5月16日、人気キャラクター「ちいかわ」とコラボしたマクドナルドのハッピーセット、第1弾が発売された。当初、マクドナルドは「2種あわせて、おひとりさま4セットまで」と個数制限を設けつつ、転売や営利目的の購入を遠慮するように注意喚起していたが、一部の店では行列に。さらに、転売屋が買い占めを行っている光景がネットに次々にUPされ、炎上する事態となった。
【写真】第1弾の“ちいかわ”ハッピーセットを開封した結果当たったファン垂涎のグッズたち
ちいかわコラボのハッピーセットは、第2弾が23日から発売されたが、なんと翌24日には発売終了のアナウンスがなされ、マクドナルドは謝罪する事態になった。当初は転売屋をバッシングする意見が少なくなかったが、早々と発売終了する事態となってしまったことで、在庫を十分に用意していなかったマクドナルド側を批判する声も相次いだ。マクドナルドはこれまでも何度か、同様の事態を引き起こしているためである。
ところで、このちいかわコラボのハッピーセット、第1弾のときは、発売直後なら比較的容易に入手可能であった。筆者が第1弾の発売に合わせて各地のマクドナルドを調査して回ると、埼玉県や千葉県のベッドタウンのマクドナルドでは、翌日の17日でも並ばずに買うことができた。18日の昼過ぎには売り切れる例が多かったが、それでも店によっては購入できた。
17~18日、ハッピーセットを買ったついでに店員に話を聞いたところ、「行列ができた」というコメントもあったものの、「売れ行きは凄かったが、思ったほどではなかった」「特定の店になぜあんなに転売屋が集中していたのか、謎です」「万全の体制で備えていたが、それほど人が来ず、正直言って拍子抜けしてしまった」などと言われたほどである。この頃はまだまだ余裕があったのだ。
ところが、第2弾は翌日には売り切れになってしまった。明らかに、第1弾よりも売れるスピードが速かったと思われる。埼玉県内の筆者の近所にあるマクドナルドでも、第1弾は翌々日まで残っていたが、第2弾は翌日の朝8時には既に完売していた。この原因を「転売屋が買い占めたせいだ」と指摘する人は多い。だが、店員に聞いた話をもとに考えてみると、転売屋の影響はそれほど大きくなかったと推測される。
「もちろんお客さんを見ただけで転売屋かそうでないのか、判断するのは難しいのですが……ただ、うちの店は外国人の姿は見られませんでしたし、普通の家族連れや、ちいかわのファンと思われる、バッグにグッズをつけた女性客が大半でした。おそらく、早く買わないと売り切れると思って買いに走った人が多かったのではないでしょうか」
こう話すのは、埼玉県内のマクドナルドのアルバイト店員A氏である。A氏によると、明らかに転売屋よりも一般客が多かったという。また、数々の物販を経験してきた百貨店店員B氏は、「転売屋が全体の売れ行きに与える影響など、微々たるもの」と語る。曰く、単純に日本人は流行りものが好きで、他人が持っているのを見ると欲しくなってしまう。そういった一般客が売り上げに与える影響は大きいのだという。
「転売屋は忌み嫌われる存在ですが、転売屋ばかりが商品全体の何割も買い占めできた例など、聞いたことがありません。どんなに多くても3%程度だと思います。断言しますが、商品を実際に買っているのはほとんどが一般のお客様。ニュースやテレビ番組で騒がれ、ブームや品薄が報じられると商品が欲しくなるのは日本人の習性じゃないですか。これまで何度も経験してきたことの繰り返しなので、特段驚くことではありません」
数年前のコロナ禍を思い出してほしい。マスクや消毒薬を転売する転売屋は確かに存在したが、買い占めに走っていたのはごく普通の一般人であった。コロナ禍では、「トイレットペーパーが品薄になる」という情報が流れたこともあった。すると、トイレットペーパーが店頭から消えた。同じ光景は1973年の石油ショックの時にも起こったが、一般人の買い占めパワーは、転売屋をはるかに凌ぐものである。
思えば、昨年にコメ不足が報じられた時も、一時的にスーパーの店頭からコメが消えた出来事があった。これは明らかに、一般客が不必要な分までも我先にと買い占めを行ったためであった。今回、ちいかわのハッピーセットが早くも売り切れた原因もそうした消費者の行動にあると、百貨店店員B氏は次のように推測する。
「はっきり言ってマスコミが煽りすぎた一面が大きいと思います。日本人は流行りものに飛びつきやすいうえ、品薄、限定という言葉にとにかく弱い。人気があると言われたら、興味がなくても“とりあえず買っておくか”と考える人は多いんです。長年接客業を行ってきた経験で推測すると、今回のハッピーセットはちいかわに興味がないのに“話のネタになるか”という感覚で買った人も相当数いるはずです。
一時期、高級腕時計が入手困難になったことがありました。これも従来の時計好きではなく、“ニワカ”な人が“流行っているから”という理由で買うケースが増え、品薄になったのが実情です。同時期に高騰したポケモンカードなども同じですね。そういった日本人の性格を考慮し、マクドナルドもちいかわコラボは潤沢に数を準備しておくなどの対策をすべきだったと思われます。何度も謝罪する事態になっているのですから、経験から学ぶべきでしょう」
さて、ちいかわのハッピーセットであるが、既にメルカリでは値崩れを起こし始めた。1個400~500円程度でも買えるようになっており、転売したところでほとんど儲からなくなっている。ちいかわに限ったことではないが、限定商品で長くプレミア価格で取り引きされる商品はごく稀である。日本人は熱狂しやすい一方で飽きるのも早い。よほど特別なものでない限り、数があるものであれば、時間が経てば定価よりも安く買えるようになる。
また、昨今の転売屋は、転売の情報サイトなどで共有された情報をもとに買い占めを行う。女性週刊誌にしばしば転売やせどりをして金を稼ぐことをすすめる記事が掲載されているように、主婦層にも転売に手を出す人は多いようだ。しかし、そういった転売屋は、専門的な知識が著しく低い。そのため、闇雲に買いすぎて在庫を抱えてしまい、値崩れを起こした頃に投げ売りしている例も少なくない。
転売屋も薄利多売な商品を機械的に仕入れて売るだけでは、利益を生み出すことが難しくなっている。そのため、素人が安易に手を出すのは危険といえる。だが、マクドナルドがそうであるように、地方在住者は自宅近くに店舗がないケースが多く、交通費と時間を考えると転売屋から買ったほうが安いケースもままある。そのため、転売の需要はある程度はなくならないとも思われる。
そして、転売が横行する背景には、企業側に問題があることも少なくない。マクドナルドは過去に「星のカービィ」とコラボした案件など、ハッピーセットでたびたび炎上騒動を起こしているのだが、今回の事態をみて、真剣に対策を取ったといえるだろうか。無論、ハッピーセットは子供たちがハッピーにならないようでは本末転倒である。今後、大型のコラボ案件では何らかの対策をするべきであろう。
取材・文=宮原多可志
デイリー新潮編集部