退職代行を使うと「逃げ癖」がつくのではないか。長期的に見たとき本人にマイナス影響があるのではないか……。退職代行サービスが存在感を増すのにつれて、不信感や疑問がつのる中、「退職代行モームリ」を運営する株式会社アルバトロス代表取締役・谷本慎二氏は何を思うのか……。
自身も過去にブラック企業に苦しめられた経験のある、ウーバー配達員ライターの佐藤大輝氏が、同社の情報発信方法や、自社で退職代行を使われた際の心境などを、取材した。
佐藤:御社の情報発信について伺います。御社は渋谷・新宿でアドトラック(トラックの荷台部分に広告を設置して、街中を走行することで宣伝を行う広告手法)を走らせているようですが、宣伝方法に否定的な意見がネットには散見されます。谷本社長の中で「ちょっとやり過ぎたかな」などと思う部分はありますでしょうか?
谷本:あれに関しては「おそらく半分くらいの人から叩かれるだろうな」と思いながら始めたんですけど、そこまでじゃなかったなって。(叩いている人は全体の)2割くらいかなと。叩く人も含めて拡散してくれているので、僕としてはサービスの認知が広まってありがたい。今後も面白いアイディアがあったら取り入れていきたいです。ただし退職代行モームリの認知、モームリは企業の敵でないことはかなり広まったと思うので、今後はサービスを広めるためというより、純粋に好奇心で色々仕掛けていきたいです。
佐藤:御社は「つり革広告」や、最近だと退職者専用サプリ「モープリ」を販売されてますが、なにか次の好奇心、温めているアイディアなどがあれば教えてください。
谷本:実は5月から渋谷で、弊社のサービス「セルフ退職ムリサポ!(退職代行に頼らない、自分で退職を確定させるサポートを行うサービス)」のアドトラックを出す予定なんです。これまで通り退職代行サービスを広める「モームリ」の歌を流しながらトラックが走る一方で、「退職代行なんていらねえぞ」といった歌が流れるトラックも走ってくる……。対立するはずの2つのサービスが、同じ会社から生まれている「矛盾」「交差」がめちゃくちゃ面白いと考えています。
佐藤:アドトラック以外で、何か面白いアイディアはありますか?
谷本:「オマモームリ」を作りたいなとは考えていますね。お守りの中を開いたら、モームリのQRコードが書かれている。そうすれば本当の「お守り」になるんじゃないかなって。
佐藤:あの、こういったユニークなアイディアって社内みんなで決めてるんですか? (同席している)執行役員の川又さん、もしよければ教えてください。
川又:アドトラックを含め、社長発案が多いです。いったいどこから(こういったアイディアを)拾ってくるんでしょうね(笑)。私たちとしては毎日刺激があって、楽しく過ごしてます。谷本のようなアイディアマンに私もなりたいです。
佐藤:ユーモアある宣伝、マーケティングの効果もあり、数ある退職代行業者の中で、後発企業の御社が現在業界トップの位置にいます。この事実について、あまり面白くないと感じる声もあるようです。ここに対して谷本社長はどのようにお考えですか?
谷本:退職代行業者の方から批判をいただくこともありますが、同業者で争っても無益と言いますか、その姿を見た人たちからすると「退職代行の質ってやっぱり低いのかな」といった誤解、印象を与える気がして……。自分たちの評判を、自分たちで下げる必要はないのかなって。
そもそも僕は退職代行サービスを切り開いた方、今現在もサービスを提供している方を尊敬していますし、退職代行に限らず、経営者や創業者の方を尊敬しています。
佐藤:退職代行サービスに否定的、懐疑的な経営者の方は少なくないようですね。退職代行を使われることに、ショックを受ける方も多いそうです。
谷本:僕も経営者なので、退職代行を使われたときの気持ちは痛いほどわかります。僕たちはこれまでに計4名、退職代行を使って辞めていった人がいるのですが、退職代行を使われないよう、やれることは全部やっていたつもりだったので、そこに対する悲しさや辛さはありました。
佐藤:社員は家族、といった考えの方もいるでしょうから、難しい問題ですよね。
谷本:僕としては、みんなでチームを組んで頑張ろうぜみたいなタイプなんですけど、ここまで会社が大きくなってしまうと(従業員数約70名)やり方を考えなきゃいけない段階なのかなって。やっぱり社長は社長なので、僕が(他の従業員と同じフロアに)いることで、プレッシャーを感じてしまう従業員も出るかもしれない……。こういった理由もあり、最近は社長室で一人で過ごす時間が増えました。正直、寂しいです。
佐藤:谷本社長は学生向けの講演会もやられてるそうですね。
谷本:弊社は今そこに力を入れてて、今後の予定だと、大学生向けの講演会が2回。高校生向けの講演、授業ですかね、こういったお話も頂いています。適切な会社の選び方などを学生に伝えられれば、早期離職の問題を解決できるし、僕が目標にしている「退職代行のない社会」の実現にも近づくことができる。今後は「労働者の教育」に力を入れていきたいです。
佐藤:それ、ものすごくいいですね。退職代行の悪いイメージ、風向きが変わりそうな予感がします。なおこれは補足ですが、谷本社長は2025年4月のX(旧Twitter)の投稿で、〈大学の講演の際「みなし残業を説明できる人」と聞くと約50名誰も説明できなかった〉といった驚きと危機感についての投稿をされてました。
谷本:ブラック企業って今の時代は(その情報が)リークされやすいので、どんどん淘汰されていってると思いますが、弊社としても講演会やコンサルの依頼を受けたり、退職代行を使われた企業の情報開示したり……。本当に苦しんでいる人の数を減らせるよう、努力を続けていきたいです。
佐藤:ありがとうございます。それでは最後に読者の方へ「これだけは伝えたい」といったメッセージがあればお願いします。
谷本:退職代行を使われる方って「まさか自分が使うことになるなんて」と言われる方が多いんです。元々は退職代行アンチ派だったのに、なんでこんなサービスを使ってるんだろうって……。実際にそういった境遇(ブラック企業など)に置かれると、退職代行に頼るしかない、使うしかないと考える方がたくさんいること。実際にその境遇になってみないと分からないことが多いこと。この事実について、最後にお伝えしたいです。本日はありがとうございました。
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