スポットライトを浴び、注目を一身に集める進次郎。しかし、舞台袖から恨めしげに眺めている男たちの視線に、彼はまだ気づいていない。
前編記事『「威勢がいいのはいつも最初だけ」小泉進次郎の「コメ劇場」が早くも閉幕で身内からあがる非難の声』より続く。
小泉進次郎氏に農水相就任を打診した張本人であり、「農水族のドン」の森山幹事長(80歳)は現在の小泉氏をどう見るか。話を聞いた。
―小泉氏をどう評価?
「いや、今よくやっていると思いますよ」
―石破茂総理や小泉氏はコメの増産を目指す?
「総理は作るだけ作らせて、コメが余ったら輸出すればいいというお考えなんですが、そうすると価格が安定しない。そもそも今のやり方では、なかなか輸出ができるところまでコストが下がりません。北海道のように広いところで作れば、輸出もできますが。
一方で、すべて大規模化すればいいというわけでもない。中山間地の棚田は大規模化できないものの、水害を防ぐ効果があり、それはそれで重要だからです」
―小泉氏はコメの輸入拡大案にも言及しているが?
「外国から無関税で輸入できるミニマムアクセス米は77万トンという約束ですから、簡単には拡大できない」
―全農改革をまたやる?
「事実上、それはもう終わりましたから。相当、対立しましたけどね」
小泉氏を立てつつも「そう簡単にはいかないぞ」と、随所にクギを刺すのだった。
政治は「男の嫉妬」の世界でもある。表向きには期待を寄せる石破総理も、昨年の総裁選前の知人との会食の席では別の表情を見せた。
「進次郎に総理ができるのか」
何度もそう語り、小泉氏を子供扱いしたのだ。自民党の重要閣僚経験者が語る。
「石破さんは進次郎を「客寄せパンダ」にして選挙を乗り切ればいいのでしょう。進次郎が大変なのはこれから。今後の農水改革を巡る議論で、失速しなければいいが……」
FNNが6月14、15日に行った世論調査では、次の総理に最もふさわしい人物として、小泉氏と回答した人が最も多かった。しかし、永田町にうごめく怪人たちは、誰もそんなことは本気で考えていない。参院選まではフル活用するが、それが終われば用済みだ。小泉氏の「政界の父」である菅氏の周辺もこう語る。
「進次郎も一人じゃ何もできない。仲間づくりも不十分だし、総理の目は当分ない」
小泉氏自身、実は孤独だ。昔から周囲の対応は大きく分けて2つ。利用しようと近づくか、嫉妬して遠ざかるか。本人に下積み経験もないから、人心掌握もうまくない。
「部会長時代にタッグを組んだ福田達夫元総務会長とは『いずれ進次郎総理―福田官房長官の時代がくる』とまで言われた関係でした。ところが、福田氏は前回総裁選でコバホークこと小林鷹之元経済安保相を担ぐなど、距離ができている。総理を目指す上でも、番頭役が定まらないのがネックです」(自民党関係者)
さらに、麻生太郎最高顧問(84歳)や茂木敏充前幹事長(69歳)といった非主流派の重鎮たちも、小泉氏に向ける目線は冷たい。
「麻生さんは『(進次郎は)お父さんと違って普通の人』と語るなど評価は低い。叩き上げの茂木氏も三世議員の進次郎を面白く思っていないでしょう」(全国紙政治部記者)
そんな2人は6月16日に都内の日本料理店で会食した。参院選後の政局を見越した動きとみられる。
「最近、麻生派所属議員が、『麻生派の3人の大臣に辞表を出させましょう。石破政権は終わります』と冗談めかして言ったことがあった。すると、麻生さんは『お前よぉ、今そんなことをいってもダメだ。参院選後だよ』とまんざらでもない反応でした。
麻生さんは次期総理候補として高市(早苗)や小林鷹之に目をかけていると見られてきた。しかし、最近は『与野党ともにこの人ならと思ってもらえる総理じゃなきゃダメだ』と言っている。念頭にあるのは人格者と評判の義弟・鈴木俊一党総務会長(72歳)ではないか」(麻生氏周辺)
一方、小泉氏の「コメ劇場」に沸く石破政権は参院選を乗り切り、自公で過半数を維持する展望を描く。ただし、こうしたシナリオをぶちこわしかねない事態が発生した。
「石破総理が参院選の公約として掲げた一人あたり2万円の現金給付です。子供と、住民税非課税世帯の大人には、さらに2万円をプラスする。選挙目当てのバラマキそのものだと批判が高まっています」(前出・自民党関係者)
世論調査では半数以上が現金給付に反対。自民党の参院幹部は厳しい見方を示す。
「今さらだ。石破政権は大衆迎合せず、財政規律が大事だと言って、野党が求める消費減税も、現金給付もしない姿勢だった。それが一転した。有権者から『財源がないって言っていたのに、あるじゃん』と聞かれたらどうするのか」
野党の消費減税と比較されたら、勝ち目がないとの声も。
「あまりにケチ臭いし、大義がないバラマキだ。コメ一本の争点のほうがマシだった。自ら墓穴を掘ったようなものだ」(前出・閣僚経験者)
男の嫉妬に焼かれながらも、孤軍奮闘する小泉氏。彼の双肩に石破政権の命運がのっかかっているのは間違いないが、勢いだけの男にこの国の未来を託すのはあまりに心許ない。
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かわの・よしのぶ/’91年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、『サンデー毎日』『週刊文春』の記者を経てフリーに。主に政治を取材している
「週刊現代」2025年07月07日号より
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