衝撃ノンフィクション『近親性交』が明らかにした“家族神話”の最大タブー 著者・阿部恭子氏インタビュー「自分とは無縁の“異常な事象”と思わないでほしい」

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「家庭」は最も安心できる場所、という考えは“神話”にすぎず、実際には何が起きてもおかしくない空間である──そう説くのは2008年から犯罪加害者家族を支援する阿部恭子氏だ。阿部氏が上梓した新刊『近親性交 語られざる家族の闇』(小学館新書)は「家庭内性交」の衝撃的な内容が綴られ話題を呼び、発売早々ベストセラーに。阿部氏にインタビューした。
「母が出産しました……。僕の子どもです」
支援していた20代男性の突然の告白に、阿部氏は言葉を失った。
阿部氏は時にバッシングの矢面に立たされる「加害者家族」に寄り添う日本初のNPO法人「World Open Heart」を立ち上げ、活動を続けてきた。家族ゆえに連帯責任を問われることも多く、社会から “置き去り”にされる苦しみに寄り添うなかで徐々に明らかになったのが家族間の「性」の問題だった。
「加害者家族と信頼関係を結ぶうち、『実は……』と“家族の闇”を次々に打ち明けられてショックを受けました。なぜ家族を性のパートナーにするのか、これまで語られなかった声に耳を傾けたくなり、聞き取りを重ねました。扇情的に扱われていた家族間性交の認識を変えたいと感じるようになったのです」
『近親性交』では父と子、母と子、兄と妹など、禁断の性交を重ねる家族の現実が詳細に描かれる。
阿部氏が特に驚いたというのが冒頭の告白だ。もともとは息子の交際相手に、「呪ってやる」と書いた手紙や藁人形などを送って加害者となった母を支援していた。そのなかで息子が中学3年の頃から母と肉体関係を持っていたことを知る。
そして支援が一段落して1年後、母が息子の子を出産したという衝撃の事実を知らされた。
「この母親は夫と15年間セックスレスで、満たされない思いを抱えて一人息子の育児にのめり込んだ。支援中は母子が追い詰められて死を選ぶのではと不安でしたが、正反対の“新たな生”を生み出すこととなった。
母子に罪悪感はなく、生まれた子は息子の『弟』として育てられています。その事実を知るのは家族と私だけです」
妹が兄の子を生んだケースもある。裕福な家庭に育ち、高学歴だが就職に失敗して実家に引きこもるようになった兄と、高校生の頃に見知らぬ男らから性暴力被害を受けたが、両親に助けてもらえず兄に依存するようになった妹の話だ。
「互いにパートナーがいた時もあったけど、真に心を許すことができるのはきょうだいだけだったといいます。すでに両親は他界して、子の出自について公にはできない状態ですが、2人は愛し合ってできた子だと主張。ともに独身で同居する2人は、孤児院育ちの少女を育てる小説『赤毛のアン』のように、娘を立派に育てたいと語っていた。“近親事実婚”とも言うべき状況です」
近親性交はなぜ起きるのか。阿部氏は「社会からの孤立」と「家族の親密」がキーワードと語る。
「近親性交に至る家族の多くは社会に居場所がなく、家にこもって家族との距離が密接になっていく。その過程で、家族を性のパートナーとする事例を見てきました」
阿部氏は、様々な家庭での事例を見てきた。
「地元の名士で慈善活動家として知られた家父長的な考えの父に、14歳の頃から性的暴行を受けていた娘が、兄からも性暴力を受けていたケースがありました。
一方、親の給料が少なく生活が厳しい環境で育った娘に『ママのヒモのくせに』『失せろ、クソジジイ』などと侮辱された父が逆上し、娘を強姦しようとしたケースもある。前述の妹に子供を生ませた兄も人生に挫折して劣等感を抱くようになり、家族以外との関係性を構築できませんでした」
DVや虐待と同様に、家庭内で「連鎖」する特徴も見られるという。
「母が息子の子を生んだケースでは、この母の夫も、実の母と母子結合の経験がありました。ほかにも、幼い頃に姉に服を脱がされて肛門にモノを入れられるなどの性的暴行を受けた弟が、大人になって復讐のため姉をレイプしたり、娘が祖父と父の双方から性的暴行を受けた事例があります」
父から子の近親性交は「制裁」や「支配」「飲酒」といった動機や原因が見られる一方、母から子への場合は様相が異なった。
「正しい性行為の知識を教えるための“躾”だとの主張や『母乳をあげるのと同じ』といった意見、さらに子供を産みたいといった理由が見られた」
著書に並ぶ事例には驚かされるばかりだが、これらを自分とは無縁の“異常な事象”と思わないでほしいと阿部氏は強調する。
「近親性交が発生する根底には、閉鎖的な日本社会の性質があると考えています。犯罪加害者家族を含め、そうした日本社会から隔絶された人々が最後に残された家族に執着し、近親性交という結末を迎える例があるということです」
阿部氏の聞き取りに応じた人たちも、「近親性交」がタブー視されないことを望んでいるという。
「日本では家庭が最も安心できる場所だという家族神話や、清く正しい性活動を求める性規範が強いですが、近親性交による加害と被害をタブー視して隠蔽することは、当事者を追い詰めることにつながります。
それは近親性交において『被害者=加害者家族』となる構図とも無縁ではないでしょう。どんな状況でも被害者は隠し立てせず助けを求めていい。そのことを社会に伝えたいと思っています」
同書では重い問いが投げかけられている。
※週刊ポスト2025年6月27日・7月4日号

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