「食事をとっていないので、身体のバイタリティが下がっている。生き物として停滞している実感はあります」──30代男性のAさんは、自身が行う“あるダイエット方法”について、そう語る。そのダイエット方法とは、糖尿病治療薬を使用した“GLP-1ダイエット”だ。
【写真】糖尿病治療薬を使った“GLP-1ダイエット” 30代男性・Aさんか使用する薬
「マンジャロ」や「リベルサス」、「オゼンピック」といった糖尿病治療薬には、食欲を抑え、血糖値を下げ、体重を減らす効果が期待される。近年、そういった糖尿病治療薬が“痩せ薬”として話題になり、ダイエット目的で処方するオンラインクリニックや美容クリニックが増えている。
仕事柄、外食の機会が多いAさんは、「食欲が減退し自然に痩せる」という売り文句に惹かれて、1年以上にわたりGLP-1ダイエットを続けているという。過去には、有名クリニックで20万円ほどの“2か月コース”を契約していた。
「現在は週に一度、『マンジャロ』という薬を自分で皮下注射しています。金額は処方する医院や容量によって変わるのですが、私の場合、月に2万~4万5000円を支払っています。高額ではありますが、食欲が減少するのは確かなので、必要なくなったぶんの食費と捉えています」
GLP-1ダイエットを始めたばかりの頃は体重が一気に減ったが、最近は効果をあまり感じられなくなってきたという。
「身体が徐々に慣れてくるのか、どんどん効果が薄れてきて、そのたびに薬の服用量を上げる必要があります。私の場合、注射してすぐは食欲がなくなるものの、食べようと思えば普通に食べられるようになってしまい、体重があまり減らなくなってきました」
Aさんは、「やる気がわかず、休みは1日中ベッドの上なんてこともありました」とも語る。糖尿病などを専門とする順天堂大学の田村好史教授によると、GLP-1ダイエットの弊害については不明な部分が多いという。
「健康で普通体重の人、さらに痩せているのに『もっと痩せたい』と願う人が糖尿病治療薬を適応外使用した場合、何が起こるのかはしっかりとした調査が行われているわけではなく、安全性が不明です。学会からも警鐘が鳴らされています。
考えられる副作用としては、女性だと骨密度が低下したり、月経が止まることが深刻な問題になります。食べないことにより、倦怠感や鬱っぽくなることもあるでしょう。学会でも適応外使用のケースで重症膵炎を起こしたり、低血糖で救急搬送された事例がすでに報告されており、使用薬剤との関連が強く疑われています 」
健康な人が薬を使用するケースがもともと想定されていない以上、専門家としても、どんな副作用が起こり得るかは断言できないという。
「『医師の指導のもとで行うなら安心だろう』と考える人が多いと思いますが、実際のところ、美容クリニック側が安全性をしっかりと管理しているのかは不明です。治療上のメリットが大きい患者への処方は適正ですが、いくら患者本人が希望し、法的に問題がないとしても、安全性が十分に担保されていない医療行為は医療倫理的に問題があると言えるでしょう 」(前出・田村氏)
“楽して痩せられる”という甘い話はない。