兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラや公益通報者への違法な取り扱いを行なったと、県の第三者調査委員会が断定した問題。しかし、斎藤知事はパワハラだけは認めながら自身への処分はしない姿勢を続けている。そうした中、兵庫県が総合事務職で新年度に採用しようとした合格者の4割超が入庁を辞退したことが判明。現職の県職員の中でも斎藤知事の態度に嫌気がさし、他の自治体などに転職する動きも広がっていることがわかった。
〈画像〉斎藤知事のパワハラを“クロ”認定…第三者委員会の調査報告書
兵庫県人事課の説明では、大卒程度の総合事務職の今年度の採用過程では、「合格」を伝えた150人のうち69人が辞退し、辞退率は46.0%だった。
昨年度新規採用職員の辞退率は25.5%で20ポイント超増えたことになる。これについて人事課の担当者はこう説明する。
「今年度採用者の選考から、民間企業も導入しているSPIと呼ばれる適性検査による方式を新たに加えました。昨年4月にSPIの選考を行なって6月上旬に60人に合格を伝え、その後、6月中旬に通常の筆記試験を行い90人を合格としました。このうち、SPIの合格者からは35人が、筆記試験の合格者からは34人がそれぞれ辞退し、全体の合格者150人中、69人が辞退しました。
前年度は筆記試験だけの採用で110人が合格したうち28人が辞退しており、辞退率はこれよりは増えています。しかしSPIでの選考は早めに行なわれ、合格者がその後に他の自治体や中央官庁などに流れることはあると想定していました」
辞退率の上昇は選考方式の変更が原因だと説明するのだ。
だが、SPIの合格者の中で辞退者は過半数に達している。こうした人たちに合格が伝えられた昨年6月以降、兵庫県では斎藤知事の疑惑をめぐる混乱が激化。疑惑を告発した文書をつくった元西播磨県民局長・Aさん(享年60)が自死とみられる死を遂げたり、斎藤知事のパワハラやおねだり疑惑を裏づける証言が県議会調査特別委員会(百条委)での県職員への証人尋問などで次々と明らかになったりした。
「県当局は他の自治体との人材獲得競争で優位になるために採用活動を早めてSPIを導入するなどしたのに、合格者の4割が兵庫県を就職先を選ばない事態になったわけです。
斎藤知事は最近の会見でも、第三者委員会が11のパワハラ行為を認定したことを『受け止める』と言いながら、自分への処分はせず、襟を正すと言うだけです。こうしたトップの姿を見て、県の職員の間では疲れやあきらめが蔓延しています。もう、こんな(辞退者続出の)結果を聞いても驚きもありません。あなたが合格者の親なら(兵庫県への)入庁を反対しませんか?」
県職員の一人はそう話した上で、影響は新規採用以外にも広がっていると明かす。
「技術系の職員は民間も欲しがるので先に県庁を離れる動きが出ていたのですが、最近は事務系職員の中でも他の市町への移籍を考える人が増えています」(県職員)
別の県議会関係者によると、職員流出拡大の動きは昨年末ごろから土木部門を中心に顕在化していたという。この関係者が事情を話す。
「実は職員の流出は、斎藤知事の疑惑が拡大する前から少しずつ起きていました。原因はやはり斎藤知事の政策です。兵庫県では30年前の阪神・淡路大震災の後、街の復興が優先され、県庁の建て替えが後回しにされました。
いよいよ耐震性に問題があるとして建て替え議論が本格化していた2021年夏に斎藤知事が最初の選挙で当選したんです。その斎藤さんが打ち出したのが、県庁の主な建物は建て替えをやめて取り壊すだけにし、オフィスがなくなった職員の出勤率を4割まで抑え残りは在宅ワークをするというプランです。
あまりに非現実的で職員の反発はすさまじく、このころから県を離れる職員が出始めていました。斎藤知事は昨年11月の出直し知事選でも、『建て替えに1000億円もかかる豪華な県庁舎なんかいらない』と訴え、これがウケました。
しかし再選後、県庁舎の建て替えはやはり不可避だと悟ったようで、準備が進んでいます。ところが計画を止めていた間に資材費などが高騰し、予算の見通しが1000億円を超える事態になっています」(県議会関係者)
県議会の不信任決議を受けて失職した斎藤知事が出直し知事選で逆転勝利を収めると、パワハラの実態を肌で感じていた職員らは動揺し、しばらくして転職の動きに拍車がかかったという。
県人事課は昨年度の退職者数の動向に関するデータはまとまっていないと説明し、数字で流出の実態を見ることはできないが、県議会関係者は「職員が集まれば神戸市や阪神地域の自治体の採用活動に関する情報交換が行なわれています。もともと兵庫県職員に採用されるような人材なので、どこの自治体も採用できれば採用したいのが本音で、市町の方からは県職員を積極的に確保しようという動きまで出ています」と話す。
「再選された後の斎藤知事の態度が決定的でした。斎藤知事の疑惑を追及した竹内英明元県議は選挙中からネットなどでの誹謗中傷を受けた末に今年1月に自死しましたが、斎藤知事は一般論を言うばかりで、そうした攻撃をやめろと明確に言わなかった。
また、記者会見で県の問題を指摘されると、担当部署が決めたことだと責任を回避する姿勢が目立ちます。会見で鋭い質問が出ると、今度は県の広報担当部署に“抗議電話”がかかってきます。斎藤知事の支持者を名乗る人が、質問をした記者を会見に出席させたことを抗議しようと“犬笛”を吹いているようです。
こうした記者や、斎藤知事を追及してきた県議らには殺害を予告するようなメールが数千通も届く異常な状況になっています。関係する何人もが亡くなり、トップは責任を取らず、ネットでの誹謗中傷は放置され、抗議もくる…。兵庫県庁は働く職場として危険すぎます」(県職員)
斎藤知事は4月9日の定例記者会見で、新規採用予定者の中で辞退者が増えた理由を把握しているかと問われ、
「私は承知はしてないですけども、新規採用の職員の方がこの4月から入庁していただいたということ、そして県政を共に進めていくということで、一緒に働くことができるということになったことについては本当に歓迎を申し上げたい」
とかみ合わない答えを返した。
職員自身が「危険すぎる」と怯える兵庫県庁。行政サービスの劣化に直結する、職員の流出が広がっていることに斎藤知事が目を向けることはあるのだろうか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班