「別の方法もあった」いまだドライバー不明の八潮道路陥没事故で消防関係者が指摘した狆男匹良埃蟶櫚

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冷たく暗い穴の中で、72歳のドライバーはどういう心境でいたのか……。
事故発生からすでに1ヵ月が経った、埼玉県八潮市の道路陥没事故。幹線道路である県道に突如として開いた穴に転落したトラックのドライバーは、今も救出されないままだ。なぜ助け出せないのか。早い段階でどうにかならなかったのか。どんどんと崩落し拡大する陥没穴を見て、そう感じていた人は少なくないはずだ。
「判断は難しいが、別の方法もあったし、消防の不手際だ」と複数の消防関係者が指摘する。その猊埃蟶櫚瓩砲弔い得睫世垢訌阿法△泙困六故の状況を振り返ろう。
埼玉県の発表などによると、陥没事故の原因は、直径5メートルの下水管が損傷し穴が開き、そこに土砂が流入したことだ。地面の下で、徐々に下水管へ土砂が流出し、県道の下に大きな空洞ができていた。そして一番表面のアスファルトが耐えられなくなり崩落、県道に大きな穴が開き、ちょうど通りかかったトラックが、運転手もろとも転落した。
トラックは穴の中で、土砂に頭から突っ込む形で斜めになっており、運転台は土砂に覆われ、荷台部分が露出していたことが、初期の報道で確認できる。
現場を管轄する、草加八潮消防局に「道路が陥没し、トラックが落下した」という119番通報が入ったのは、1月28日の午前9時49分。直ちに消防隊が出動し救助活動に着手した。消防局によると、駆け付けたときから数時間後の午後1時ごろまでは、運転台のドライバーは呼びかけに答えていたそうだ。初動の救助方法は命綱をつけた消防隊員が穴の中に2人ほど降りて、ショベルで運転台のあたりを手掘りしていた。しかし崩落穴の内部がさらに崩落、消防隊員が巻き込まれ隊員2名が負傷、1人は入院した。
その後、消防隊は「トラックをクレーンで吊り上げる」という作戦に方針転換。民間のクレーンを要請し、吊り上げを試みる。しかし午後8時半ごろに行われた、初回の吊り上げは、ワイヤーが切れて失敗。さらにクレーン車の台数を増やすなどして、午後10時ごろから2度目の吊り上げに挑戦、日付が変わった深夜1時ごろに吊り上げた。
しかし吊り上がったのは、荷台部分のみ。土砂の重みに耐えられなかったのか、ドライバーのいる運転台部分が千切れてしまっていた。しかもその直後に、あらたな大崩落が発生し、電柱や店の大看板などが地中に飲み込まれていった。地中から荷台がなくなったことで、せき止められていた土砂が崩れたためと思われる。この崩落を受けて、救出活動は中断。その後、消防は運転台がどこにあるかすら、把握できない状況になってしまったのだった。
埼玉県内の八潮とは別の消防本部に所属する消防署員は、救助方法が適切だったかについて指摘する。
「崩落した穴の中だから、転落事故と勘違いしやすいですが、トラックが土砂に埋まり、周囲がどんどん崩落する。これは土砂災害です。土砂崩れ災害へ対応するなら、トレンチレスキューなどが選択されるべきでした」
トレンチレスキューとは、この場合ならトラックの周囲を板などで囲い、土留めをして新たな崩落を防ぎ、消防隊員と要救助者であるドライバーの安全を確保しながら救助する技法だ。
「一般の人は『ケガにひるまず消防隊員は頑張っている』と思うかもしれませんが、消防署員の感覚は違います。安全を確保しながら活動するのが、救助のプロ。出動した現場で受傷するのは恥。しかも今回は、肝心の救助ができていません。トレンチレスキューを行えば、消防隊員の安全を確保したうえで、ドライバーも救出できた可能性があります」(前出の消防署員)
だが、救助にあたっている草加八潮消防局を取材した全国紙記者は次のように語る。
「なぜトレンチレスキューを行わなかったのかを取材すると、現場の判断だとのことでした。また、トレンチレスキュー用の装備や、訓練経験はあるかについては、どちらもないという答えでした」
確かに装備も訓練経験もなしでは、トレンチレスキューをできなかったのもしようがないのだが、前出の消防員は「そこは批判できない」という。
「そもそも草加八潮エリアには山がありません。土砂崩れの危険がありそうな、土砂災害警戒区域もまったくない。備えがなくても仕方がないのです。その装備や技能がないなら、速やかに別の消防本部へ応援を頼むべきです」
つまり、前述の救助方法の不手際を招く結果となったのには、早い段階で応援要請をしなかった「状況判断の不手際」があったからだというのだ。
「埼玉県内には、土砂・風水害機動支援部隊という部隊があります。これはさいたま市消防局・埼玉東部消防組合消防局・深谷市消防本部・上尾市消防本部で組織された部隊で、昨年も合同訓練を行っています。また隣接の東京都には、ハイパーレスキュー隊を擁する東京消防庁もあります。
現場の消防隊員は、目の前に要救助者がいれば、全ての知識と力を使って助けようとします。装備がないなどの言い訳はしない。救助のプロとしてのプライドもある。だからこそ、もっと上級である消防本部の幹部が、力量を見極め、早い段階での応援要請を決断すべきだったのです」(前出・消防員)
草加八潮消防局が東京消防庁などへの大規模な応援要請をしたのは、通報からほぼ丸一日経った、翌29日の午前9時だそうだ。すでに現場では2度目の大崩落が起き、運転台が確認できなくなった後である。埼玉県内や東京消防庁から、続々と応援部隊が駆けつけて、救助活動に参加したが、すでに手の施しようがなくなっていた。
救助が長期化することになったのは、消防の不手際だったのではないか。草加八潮消防局に取材すると次のような回答だった。
「事故当時の活動状況の詳細などについては、現在職員に聞き取りをするなどして検証している最中です。現段階ではお答えを差し控えさせていただきます」
埼玉県の発表によると、現在は下水管を迂回させ、下水の流入を防ぐ工事を行っているという。この工事の完了には、およそ3ヵ月かかる見通しで、捜索再開はそれを待たねばならない。
通報から数時間は、呼びかけに答える元気もあったドライバーや家族の心境を考えると、あまりにもつらく長い時間ではないか。

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