茨城県那珂市の常福寺で5月、さい銭が盗まれる事件が起きた。
自転車で逃走する男(60)を、流れるような「連係プレー」で取り押さえたのは、現場に居合わせた住民ら3人だった。那珂署の瀬端理之署長はお手柄の男女3人に感謝状を贈り、「勇気を持って犯人を捕まえてくれた」とたたえた。(古屋敷周)
「ガタン」。5月15日の昼過ぎ、近くで草取りをしていた寺の用務員の林恵美子さん(52)は、境内のさい銭箱がある方向から聞こえた音に違和感を覚えた。慌てて目を向けると、「チャリン」という音とともに全身黒い服を着た不審な男がさい銭箱の片方を持ち上げて傾けていた。「何をやってるんだ」。林さんが叫ぶと、男は自転車に飛び乗った。林さんは草取り鎌を持ったまま、「泥棒!」と声を上げながら後を追った。
寺に隣接するこども園で勤務中だった保育教諭の前川晃太朗さん(23)も、叫び声につられて外に出た。目に入ったのは、自転車で逃げ去ろうとする男の姿。「泥棒だ。絶対に逃がしちゃいけない」と走って追いかけたが、寺から約600メートル離れたJR水郡線瓜連(うりづら)駅に向かう途中で見失ってしまった。
その時、軽トラックに乗り込んで寺から追跡していた林さんは、線路近くで男の姿を再び発見。追いついたところで車から降りて男を確保しようとするも振り払われ、再び「泥棒!」と周囲の助けを呼んで自ら110番した。
その声に反応したのが、パート従業員小橋恵理子さん(33)。職場から飛び出し、目の前の路上で口論している男と林さんを見つけた。自転車を押さえたところ、男が今度は走って逃げたため、小橋さんも追走。追いついて振り切ろうとする背中を手でつかんだ。男は「もう逃げないよ」と観念。その後、周囲にいた住民らで取り押さえた。男は窃盗の疑いで急行した那珂署員に逮捕された。
今月5日、感謝状を手渡された前川さんは、「今は地域のつながりが希薄になっているが、何かあったら駆けつけるという瓜連地域の結びつきの強さを再認識した」と笑顔で語った。瀬端署長は「積極的に助け合う人がいることは心強く、地域の防犯ができている」と評価し、「犯人は凶器を持っている可能性もあるので、できるだけ早く110番してほしい」と呼びかけた。
常福寺の小笠原純生(じゅんしょう)住職(83)は「さい銭は参拝してくれた方の願いがこもったお金なので盗むのはやめてほしい」と話している。