〈「腐ったミカン」発言で元職員に労災認定〉関西名門私学・追手門学院が払った「辞めさせ報酬」700万【支払い文書、罵倒音声入手】

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大阪府茨木市の学校法人・追手門学院が行った職員研修で、外部講師が「腐ったミカンを置いておくわけにはいかない」などと発言した問題。元職員の男性がうつ病を発症した原因は退職を強要されたことにあるとして、茨木労働基準監督署が労災認定していたことがわかった。
【画像】会見に臨む川原俊明理事長 参加者が「あの研修は人の心を失わせる」とまで語った職員研修。「週刊文春」は3年前、名門校で起きていた「辞めさせ研修」の実態を報じていた。当時の記事を公開する。(初出:週刊文春 2019年9月19日号 掲載 年齢・肩書き等は公開時のまま)

◆◆◆「悪いけどね、いらないよ、この学院の中に。あなたのような腐ったミカンを追手門学院の中に置いておくわけにはいかない」 これは、大阪府茨木市の学校法人、追手門学院が行った職員研修で、同学院の事務職員に対し投げられた言葉である。◆ 2016年8月22日、事務職員18名が新大阪丸ビル新館の一室に集められた。カーテンが閉められた会場の後席には、学院執行部の面々と人事課職員、そして私学の採用・人事コンサルティングを手がける「ブレインアカデミー」(以下・ブ社)の今井茂社長が陣取っていた。 研修の講師を務めたブ社のA氏は、「事前の執行部との打ち合わせの中で再三再四確認しておりますけれども、原則として今回の18名全員が、今年度末、来年の3月末の段階で残念ながら学院を退いていただきたい。例外なくです。18人全員がね」 と述べ、職員らに、「あなたは30前で、すでに求められる人材になってないよ。追手門の改革成長の中では今の段階の○○さんはノーサンキューと言われたんです。30前で自分の今後の職業人生にダメ出しされたんだよ、あんた」「学院のパワーを持った正式な意思決定なんだから(退職は)覆せない」「あなたはいらない」「老兵は去るのみ」 などと厳しい叱責を繰り返した。名門校に起きた異変ブレインアカデミーのホームページ 追手門学院は昨年、創立130周年を迎えた伝統校。“西の学習院”とも呼ばれる存在だ。幼稚園から大学まで有し、特に小学校は外部の難関中学への進学実績が高いことで知られる。 しかし最近、この名門に異変が起きている。「ここ数年、学生間でも話題になるほど教職員の入れ代わりが激しい。今年4月に新キャンパスを新設したこともあり、3年前から人員整理に踏み切りました。学院側があからさまに退職を強要しては問題になるため、コンサル会社を使って“辞めさせ研修”を行っていたのです」(学院関係者) 研修の参加者が重い口を開く。「あの研修は人の心を失わせる」「A氏は『これは学院の意向だ』と繰り返していました。研修は1日8時間で5日間。皆の前で人格を否定され続け、本当に辛かった。風邪のためマスクをしたまま発言した人が15分以上叱責されたあげく、『年齢相応の存在感がまったくない』とまで言われた。あの研修は人の心を失わせる。受講者の多くが研修後に心療内科を受診している。今も突然、研修がフラッシュバックすることもあります」 今年6月23日、朝日新聞がこの研修について報じると、学院は、川原俊明理事長名でHPに声明を掲出。管理監督責任があった理事を厳重注意し、理事が報酬月額の10%を6カ月、自主返上するとした。しかしその声明はあくまで「研修を委託した本学院」としての責任を感じる、とのスタンスに留まっていた。 だが取材の結果浮かび上がってきたのは、「委託元の責任」に留まらない、激しい研修内容を主導する学院首脳部の姿勢だった。 研修の実施は16年6月の常任理事会で決定された。学院内の稟議書に記されているその目的は「自律的キャリア形成の支援」。「自律的キャリア形成」の意味するところは何か。「A氏は『この研修の成果は、退職を受け入れるか、専任職員から、子会社への転籍や特定事務職員への職種変更(一旦年度末で退職)をすること』と繰り返していました。 実際、7名の職員が、研修直後に渡された『進路選択に関する申請書』に、退職もしくは職種変更などと記入せざるを得なかったのです」(前出・学院関係者) 同学院が研修の“成果”に期待していたことは、あらかじめブ社に厳しく発破をかけていたことでわかる。 研修の半年前、学院は中高管理職員10名を対象に、同じくA氏を講師に招いて「当事者意識確立研修」を行っていた。やはり受講者を追い詰める内容だったが、研修を参観した学院理事は、ブ社の今井社長にこんなメールを送った。〈最も特徴的だとされています、(ブ社の)「圧迫的な手法」も、「子供騙し」程度でした〉〈「目的」達成度が不十分であるのなら、今回の費用を返却してもらうか、次回の研修は無料としてほしいと、私の感覚では、そのように言わざるを得ません〉 そして、このメールを受けた今井社長は、〈頂戴した感想を踏まえ、弊社なりに検証を行い、あらためてご報告をさせていただきたいと存じます。(中略)既にご請求させていただいた請求書は、一旦破棄頂きますようお願い申し上げます〉 と返信。「理事のメールにある『目的』とは、明らかに退職を示しています。『圧迫的な手法』を強めるよう示唆したのは、次回の研修で『より成果を出して欲しい』という思いがあったのでしょう」(同前)「1名につき108万円」 加えて同学院は、ブ社に対し、成果に応じた報酬も用意した。前出の稟議書には〈受講者に自律的キャリア形成への変化が認められた場合、1名につき108万円(税込)〉を支払う、と明記されているのだ。 実際、7名分の報酬は支払われた。ブ社からの請求書並びに追手門学院の振込明細書からは、16年末、学院からブ社に対し、「自律的キャリア形成支援プログラム費用」7名分などとして700万円余りが支払われていることが確認できる。 この“成功報酬”について訊くべく追手門学院の川原理事長の自宅を訪ねると、インターフォン越しに一人あたり108万円の報酬について、「そういうことではありません。そういう形でお支払いはしていません」――稟議書に明記されているが。「それはおそらく違うと思います」 改めて同学院に問うたところ、理事が送ったメールの意図などについての見解はなく、16年8月の研修については「厳粛に受け止め、二度とこのような事態が起こらぬよう努め」る、と回答。またブ社は「個々のクライアントの情報は、当社との取引の有無を含め、守秘義務上一切開示しない」と回答した。 労働問題に詳しい小林嵩弁護士が解説する。「学院が受講者を退職させる目的で、コンサルティング会社に研修を外部委託しつつ、その研修に際し受講者に対し強い心理的圧力をかけるよう要請したとなれば問題です。受講を命じられて参加し、侮辱的・人格否定的言動を浴びせられた職員に対し、学院は、第三者を介したパワハラという手段を用い、違法な退職勧奨を行ったとして不法行為責任を負う可能性がある」 職員が苦しむ教育現場で、生徒によりよい教育ができるはずもない。(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年09月19日)
参加者が「あの研修は人の心を失わせる」とまで語った職員研修。「週刊文春」は3年前、名門校で起きていた「辞めさせ研修」の実態を報じていた。当時の記事を公開する。(初出:週刊文春 2019年9月19日号 掲載 年齢・肩書き等は公開時のまま)
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「悪いけどね、いらないよ、この学院の中に。あなたのような腐ったミカンを追手門学院の中に置いておくわけにはいかない」
これは、大阪府茨木市の学校法人、追手門学院が行った職員研修で、同学院の事務職員に対し投げられた言葉である。

2016年8月22日、事務職員18名が新大阪丸ビル新館の一室に集められた。カーテンが閉められた会場の後席には、学院執行部の面々と人事課職員、そして私学の採用・人事コンサルティングを手がける「ブレインアカデミー」(以下・ブ社)の今井茂社長が陣取っていた。
研修の講師を務めたブ社のA氏は、
「事前の執行部との打ち合わせの中で再三再四確認しておりますけれども、原則として今回の18名全員が、今年度末、来年の3月末の段階で残念ながら学院を退いていただきたい。例外なくです。18人全員がね」
と述べ、職員らに、
「あなたは30前で、すでに求められる人材になってないよ。追手門の改革成長の中では今の段階の○○さんはノーサンキューと言われたんです。30前で自分の今後の職業人生にダメ出しされたんだよ、あんた」
「学院のパワーを持った正式な意思決定なんだから(退職は)覆せない」
「あなたはいらない」
「老兵は去るのみ」
などと厳しい叱責を繰り返した。
ブレインアカデミーのホームページ
追手門学院は昨年、創立130周年を迎えた伝統校。“西の学習院”とも呼ばれる存在だ。幼稚園から大学まで有し、特に小学校は外部の難関中学への進学実績が高いことで知られる。
しかし最近、この名門に異変が起きている。
「ここ数年、学生間でも話題になるほど教職員の入れ代わりが激しい。今年4月に新キャンパスを新設したこともあり、3年前から人員整理に踏み切りました。学院側があからさまに退職を強要しては問題になるため、コンサル会社を使って“辞めさせ研修”を行っていたのです」(学院関係者)
研修の参加者が重い口を開く。
「A氏は『これは学院の意向だ』と繰り返していました。研修は1日8時間で5日間。皆の前で人格を否定され続け、本当に辛かった。風邪のためマスクをしたまま発言した人が15分以上叱責されたあげく、『年齢相応の存在感がまったくない』とまで言われた。あの研修は人の心を失わせる。受講者の多くが研修後に心療内科を受診している。今も突然、研修がフラッシュバックすることもあります」
今年6月23日、朝日新聞がこの研修について報じると、学院は、川原俊明理事長名でHPに声明を掲出。管理監督責任があった理事を厳重注意し、理事が報酬月額の10%を6カ月、自主返上するとした。しかしその声明はあくまで「研修を委託した本学院」としての責任を感じる、とのスタンスに留まっていた。
だが取材の結果浮かび上がってきたのは、「委託元の責任」に留まらない、激しい研修内容を主導する学院首脳部の姿勢だった。 研修の実施は16年6月の常任理事会で決定された。学院内の稟議書に記されているその目的は「自律的キャリア形成の支援」。「自律的キャリア形成」の意味するところは何か。「A氏は『この研修の成果は、退職を受け入れるか、専任職員から、子会社への転籍や特定事務職員への職種変更(一旦年度末で退職)をすること』と繰り返していました。 実際、7名の職員が、研修直後に渡された『進路選択に関する申請書』に、退職もしくは職種変更などと記入せざるを得なかったのです」(前出・学院関係者) 同学院が研修の“成果”に期待していたことは、あらかじめブ社に厳しく発破をかけていたことでわかる。 研修の半年前、学院は中高管理職員10名を対象に、同じくA氏を講師に招いて「当事者意識確立研修」を行っていた。やはり受講者を追い詰める内容だったが、研修を参観した学院理事は、ブ社の今井社長にこんなメールを送った。〈最も特徴的だとされています、(ブ社の)「圧迫的な手法」も、「子供騙し」程度でした〉〈「目的」達成度が不十分であるのなら、今回の費用を返却してもらうか、次回の研修は無料としてほしいと、私の感覚では、そのように言わざるを得ません〉 そして、このメールを受けた今井社長は、〈頂戴した感想を踏まえ、弊社なりに検証を行い、あらためてご報告をさせていただきたいと存じます。(中略)既にご請求させていただいた請求書は、一旦破棄頂きますようお願い申し上げます〉 と返信。「理事のメールにある『目的』とは、明らかに退職を示しています。『圧迫的な手法』を強めるよう示唆したのは、次回の研修で『より成果を出して欲しい』という思いがあったのでしょう」(同前)「1名につき108万円」 加えて同学院は、ブ社に対し、成果に応じた報酬も用意した。前出の稟議書には〈受講者に自律的キャリア形成への変化が認められた場合、1名につき108万円(税込)〉を支払う、と明記されているのだ。 実際、7名分の報酬は支払われた。ブ社からの請求書並びに追手門学院の振込明細書からは、16年末、学院からブ社に対し、「自律的キャリア形成支援プログラム費用」7名分などとして700万円余りが支払われていることが確認できる。 この“成功報酬”について訊くべく追手門学院の川原理事長の自宅を訪ねると、インターフォン越しに一人あたり108万円の報酬について、「そういうことではありません。そういう形でお支払いはしていません」――稟議書に明記されているが。「それはおそらく違うと思います」 改めて同学院に問うたところ、理事が送ったメールの意図などについての見解はなく、16年8月の研修については「厳粛に受け止め、二度とこのような事態が起こらぬよう努め」る、と回答。またブ社は「個々のクライアントの情報は、当社との取引の有無を含め、守秘義務上一切開示しない」と回答した。 労働問題に詳しい小林嵩弁護士が解説する。「学院が受講者を退職させる目的で、コンサルティング会社に研修を外部委託しつつ、その研修に際し受講者に対し強い心理的圧力をかけるよう要請したとなれば問題です。受講を命じられて参加し、侮辱的・人格否定的言動を浴びせられた職員に対し、学院は、第三者を介したパワハラという手段を用い、違法な退職勧奨を行ったとして不法行為責任を負う可能性がある」 職員が苦しむ教育現場で、生徒によりよい教育ができるはずもない。(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年09月19日)
だが取材の結果浮かび上がってきたのは、「委託元の責任」に留まらない、激しい研修内容を主導する学院首脳部の姿勢だった。
研修の実施は16年6月の常任理事会で決定された。学院内の稟議書に記されているその目的は「自律的キャリア形成の支援」。
「自律的キャリア形成」の意味するところは何か。
「A氏は『この研修の成果は、退職を受け入れるか、専任職員から、子会社への転籍や特定事務職員への職種変更(一旦年度末で退職)をすること』と繰り返していました。
実際、7名の職員が、研修直後に渡された『進路選択に関する申請書』に、退職もしくは職種変更などと記入せざるを得なかったのです」(前出・学院関係者)
同学院が研修の“成果”に期待していたことは、あらかじめブ社に厳しく発破をかけていたことでわかる。
研修の半年前、学院は中高管理職員10名を対象に、同じくA氏を講師に招いて「当事者意識確立研修」を行っていた。やはり受講者を追い詰める内容だったが、研修を参観した学院理事は、ブ社の今井社長にこんなメールを送った。
〈最も特徴的だとされています、(ブ社の)「圧迫的な手法」も、「子供騙し」程度でした〉
〈「目的」達成度が不十分であるのなら、今回の費用を返却してもらうか、次回の研修は無料としてほしいと、私の感覚では、そのように言わざるを得ません〉
そして、このメールを受けた今井社長は、
〈頂戴した感想を踏まえ、弊社なりに検証を行い、あらためてご報告をさせていただきたいと存じます。(中略)既にご請求させていただいた請求書は、一旦破棄頂きますようお願い申し上げます〉
と返信。
「理事のメールにある『目的』とは、明らかに退職を示しています。『圧迫的な手法』を強めるよう示唆したのは、次回の研修で『より成果を出して欲しい』という思いがあったのでしょう」(同前)
加えて同学院は、ブ社に対し、成果に応じた報酬も用意した。前出の稟議書には〈受講者に自律的キャリア形成への変化が認められた場合、1名につき108万円(税込)〉を支払う、と明記されているのだ。
実際、7名分の報酬は支払われた。ブ社からの請求書並びに追手門学院の振込明細書からは、16年末、学院からブ社に対し、「自律的キャリア形成支援プログラム費用」7名分などとして700万円余りが支払われていることが確認できる。
この“成功報酬”について訊くべく追手門学院の川原理事長の自宅を訪ねると、インターフォン越しに一人あたり108万円の報酬について、「そういうことではありません。そういう形でお支払いはしていません」――稟議書に明記されているが。「それはおそらく違うと思います」 改めて同学院に問うたところ、理事が送ったメールの意図などについての見解はなく、16年8月の研修については「厳粛に受け止め、二度とこのような事態が起こらぬよう努め」る、と回答。またブ社は「個々のクライアントの情報は、当社との取引の有無を含め、守秘義務上一切開示しない」と回答した。 労働問題に詳しい小林嵩弁護士が解説する。「学院が受講者を退職させる目的で、コンサルティング会社に研修を外部委託しつつ、その研修に際し受講者に対し強い心理的圧力をかけるよう要請したとなれば問題です。受講を命じられて参加し、侮辱的・人格否定的言動を浴びせられた職員に対し、学院は、第三者を介したパワハラという手段を用い、違法な退職勧奨を行ったとして不法行為責任を負う可能性がある」 職員が苦しむ教育現場で、生徒によりよい教育ができるはずもない。(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年09月19日)
この“成功報酬”について訊くべく追手門学院の川原理事長の自宅を訪ねると、インターフォン越しに一人あたり108万円の報酬について、
「そういうことではありません。そういう形でお支払いはしていません」
――稟議書に明記されているが。
「それはおそらく違うと思います」
改めて同学院に問うたところ、理事が送ったメールの意図などについての見解はなく、16年8月の研修については「厳粛に受け止め、二度とこのような事態が起こらぬよう努め」る、と回答。またブ社は「個々のクライアントの情報は、当社との取引の有無を含め、守秘義務上一切開示しない」と回答した。
労働問題に詳しい小林嵩弁護士が解説する。
「学院が受講者を退職させる目的で、コンサルティング会社に研修を外部委託しつつ、その研修に際し受講者に対し強い心理的圧力をかけるよう要請したとなれば問題です。受講を命じられて参加し、侮辱的・人格否定的言動を浴びせられた職員に対し、学院は、第三者を介したパワハラという手段を用い、違法な退職勧奨を行ったとして不法行為責任を負う可能性がある」
職員が苦しむ教育現場で、生徒によりよい教育ができるはずもない。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年09月19日)

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