偽学生証を使った「なりすまし大学生」が成人向け動画出演で風評被害、反社が関与か 大学側は風評拡大を懸念して”泣き寝入りするしかない”現実

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根拠のない噂やデマによって経済的・社会的被害を受けることを「風評被害」と呼ぶ。それが社会的評価を低下させるものだとして法的に風評を否定させ償わせることはできても、いったん広まったことを訂正、変更させるのは困難だ。ライターの宮添優氏が、成人向け動画への「なりすまし大学生」が出演が広げた被害についてレポートする。
* * *「ある日突然、一般の方数名からメールや電話で”本学の生徒がアダルトビデオに出演している”などといったご連絡をいただきました。情報を元に確認をしましたが、本学にはそのような学生はいなかったのです。しかし、SNS等にはすでに、本学の学生が出演している、といった書き込みもございました」
鎮痛な面持ちで取材に答えたのは、首都圏にある私立X大学の職員だ。職員が見せてくれたのはそのビデオの一部で、ネットなどで販売されているというが、モザイク処理などの施されていない、日本国内では制作や販売が禁じられている違法なものであった。
問題の映像は、X大学の近くの駅から歩く女性へのインタビューから始まっていた。出演女性は「近くの大学に通う」などと話し、大学敷地内をその女性が歩く様子を遠くから撮影したものも使われている。女性は決して「X大学に通っている」とは言わないが、映っている場所を調べればすぐに「X大学」であることはわかるため、制作者が意図的に「X大学の学生」を想起させるようにしていることは明らかだ。女性がこの大学の関係者ではなく、撮影目的で無断で立ち入っていた場合には、何らかの罪に問われる可能性だってあるだろう。さらに、本物そっくりの学生証が何度も映し出され、そこには確かに「X大学」と記載されていたのである。
だが前述のように、出演女性が名乗る氏名の学生は在籍していない。学生証はよく出来たコピー、偽物の可能性が極めて高い。そして、女性が語る内容などがフィクションだという説明は一切、映像には出てこない。見る人にX大学の女子学生だと思い込ませるこのやり方は、悪質な「なりすまし」と言えるだろう。
視聴者の間違った認識を誘う手法そのものは、長年、業界で横行してきたもので目新しくはないという。かつて、大手制作会社に所属し、数百本にのぼる作品の制作に携わってきた元アダルトビデオ監督の男性が振り返る。
「”なりすまし”とまではいいませんが、出演女性が有名企業に勤務しているとか、有名大学の学生だという”設定”で撮影することはよくありました。しかし、あからさまに実在する企業名や学校名を出したり、実際の企業や大学の私有地内で撮影するなどはしません、逮捕されますから」(元アダルトビデオ監督の男性)
しかし、男性が監督業を引退して以降、特に正規で販売されるアダルト作品の売り上げが落ちて業界全体が下降気味になると、色々な点で歯止めがきかなくなっているという。違法な撮影や販売をする業者がのさばるだけでなく、正規の業者にも、不適切な撮影手法に手をだす不届き者が増えたのだと嘆く。
「売れなくて金がないので、大手と言われる企業でもスタジオ代やロケ代をケチって、許可を取らずに公有地や私有地で勝手に撮影して問題になることが増えました。最近では、公立公園の門前でアダルト作品のパッケージを勝手に撮影して問題になっていましたが、あれも業界大手。大手の作品の中にも”なりすまし”っぽいものは散見されます」(元アダルトビデオ監督の男性)
元監督が関わってきた分野の映像作品も、多くの人が親しんでいるドラマや映画のように見る人へファンタジーを届けるものと言えるだろう。だから、出演する女性に、その人自身の現実とは異なる職業や特徴を演じることそのものは許容範囲だと考えられる。だが、本物だと錯覚させることを狙っているのだとしたら悪質だし、「なりすまし」として非難される類いのものだ。もっとも、この手法が引き起こす被害を考えると「なりすまし」という言葉での形容は、響きが軽すぎるかもしれない。前出、X大学職員はその甚大な影響についてこう訴える。
「本学には女子学生も多く、親御さんは大変心配されているし、本学のイメージが毀損され、受験者や入学者数にも大いに影響があると考えます。ただし、対応できる策がほとんどない、というのも現実でした」(X大学職員)
当該の映像は、撮影も編集も、その販売方法も、倫理的にも許容しづらく法的に逸脱した部分がある手法を用いて制作されており、平気で違法なことをしでかす人たちによって世界中にばら撒かれるように販売されている。こういったビジネス展開は組織的に行わないと難しいものなので、「国内の反社会的勢力」や「海外の犯罪グループ」の関与も大いに疑われる。そのためX大学としても弁護士や警察と相談したが、「ことが大きくならないように」を最優先に考えると、問題を公に認めることそのものが解決よりも先に悪評を広げることになりかねないという現実に直面させられた。その結果、特にこれといった対応をすることもなく、静観することになった。そう話すと、X大学職員の男性は静かに唇を噛み締めた。
何の関係もない一般市民の生活を侵食する、裏側のビジネスに関わっているのは、いったいどんな人たちなのか。
「相手は暴力団やギャング。名前は絶対に出せませんよ」
筆者の電話取材に応じた都内のフィットネスジム経営者は、開口一番こう告げた。男性が経営するジムのインストラクターが制服としているユニフォームを着用した女性が、アダルトビデオに出演していたという情報を得ての取材で飛び出てきた言葉は、怒りと恐れが混じったものだった。経営者が何よりも恐れているのは「報復」だという。
「お客さんから教えてもらって、私どものユニフォームを着た女性が出演している映像を見ました。もちろん、すぐに社内調査して、女性がスタッフや社員でない無関係の女性であること、撮影場所が当社のジムでないことは確認し”なりすまし”であると確認しました。しかし、映像はネットでしか販売しておらず、窓口もネットしかない。さらに調査したところ、映像の制作や販売に海外のギャングや日本の暴力団が関与している可能性も判明しました。会社としても、そうした人々に対応はしないと決めました。脅されているわけでもないですし、もちろん悔しい気持ちはありますが」(ジム経営者の男性)
今回、無関係の企業の制服を着用させた女性を出演させたり、特定の大学に在籍していることを匂わせる女性が出演していた映像を制作、配信していると思われる海外企業と日本国内の関連会社にコンタクトを試みた。ほぼ「無視」ではあったもののいくつか返答があった。だが、そこには「パロディ」「あれを信じている人はいない」という、作成側の身勝手な意見ばかりが羅列されているだけで、そもそもの違法性を突いても「逮捕上等なんですよ」とうそぶく文面を送りつけてきた運営関係者もいた。
長年かけて築き上げた信用や信頼が毀損されたり、それに携わってきた人々の大切にしたいという思いには、一切関心がないというような態度に筆者も怒りを覚える。しかし、現状は泣き寝入りするしかない。せめて、犯罪収益を得られないような仕組みはつくれないものか。

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