「カネを払ったのになぜ納車されないんだ!」被害者推定600人“史上最大級の中古車トラブル”の中身

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「3月23日に中古車情報で見つけたホンダ・フリード“あの販売店”で購入契約しました。27日には購入代金の44万3000円を全額、振り込みました。契約の時、『納車には最大2ヵ月かかる』と言われたので、中古車なのにずいぶん時間が必要なんだなと思いました。その後、何度かメールのやり取りをしていましたが……ゴールデンウィーク前から返事がなく、5月16日に店舗に行くと張り紙がしてありました。そこには、店が経営破綻したことが記されていました。もちろん、いまだに車は納車されていません」
広島県に住む30代男性・Aさんは、「だまされた。悔しい」と口にする。Aさんが“あの販売店”と名指ししたのは、株式会社WOOROM.(以下:ウーロン)が運営する中古車販売店『カーネル』の東広島店だ。同店は「現状渡し(納車前の整備などは行わず仕入れたままの状態で販売)」ゆえの低価格を武器に、全国に14店舗を展開している。
Aさんは5月16日以降も何度か店舗を訪れており、駐車場には購入したフリードが置いてあることを確認している。にもかかわらず、納車されない状態となっている。Aさんは直接、ウーロンの代表取締役社長・N氏へ返金を申し込んでおり、同氏も返金の約束をしているというが、現在まで何度も反故にされている状況が続いている。
Aさんと同様の「未納車トラブル」は、筆者が独自入手したデータをもとに調べたところ全国で約250台にも達している。
さらにウーロンではカーオークションの代行会社『カーオークション.jp』も運営しており、こちらも推定150名~200名の被害者が存在する。保証料の返金トラブルなどを踏まえると、2社合計の被害者は500~600名を超えるとみられる。なかにはごく一部、わずかな金額を返金された例もあるが、ほとんどは返金も納車もされていない状況だ。一般ユーザーが被害を受けている中古車トラブルとしては史上最大規模と考えられる。
『カーネル』と『カーオークション.jp』を合わせ、被害者600名以上という史上最大級の中古車トラブルを起こしている『ウーロン』。同社は’05年に現在の代表であるN社長によって設立された。カーネルは第一号店を静岡に出店するや、神戸、岡山、北九州、熊本と全国14店舗を展開している。’08年には株式会社トロイカからカーオークション.jpを事業譲渡されてオークション代行事業を開始。日本最大級に位置付けられていた時期もあった。
取材の中で明らかとなった、主なトラブルを箇条書きでまとめておく。
.ーネルで中古車を購入したが半年近く経っても納車されない。融資会社が車の引き上げを行っている
購入した中古車の登録状況を調べたら、なんと「解体処分」されていた
中古車契約の際、オプションで保証に入り保証料も一緒に納めたが、実は保証料が保証会社に支払われておらず保証修理が受けられなかった
ぅーオークション.jpで愛車を売却したが、その代金が支払われない
ゥーオークション.jpで希望の車を購入してもらい入金したが納車されない
Εーオークション.jp利用に関する保証金を返金してもらえない
なかには、N社長へ連絡しても一切対応されないことから、被害者が警察に被害届を提出した案件もあるという。
さらに、従業員への給料未払いも深刻である。カーネルの西日本の店舗で今年5月末まで勤めていた男性従業員が明かす。
「全国の店舗で、店長は今年1月から、従業員は少なくとも2月以降の入金がありません。それぞれ120万円~200万円の被害です。退職しても、離職票を送ってくれないので、失業保険がもらえないんです。
店舗の運営費や車両の登録費などがウーロンから出ないので社員が立て替えている店も少なくありません。さらに、少しでも被害者を減らせればと自腹で納車作業をするスタッフもいます。N社長にも数えきれないくらいメッセージを送っていますが、その都度、『4月末には入金できる』『〇〇社からの融資が来週3億出る』など期待を持たせるウソをついて結局、いまだにまったく支払われていないのです」
関係業者への支払いもほとんど行われていない。オークションの出品料や陸送会社や行政書士、保険会社への支払い、中古車情報誌への広告掲載料など合計すると5000万円近くに上るとみられる。
今回のトラブルの責任は、言わずもがなN社長にある。しかし、彼は返金を求める被害者や給与の支払いを求める従業員に場当たり的な返事をするばかりで、トラブル発覚から1ヵ月が経過しても、なんら具体的な対応をしていない。それどころか、資金が焦げ付くなかでも販売や買い取りを継続し、さらに被害を拡大させた責任があることは言うまでもない。
近年、カーネルでは納車まで1~2ヵ月かかることも珍しくなかった。中古車なら納車まで1週間程度というのが基本だ。それがなぜこんなに長くかかるのか? なぜ納車できていない車が多数あるのか? 取材を進めるうちにカーネルが末期状態の中古車店によくある特別な融資『アセット・ベースト・レンディング』(動産担保融資、通称ABL)を受けていたことがわかった。
カーネル関係者によると、同社では昨年2月からABLを受け始めたという。これにより、在庫がすべて会社ではなく融資を受ける金融機関(融資会社)の管轄となるため、簡単には売買ができなくなる。納車までのフローも、「客がカーネルに入金」→「カーネルが融資会社に入金」→「融資会社から車検証や名義変更に必要な書類を店に送付」→「名義変更などを行い客に納車」……となる。大手中古車販売店の関係者がABLについて語る。
「車は展示場にあるのですが、形式上の所有者は金融機関になっているというパターンです。信用力の低い中古車屋が融資を受けるための最後の手段です。ABLを使う会社が、すべて信用が低いわけではありませんが、まともな中古車会社なら使いません。そもそも金利が高いですし、かなり具体的な再建計画がない限り、さらに資金が焦げ付くことは目に見えているからです。業績が悪化して会社の信用力が低下し、銀行が在庫担保を要求したんでしょうね」
カーネルの方法はまさにこれだ。展示場にたくさんの中古車が置いてあれば「在庫が豊富で活気ある中古車店」というイメージも与えられる。そしてこの豊富にあった在庫車両は、客が決まっていた車両も含め、融資会社の指示によってこの数日間でほとんどがオークション会場に移動している。もちろん換金することが目的だ。
渦中のN社長は事態の責任をどう考えているのか。彼の携帯電話を鳴らすと、以下のような回答があった。
「6月末までに必ず資金調達ができる。2社から融資を受ける予定だ。お金が入れば全員に返金ができてすべてが解決できる。報道が邪魔をして資金調達に悪影響を及ぼしているので非常に腹立たしい限りだ」
電話の中では再三にわたり、「資金調達ができるので返金可能」と答えたN社長。筆者と同様に多くの被害者や元従業員からの問い合わせに対しても、「6月20日から返金が始まります」「6月中には全額返金して給料も全額入金する」などと回答しているという。
何度も引き延ばしてきた返金や未払金への対応は、本当に実現するのだろうか。
取材・文・PHOTO:加藤久美子

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