらない」と考えている。「理系の女性に対するアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)は必要だが、“女子枠”という手段を正当化する根拠にはならない。欧米では50年以上の議論で、『女子枠は違法な性差別だ』という決着がずいぶん前についている」。
その背景として、「理系に進学しにくい人がいるのは女性だけではない」ことを挙げる。「実家が貧しいとそもそも大学に行きづらく、学費の高い理系ならなおさらだ。介護をしている、両親の理解がない、地域の進学率が低いなど様々な困難がある中で、“女性”という1属性にだけ注目する正当性はなかなか主張できない。憲法学でも『女子枠のクオータ制(性別基準で女性または両性の比率を割り当てる制度)は差別の疑いが高い』と指摘されている」。
理系の女子学生の割合は、理学は27.9%、工学は16.1%にとどまる。また、女性研究者の割合は、イギリス39%、アメリカ34%に対して、日本は17.5%でOECD(経済協力開発機構)の中で最下位だ。
生命科学研究者の高橋祥子氏は、「女子枠は根本的な解決にはならないが、きっかけにはなり得る」との見方を示す。「東北大学は『女子枠を設けない』と言っているが、総合型選抜の機会を増やすことで、女性比率が上がっている。浪人生には女性が少ない。本人がしたくない、あるいは親が許さない環境があるためで、機会を増やすだけで女性比率が上がる可能性がある。ただ、そういった事例は時間がかかるため、手段としての女子枠はやむを得ないと思う」。
自社の女性研究職員にヒアリングしたところ、理系に進んだ背景には、「教師や親戚など、身近に理系の女性がいた」「親に反対されなかった」という2つの要因があったということだ。
坂田氏も、「工学部に行きたい女子受験生の壁になっているのは、親や先生だ」と同意。「親から『工学部は男性が行くところ。妊娠・出産後に戻りにくいから、パートで働きやすい薬剤師や医師になりなさい』と言われ、諦めた学生も見てきた」として、「意識改革に一番いいのは、高橋氏のような女性がもっと前に出ること。女性科学者が結婚・出産を経ても活躍している。託児所がある大学もあるなど、親に『昔とは違う』と知ってもらうことが重要だ」と述べた。
これに國武氏は「イメージで議論が進むのはよくない」と指摘。「性別を理由に親から進路干渉を受けたか、を聞いた内閣府の調査で、女性は若い年代ほど干渉が少なく、逆に男性は増えている。古い考えを持つ親が減る中で、あえて女子枠という手段をとる必要性がどの程度あるのか、それが論点の本質だ」とする。
また、ネット上にある「男性差別」の声に対しては、「女子枠は“女性以外に対する差別”であり、“貧困者差別”でもある。女性であるだけで困難を一方的に認めてもらえるというのは、貧困や地域性、周囲の理解などで悩む男性などを考慮していないわけだ。大学入試関連の学会でも『女子枠はおかしい』と言っている大学教員は多いし、法学の領域では、生まれ持った属性を使うことは憲法違反の疑いが強いという意見が多数説になっている。『反対するネットの声』をただ取り上げるのは、問題の矮小(わいしょう)化につながる」と訂正した。
國武氏が対案とするのが「逆境指数」だ。親の学歴、世帯収入、家庭の資産といった「家庭環境」や、地域の貧困率や犯罪率、出身高校の状況などによる「出身地域の環境」を元にするこの指標を用い、多角的な不利を評価すべきだとする。
その有用性については、「アメリカでは『人種を考慮要素にしてはいけない』という判例が出ている。貧しさや、地域の大学進学率、犯罪率などを“逆境”として指標化し、『裕福な家庭に育った女性』よりも『貧しい男性』の加点幅が大きくなるべきだという話は、欧米では以前から行われている。お金がなくて高校卒業後すぐ働かなくてはならない人を“逆境指数10点”とすれば、女性であること自体は0~3点にとどまるだろう」と、具体例とともに説明した。
一方、坂田氏は「『日本の理系はレベルが低い』と言うが、女子枠によって本当に低い人が入ってくるのか。優秀な生徒は『大学の勉強を先取りしたい』と言うが、そういう子が推薦で早々に決めることもある。優秀な子が推薦の女子枠を使えば、一般入試のライバルが1人減ることになり、必ずしも男性が不利になるとは言い切れない。導入してどうなるか確かめるのはアリではないか」と、女子枠への賛成意見を改めて述べる。
高橋氏は「一番大事なのは、早期からジェンダーレス教育をちゃんと行うことだ」と投げかけた。「北欧は理系の女性比率が40~50%と高い。早期から介入することで、女性枠を設けずとも高まるからだ。東北大でも、周辺地域の高校生に“出張講義”をしている。そうして機運を高めることが、根本的な解決策につながる」。(『ABEMA Prime』より)

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