8歳娘の左眼「矯正しても視力が出ません」…母は呆然 子どもの「弱視」治療にはタイムリミットが→精密検査を放置する親の割合は1/4も

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「お母さん、この子、左眼が見えていません」
【写真】弱視の子どもは、こんなふうに見えています
筆者の娘が8歳の時、目の痒みを訴え訪ねた眼科で「最近ちょっと見づらい」と言ったことから視力検査をすることに。すると医師からこう告げられ、左眼が「不同視弱視」であることが判明しました。6月10日は『こどもの目の日』、今回はそのときの体験をもとに、眼科医に取材しました。
日本眼科医会によると、子どもの目の機能(視力)は、生後から8歳までに急速に発達し、6~8歳頃までにほぼ完成するとのこと。この時期に何らかの要因で視力の発達が妨げられてしまい、視力が未発達のままの状態であると「弱視」に。積極的に治療をしなければ、一生涯メガネをかけてもコンタクトレンズを使用しても十分な視力を得られません。弱視の子どもの割合は約50人に1人程度と言われています。
突然の医師からの宣告に私自身頭が真っ白に。3歳児健診時も就学時健診時も問題なし。客観的に見ても目の様子に特に異常は見られず、学校でも家でも困っている様子はなく、本人はごくごく普通に生活していました。
医師からは「右眼はよく見えてるから何の問題もなく生活できてたんだろうね。もうタイムリミットと言われている歳だし、眼鏡作成の補助金も1回しか下りないけどできる限りのことを一刻も早く積極的にやってみよう!頑張ってみよう!」とのことで、その日のうちに医療用眼鏡の作成へ。
眼鏡が完成してからは見える右眼を隠すアイパッチを使った訓練がスタート。定期検診を重ねながら娘の努力の甲斐もあり、約2年で矯正視力が両眼ともに1.2まで出るようになりました。
今となっては「視力が出て良かった…」と思うと同時に、何度も眼科へ行く機会があったにも関わらず視力検査を受けていなかったことへの後悔は消えず、幼少期の大切な時期に気づいてやれなかったことを考えるといまだに胸が苦しくなります。そして初めて眼鏡をかけた時の「わ~!めっちゃ見える!!」と感嘆の声をあげた娘の姿に「ほんとにごめんね…」と思ったことを忘れることはできません。
以前は3歳児健診で、主に自宅での視力検査→健診での問診等で確認していましたが、現在は、弱視の大きな原因となる「屈折異常」を検出する「屈折検査」を併用することで弱視の発見が向上しているそう。
この経験をふまえて、一人でも多くのお子さんたちが「弱視」の早期治療に辿り着けるためにはどうすれば良いのか? 親ができることは? 現在の自治体の健診事情は? 日本眼科医会副会長であり眼科専門医の柏井真理子先生にお話を聞きました。
――子どもの「50人に一人」というのはかなり多く感じます。発見できるようになったきっかけは、やはり「3歳児健診」ですか?
斜視や先天性白内障など外観から気づきやすい弱視以外は、ほぼ3歳児健診などのスクリーニングでしか発見できないと思います。
幼児は視力0.3程度ぐらいあれば特に不自由なく生活しているような印象です。また、「不同視弱視」は片目が普通に良く見えるので一番発見しづらいかと思います。3歳児健診以外では幼稚園や保育所での視力検査などで発見されることもあります。
――「弱視」の考えられる原因は? 遺伝と関係は?
人は、生後から「くっきり見る」という体験の積み重ねで視力が発達してきます。また網膜に映った映像は視神経を介し頭脳に伝達されます。眼から受け取った映像の情報を、脳が処理することで視覚が発達していくのです。つまり「視覚の発達」は「脳の発達」でもあるのです。
弱視は「くっきり見ること」が妨げられることによって生じ、原因としては大きく4種類あります。
ゞ折異常弱視ピントが網膜にうまくあわず、特に強い遠視や乱視があると視性刺激が少なく視力の成長が止まってしまい、くっきりとした像が網膜に映らないために生じる弱視。
不同視弱視屈折異常弱視の中で、左右の屈折の差が著しい場合、屈折異常の大きい方の目が弱視であること。
斜視弱視斜視があり、どちらかの目しか使わない場合、斜視の方の視力が充分発達しないことから生じる弱視。
し疎岾仄彙納綮先天性白内障や瞳を覆ってしまうほどの強い眼瞼下垂など外から視覚刺激が物理的に制限されてしまうことによって生じる弱視。
弱視は遺伝しないとは言えないようですが、確率的にはかなり低いと思います。
――娘も一番発見しづらいといわれる「不同視弱視」でした。
まずは3歳児健診で発見することが一番なのですが、今までは3歳児の自宅での視力検査の結果に頼りながら弱視の検出をしていましたので多くが漏れていたと思われます。保護者が片方ずつ自宅で視力検査を確実に実施するのはなかなか難しく、どうしても正確さに欠けてしまいます。
最近は弱視の大きな原因である屈折異常を検出できる「屈折検査」が3歳児健診に導入された自治体が増えましたので、今までにくらべ弱視を見つけやすくなったと思います。
――「屈折検査」が弱視の早期発見につながっているのですね。
扱いやすくほぼ正確に測定できる屈折検査機器が輸入されてからは、熱心な地域(群馬・高知・富山県など)の眼科医が3歳児健診で屈折検査を導入し、弱視発見率が増加しました。
その調査結果をもとに国に3歳児健診での屈折検査導入を本会から強く要望した結果、令和4年度から自治体が屈折検査機器を導入する際に厚生労働省から「母子保健強化事業」として補助金が出ることになりました。現在は全国で9割程度の屈折検査導入率となっています(※)。
――健診で「要精密検査」となった場合は、速やかに医療機関を受診するべきだと思うのですが、なかには受診されないお子さんたちも?
「要精密検査者」の1/4が未受診であることがわかっています。これは屈折検査導入以前もほぼ同じ状況です。
各自治体においては、3歳児健診時や結果返送の際などに必ず眼科を受診するよう声をかけていただきたいです。また、社会での弱視の認知度をあげるため、本会でもポスターや動画を作成しているのですがまだまだ不十分かと思っています。
――弱視が見つかり、治療用眼鏡をかけるお子さんたちの多くは行動が活発になる幼少期。眼鏡の装着を嫌がるお子さんも多そうです。
保護者の方には、「今なら弱視が克服できる、今しかない」としっかりと視力の発達できる期間について説明しています。「こどもが眼鏡なんて可哀想」「無理」などと諦めず、心を鬼にして、お顔は笑顔で、しっかりと子どもに眼鏡をかけてもらえるよう努力していただきたいです。
――親として、できる対策はあるのでしょうか?
視力の良いお母さまでも伊達メガネをかけて「ママもかけるから〇〇ちゃんも一緒にかけよう」とか、大好きなぬいぐるみにアップリケで眼鏡を作ったり、いろいろと考えてらっしゃる様子も伺っております。
周囲の大人や園関係者の方は、眼鏡をかけている幼児に「格好いい」「可愛い、素敵」「頑張っていて偉いね」と暖かい声をかけてあげるのも良いと思います。視力を成長させるために頑張って眼鏡をかけている姿をぜひリスペクトしてあげてください。
また通園している園での理解がかなり大切です。弱視のことをしっかりと理解している園では、家庭では眼鏡を嫌がって、なかなかかけてくれなくても園ではかけるという幼児もいました。
――見守る側の理解が必要ですね。
反対に「弱視の眼鏡をしている園児の入園を拒否した」というひどい園があった報告を受けたこともあり、日本眼科医会や小児眼科学会、日本弱視斜視学会など眼科団体が連名で弱視の眼鏡の理解をホームページ上で求めました。
また祖父母の理解がなく「こんな小さな子に眼鏡なんて!テレビやスマホ見せ過ぎじゃない?」と親を責めることもあるそうです。絶対避けていただきたいことです。
根気のいる治療ですが、周囲にいる大人が励まし、暖かく見守ることが大切です。一生の視力を、生後の数年でしっかりと成長させる大切さを皆様に理解いただければと願っております。
――治療方法や訓練方法もお子さんたちそれぞれの症状に合わせて様々かと。
視力の発達できる期間にしっかりと治療すれば、多くの弱視の子どもが視力を獲得できるので、毎日毎日を大切に治療に取り組んでいただきたいです。多くの場合、見える方の目をアイパッチなどで隠し、弱視の目をしっかり使う訓練を積み重ねていきます。
ある調査で、弱視治療を経験した大人に過去の治療についての感想を尋ねた際、幼少時期に眼鏡を装用していたことは苦痛の記憶はないようですが、「アイパッチは辛かった、嫌だった」というネガティブな記憶を多くの方がもっているとのことを聞いたことがあります。
小学生ぐらいなら、アイパッチの必要性がある程度理解でき、前向きに努力されると思いますが、3歳児ぐらいではなかなか難しいので、アイパッチしている時間帯は「ママやパパと楽しく本を読む、ゲームをする、お絵描きをする、テレビを見る」など大好きなことを楽しみながら取り組むことができればと思います。
――必要な治療や訓練に前向きに取り組めたり、それが生活習慣となれば一番良いですよね。
医師からは目の状態によって、「1日〇時間のアイパッチが必要」と指示があると思いますが。時間を何回も分けて実施してもよいですし、最近はアイパッチもいろいろと種類があるので (肌にばんそうこうなどを貼るのではなく、めがねに可愛いカバーをかけるなど)「ちょっと窓を閉めようね」などと話しながら、たとえ短時間でもアイパッチすることが大切です。
アイパッチをするときは褒めて楽しく訓練ができれば嬉しいです。カレンダーにアイパッチできたらご褒美シールを張るなどして、主治医に見せて主治医から褒めてもらうのも子どもにやる気を与えるかと思います。いろいろ工夫することが大切です。
――もしも訓練の継続が難しく弱視が矯正できなかった場合や、発見が遅く治療や訓練が既に手遅れだった場合、その後何らかの治療を受けたり矯正を行っていくことは可能なのでしょうか?
原則、8歳ぐらいまでが弱視の治療といわれていますが、なかには諦めずにアイパッチなど治療や訓練を継続すると、少し視力が獲得された話などもありますので、いつまで治療を続けるかは主治医と相談されればよいと思います。
たとえ1.0まで充分成長できなくても0.7獲得できれば運転免許証も取得できます。最後まであきらめないことも大切です。ただ、両眼で見る力(両眼視)が得にくく立体視(3D)が乏しいこともありますから大型免許や2種免許などは取得は難しいかもしれません。
また大人になって弱視(特に不同視弱視)の方が「視力のよい目」に外傷などで視力低下を負った場合、今まで続けてきた仕事ができなくなることもあるので、良い視力の方の怪我に絶対に気を付けることです。
そして、これは弱視でなくとも必要なことですが、緑内障などの眼疾患に罹患していないか、中高年では新たな眼科疾患の早期発見が大切です。
――とにかく早期発見、諦めず治療・訓練を継続することが大切なのですね。
人生100年時代、人間の生活では8割以上が目からの情報であると言われています。生後たった数年で一生の視力が決定してしまうのです。多くの弱視は早期発見さえできれば ほぼ就学時までに視力を獲得することができます。ぜひ就学時までにしっかりと視力を獲得して入学しましょう。子どもは自ら「見えない」とは言いません。視力0.3程度あれば周囲の者は子どもが見えにくそうとは気づきません。
3歳児健診の視覚検査は大切なスクリーニングです。もし「要精密検査」であれば必ず眼科を受診してください。将来を担う子どもたちのために、目の成長を皆で見守っていければと思います。
◇ ◇
娘が3歳児健診を受診した時から数年で「屈折検査」が導入され、全国的にも機械が拡充している状況を、当事者の親として嬉しく思いました。お話を伺った柏井先生をはじめ、眼科医会の先生方の子どもたちの目の健康を願う思いとご尽力が実を結んだのだと感じます。
視力1.0に届かない「弱視」の早期発見・治療や、低年齢化する近視発症の予防にとって「6歳で視力1.0」はとても大切な節目の数値なのだそうです。そこで、日本眼科啓発会議では、2023年から6月10日を『こどもの目の日』と制定し、子どもの目の発達に関心を持ってもらうよう呼びかけています。
3歳児健診時には目の検査結果をしっかり確認。生活の中でもお子さんの仕草や視線で心配事があれば早めに眼科に相談してみることが大切ですね。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)

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