【変容するインバウンド】#5
【連載第1回はこちら】中国人の“爆買い”ブームは終了…訪日行動は「学び」にシフトしている
「久しぶりに大阪に戻って、初めて聞いた言葉は中国語。ほんまに右も左も中国人や」
海外で暮らすHさんにとって驚きの変化だった。
インバウンドのピークといわれた2019年と比較すれば中国からの観光客は260万人少ないが、留学生など他の在留資格での滞在者は増えている。これで、中国人観光客向けの短期滞在ビザが緩和されたら、日本の景観はもっと変わる。
昨年末、岩屋毅外相は中国人観光客に対する短期滞在ビザの緩和措置を発表した。団体向けの観光ビザは滞在可能日数を15日以内→30日以内に拡大。個人向けの観光数次ビザは、経済要件を厳格化して5年→10年に延長する。さらに高齢層には申請書類を簡素化するーーなど5つの措置がある。この件についてはグローバル化に理解のあるビジネスパーソンでさえも危機感を高めている。
自らも観光業に携わる女性経営者M氏は、あくまで臆測と前置きした上でこう語る。
「団体30日? これは単なる観光ではないですよね、医療目的? それとも不動産売買? もしかしたら移住のための手続きや職探しとかですかね……」
■儲けるのは中国人ばかり
一方、外務省外国人課は「30日以内の日程を組むことで、中国人訪日客は大都市圏から地方へと足を延ばしてくれる」と言う。また個人で申請する際の「高齢層に対する申請書類の簡素化」については、「リタイアした人は在職証明が出せない」(同)ことへの便宜を図ったものだ。
連載初回で紹介した「学び目的のまじめなツアー」がある一方で、筆者はこれらの措置について疑心暗鬼である。
治療目的での渡航が増えるのではないか、その際に「なりすまし」などによる医療保険制度の悪用は防げるのか。
過去に中国マネーは他国で住宅価格を吊り上げてきたが、政府はそれを規制できるのか。それほど中国のSNSでは、「日本への移住(脱出)」「日本の不動産投資」「日本の医療制度の享受」が抱き合わせで喧伝されているのだ。
昨年11月、中国当局は日本人を対象に短期滞在ビザの免除措置を再開したが、中国から帰国した日本人出張者は「日本から上海への航空機はほぼ中国人。入国審査の列にも日本人は少ない」という。一般の日本人にとってメリットは少ない。
中国にある日本の在外公館に届くのは専ら中国人の要望だ。
「中国人観光客が大挙して来ても、儲けるのは中国人。それで私たちの生活が豊かになるとは考えられない」という日本の生活者の声は届いているのだろうか。(おわり)
(姫田小夏/ジャーナリスト)