【佐伯 慧】フジテレビだけの問題ではない…「無料のコンパニオン」をさせられ末に「性被害」を受けた女性社員の告白

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※本記事には性被害に関する具体的な描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。
中居正広氏と女性とのトラブルをめぐる問題について、フジテレビの企業としてのガバナンスや人権意識が問われている。なかでも注目が集まっているのは、フジテレビ社員が宴席で女性に接待役を担わせた延長上で起きた問題なのか、また、女性社員に接待役を担わせる行いが同社内で常態化していたのか、という点だ。
第三者委員会による本件およびフジテレビやグループ全体を対象にした調査の結果報告が3月末に予定されているが、それをもって、女性社員に宴席で接待役を担わせるなど、職場で女性が軽んじられる問題への関心が薄れることを懸念する声がSNSなどで上がっている。
一般企業に勤める高山あきこさん(仮名・40歳)も、職場の飲み会で接待役を担わされた末、性加害に遭った一人だ。
「女性社員に接待役を担わせる慣習はフジテレビに限らず、多くの日本企業に根強く残っているのではないでしょうか。その延長上で性被害に遭うことも珍しくありません。これは私だけでなく、私の友人や仕事を通じて知り合ったさまざまな業界の女性の声からも実感していることです」(高山さん、以下同)
「セクハラ」という言葉が新語・流行語対象に選ばれたのは1989年。「コンプライアンス」という言葉が日本に浸透しはじめたのは2000年代初頭と言われている。それから長い年月を経てもなお、なぜ、企業の飲み会の場で女性が接待役を担わされ、性被害に遭う問題がなくならないのか。
あきこさんの実際の体験から、問題の本質について考えてみたい。
あきこさんはこれまで6社ほどで勤務してきたが、その中で性的な被害にあったのは、主に飲み会の場だったという。
「なかでも印象深いのが、私が8年前に体験したものです。それは、この一夜に、女性社員を接待役にする問題の本質が詰まっていると感じたからです」
8年前、ある企業でデジタルコンテンツを制作する部署にいたあきこさん(当時32歳)は、関連部署の部長である男性A(当時40代半ば)から、「クライアントと飲むんだけど、来ない? その人、高山さんの知り合いなんだけど」と声をかけられた。
違う部署ではあれど、高山さんはAと同じプロジェクトで仕事をしたことがあり、顔見知りだった。クライアントの人も前職で一緒に仕事をしたことがある人。特に断る理由もないので、高山さんはAの誘いを快諾した。
しかし飲み会の前日、高山さんはAから送られてきたメールに違和感を覚える。
「飲み会の時間や場所の詳細に関するメールだったのですが、BCCを使った一斉送信だったんです。参加者は3人だけなのになぜBCCで送ってくるんだろうと思い見ると、そこにはこの会が、自社の部長クラスが集う親睦会であることが記されていました。クライアントの人はゲストという扱いでした。『第●回』と書かれていたので、こうした会が開かれるのは今回が初めてではないことが窺えました」
社内の親睦会なら、最初からそう言ってくれればいいのにと思った高山さん。部長が集う会なら、自分の部の部長である女性Bさん(当時50代)も参加するかもしれないと思い聞いてみると、Bさんはこの会の存在すら知らないという。
「Bさんは『なんで私じゃなくて、高山さんが呼ばれたんだろうね?』と訝しげな表情で言いました。私はこのとき、『たまたまクライアントと知り合いだったからじゃないですかね……』と返すことしかできませんでしたが、理由についてうすうす気づいていたように思います。
50代の女性の部長ではなく、30代の女性社員が呼ばれた。これまでの経験上、ここから類推されることはひとつしかないからです」
当日会場に着くと、そこには40~50代の部長クラスの男性が10人ほどおり、女性は高山さんと広報部に所属する20代女性の2人だけだった。
「会が始まり、Aさんから『申し訳ないけど』という枕詞はついていたものの、20代の女性と一緒にお酌をするよう促されると、疑念は確信に変わりました。ああ、やっぱり私は今日、“無料のコンパニオン”として呼ばれたのだな、と」
お酌をすることは、いろいろな人と話す機会でもあると前向きに捉えた高山さんは、積極的に話をしようと試みたが、多くの男性は高山さんと仕事に関する話をまともにする意思がないように見えた。知り合いのクライアントの人も、そんな高山さんの様子を遠くから気まずそうに見ていたという。
「ある部長(当時40代半ばほど)からは、『女性活躍って必要だと思う?』と真顔で聞かれました。唐突だったので戸惑っていると、周りにいる部長たちがニヤニヤしながら私の反応を待っているのが見えました。ああ、からかわれているなと思いました。苛立ちもあり、『それ、問題発言ですよ』と語気を強めて返すと、『なに怒っちゃってんの~(笑)?』と嘲笑されました」
お酌をさせられ、まともに相手にしてもらえず、嘲り笑われる……。この場において高山さんは、同じ仕事に携わる人間として一切の敬意を払われていないことを、さまざまなかたちで思い知らされたと振り返る。
「当時私は30代で、社員の平均年齢が比較的若いその会社の中では中堅的な立ち位置でした。でも職場の親睦会で、何者でもないような扱いを受けている。いち企業人としての自尊心を深く傷つけられました」
地獄のような時間に心が折れそうになっていたそのとき、「あいつヤバいから気にしなくていいよ。もうお酌はいいから」と高山さんに声をかける部長がいた。その男性C(当時50代)は、この会の中で唯一、高山さんとまともに仕事の話をしてくれた人だった。
「Cさんはイベント関連の部署だったのですが、デジタルコンテンツを制作しているうちの部署と知見を交換して、一緒に何かできたらいいねという話にもなりました。Cさんに救われた思いでした」
会がお開きになると、Cは、住んでいる場所が近いことがわかった高山さんにタクシーで家の近くまで送ると提案する。お酒が入った状態で男性と2人でタクシーに乗ることに躊躇したが、これから一緒に仕事をしようという人が何かしてくることはないだろうと思い、高山さんは申し出を受けることにした。
しかし、この判断をすぐに後悔することになる。
「タクシーが私の家の近くで止まり、ドアが開き降りようとしたそのとき、Cさんは私の右腕を強く引き、首筋に唇を押し付けるようにしてキスしてきました。直前に唇を舐めていたのか、やけに湿ったその感覚は、いまでも思い出すたびに寒気がします」
突然のことで驚いた高山さんはCを振り払い、慌てて外に飛び出した。タクシーの運転手は何かを察したのか、すぐにドアを締め、そのまま車は発進していったという。
「ショックのあまり、私はしばらくその場に立ち尽くしました。そして、親睦会の直後にAさんから言われたある言葉が、ボディーブローのようにじわじわと効いてきていることに気づきました。それはある意味で、私にとってCさんからの性加害以上に絶望的なことでした」
◇Aが高山さんに放った驚きの言葉とは……? 後編【「無料のコンパニオン」の末に性被害に…一般企業の女性が語る「女性社員の接待役問題」の本質】に続きます。
【後編を読む】「無料のコンパニオン」の末に性被害に…一般企業の女性が語る「女性社員の接待役問題」の本質

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