いま銀座の一風堂は、外国人観光客で埋め尽くされている。同じくしてインバウンド需要を捉えている一蘭に、コア客を獲得する天下一品。ラーメンインフレ時代に成長するチェーン店の「秘策」を追った。
″一のつくラーメンチェーン″に比べて首都圏での知名度は劣るものの、国内店舗数246店と前出4チェーンを上回る来来亭(らいらいてい)のルーツも京都にある。
「来来亭の本社は滋賀県ですが、もともとは創業者の豆田敏典氏(56)が京都市のラーメン店を引き継いだことが始まりで、『京都風醤油の味鶏ガラスープ』を売りにしています。最大の特徴は、大手には珍しい″のれん分け″制度。豆田社長はフェラーリやベンツなどの高級外車を複数台保有し、豪邸に住む自身の生活を積極的にアピールして従業員に夢を見せている。そして、彼らを店舗オーナーに育て上げて新店を任せる。こうして来来亭は勢力を拡大してきました。従業員の質が高いため、セントラルキッチンに頼らず店舗ごとにスープを炊いても味がブレない。店舗や駐車場が広いロードサイド型の店舗が中心で定食メニューも充実しているため、天下一品に比べてファミリー層からの支持が多いのも強みです」(前出・須田氏)
一風堂や一蘭がインバウンドを、天下一品がコアなファンをターゲットにしているのに対し、来来亭はファミリーを取り込んで棲み分けを図る。ラーメン屋でなくファミレスに来たと考えれば、一人1000円超えでも高くは感じない。
焼肉きんぐを運営する物語コーポレーションが全国に219店舗を展開する丸源ラーメンも、ロードサイド&ファミリー向けのチェーンだ。経済ジャーナリストの高井尚之氏が解説する。
「同じロードサイド型の焼肉きんぐのすぐ近くに出店しているケースも少なくない。看板商品である『肉そば』(792円)のほか、醤油豚骨、味噌、塩、担々麺と豊富なラーメンメニューに加え、餃子、チャーハン、唐揚げなどサイドメニューも充実。子供向けメニューにはおもちゃのオマケもついている。ファミレスのような雰囲気で、専門店の味を楽しめるのは強み。巨大企業のスケールメリットを活かして安定した食材調達も可能です」
福岡、京都発祥の店が強いラーメン業界だが、関東圏発祥のチェーンも健闘している。代表的なのは国内外に合計218店舗を展開する、らあめん花月嵐(かげつあらし)だ。FC店舗が中心で、有名店とのコラボメニューを毎月出しているのが特徴。飽きの来ない商品展開が好評を得ている。
東京・町田市に1号店がある町田商店(166店舗)は、全国でも珍しい家系ラーメンチェーンとして成功を収めている。
「千葉県発のチェーン『田所商店』は、『北海道味噌ラーメン』の店として全国に184店舗を展開しています。創業者は老舗味噌店に生まれ育ったことから味噌ラーメン店を開業したのです。全国的にも味噌ラーメンの大手チェーンは珍しい。
これを受けてか、一風堂を運営する『力の源ホールディングス』は今年4月、味噌ラーメン店を運営する『ライズ』を買収しました。今後は″味噌″が盛り上がるかもしれません」(前出・須田氏)
インバウンドか、熱狂的ファンか、ファミリーか。限定メニューで差別化を図るのか、新市場で勝負をかけるのか?「1000円の壁」を突破して久しいラーメンインフレ時代において成長を続けるためには、強烈な個性が求められる。
『FRIDAY』2025年4月25日・5月2日合併号より