「やせているから糖尿病にならない」というのは誤った認識です(写真:jessie/PIXTA)
成人の5人に1人は糖尿病かその予備群といわれ、健康診断などで高血糖を指摘される人が少なくありません。糖尿病はさまざまな理由で血糖コントロールがうまくいかずに“血糖値が高くなる病気”ですが、誤った知識によって治療に結びつかないケースも。
SNSで筋肉博士として人気の糖尿病専門医・大坂貴史氏がこの度、『血糖値は食べながら下げるのが正解』を上梓。本書から一部抜粋・再構成してお届けします。
年を重ねると太りやすくなり、血糖値を気にする人が増えます。半面、若い頃と体重や体形に大きな変化がなければ、まさか自分が糖尿病やその予備群の仲間入りをしているなんて思わないでしょう。
肥満は確かに糖尿病のリスクの1つです。でも、“糖尿病は太っている人の病気”というわけではありません。糖尿病はあくまでも“血糖値が高くなる病気”であって、太っていなくても血糖値が高くなることはあるのです。むしろ、日本人は肥満でなくても糖尿病になるリスクが高いといえます。
日本における肥満の判定基準は、体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出するBMIが25を超えていること。しかし、2023年の報告では、2型糖尿病患者の平均BMIは24.71と25を下回っています。つまり、日本人で糖尿病を持つ人の半数は肥満ではないと考えられるのです。
太っていなくても糖尿病になる理由は、欧米人と比較して、日本人は血糖値を下げる働きをするホルモンの「インスリン」を出す力が弱いから。実際、白色系欧米人はインスリンの分泌能力が、日本人を含むアジア系民族の約2倍高いといわれます。
血糖値は1日の中で変動しています。食事をすると血糖値が上がり、それを下げるためにすい臓から分泌されるのがインスリン。欧米人はこのインスリンを出すパワーが強いため、たくさん食べても血糖値を速やかに下げられるのに対し、日本人の場合はインスリンを十分に出せずに血糖値が高い状態が続きやすいのです。
こうした体質の違いがあるため、欧米人の糖尿病は巨漢な人の比率が高いのに対し、日本人では体重や体形と一概にリンクしないケースが多いです。
ですから、やせているから糖尿病にならないという誤った認識を持っていると、治療のタイミングが遅れることにもなります。
日本人の糖尿病リスクとして、インスリンを出す力が弱いことに加えて、あるものが減るとそのリスクはさらに上がります。それが「筋肉」です。筋肉は年を重ねるにつれて減りやすく、実はこの影響で高血糖になることがあります。
筋肉を動かすときにはエネルギーが必要です。そのエネルギー源として、筋肉は血液中の糖を取り込み、エネルギーに変えています。だから筋肉が少なければエネルギーとして使われる糖が減り、血液中の糖を減らしにくくなります。
それだけではありません。筋肉はインスリンの作用で血糖を筋肉内に取り込んで「グリコーゲン」という形にして貯蔵する働きがあります。これによって、血中のブドウ糖が増えすぎないように調整しています。しかし筋肉量が減れば、グリコーゲンとして糖を貯蔵する受け皿が減り、血中にブドウ糖が増えるのです。
さらにもう1つ理由があります。筋肉が多ければ、安静状態での呼吸や心拍、体温維持、細胞の修復など、生きていくために最低限必要なエネルギーである「基礎代謝」が増えます。筋肉は肝臓や脳に次ぐ基礎代謝量を誇りますが、筋肉量が減れば基礎代謝量が低下。太りやすくなるわけです。
脂肪が増えれば、さらに悪循環になります。
というのも、脂肪細胞から炎症を引き起こすアディポカインといった物質が分泌され、インスリンの働きを邪魔します。その結果、インスリンの効きが悪くなってさらに糖を筋肉に取り込む力を低下させ、血糖値が高い状態が続くのです。
筋肉量が減少する「サルコペニア」をご存じでしょうか? サルコペニアは、加齢によって「筋肉量の減少」「筋力の低下」「身体能力の低下」がある状態のこと。ギリシャ語で筋肉を意味する“サルコ(sarco)”と喪失を意味する“ペニア(penia)”の造語です。
筋肉が減ってエネルギーとして使われる糖が減れば、血液中の糖が増えます。エネルギーとして使われずに過剰になった糖は、中性脂肪として体に蓄えられていきます。
そうした脂肪はやせた筋肉繊維の隙間にも入り込んで、“牛肉のサシ”のような筋肉を増やし、この状態を「サルコペニア肥満」と呼びます。
一般的に筋肉が脂肪に置き換わっていても、体重や体形は若い頃とあまり変化がないことが多いため、BMIでは判断できず、自覚症状も少ないです。
体重や体形に変化がなくても、筋肉は加齢によって減っていって、体重は標準なのに、体脂肪が多い「隠れ肥満」になっているケースはたいへん多いです。
気づかないままに、やがて「サルコペニア肥満」になり、血糖値の調整力も下がっていきます。
40代を過ぎれば、体重だけではなく、「筋肉の衰え」にも気を配りたい理由はそこにあります。
もしもあなたが“隠れ肥満”の“高血糖”なら、今すぐ始めるべき食べ方があります。
まず間違えてほしくないのは、食べると太ると思って、やみくもに食事量を減らすことはNGです。実は、栄養不足も「サルコペニア肥満」の要因。
筋肉不足を解消するには、筋肉の材料になるタンパク質をしっかり摂りましょう。タンパク質は肉、魚、卵、大豆食品、乳製品に豊富に含まれます。
さらに、タンパク質は貯蔵がききにくい栄養素です。体重60kg程度の人の場合、1食20g程度のタンパク質を摂るのが理想で、毎食こまめに食べることが大切です。
夜間にも筋肉の分解は進むので、特に朝食でタンパク質が不足しないようにしましょう。
朝食では卵料理や納豆を加える、飲み物に牛乳や豆乳を加えるなど、ちょこちょこタンパク質を摂れる食品をプラスするのがおすすめ。食事から摂取する分には、タンパク質の摂りすぎが問題になることはまずありません。
一方で、一度にたくさん摂っても筋肉の増量にはつながりません。食事で摂ったタンパク質から筋肉を合成できる量には上限があるのです。だから、こまめに摂ることがポイントになります。
肉や魚なら手のひら大でタンパク質20g程度と覚え、卵や乳製品、大豆食品も組み合わせて食べるようにするといいでしょう。
なお、レッドミートに分類される牛肉、豚肉、ラム肉などはエネルギー量が多く、飽和脂肪酸も多く含まれるので、糖尿病や心臓病のリスクを高める可能性が指摘されています。食べてはいけないわけではありませんが、ホワイトミートに分類される魚やとり肉を優先すると、よりヘルシーです。
意外なところでは、野菜にもタンパク質が含まれるものがあります。ブロッコリーやアスパラガス、あるいは枝豆、グリーンピース、いんげん豆などの豆類には植物性のタンパク質が含まれています。
これらの野菜は下処理が済まされた冷凍食品が豊富で、手間をかけずに食べられます。特にブロッコリーはタンパク質の代謝に関わるビタミンB6が豊富に含まれるため、筋トレを習慣にしている人たちが好んで食べる野菜としても知られています。
野菜に含まれる食物繊維には糖の吸収スピードをゆるやかにする作用もあるので、これらを食べることで血糖値の急上昇を抑えることもできて一石二鳥です。
間食でも、タンパク質を摂れるようにすれば、筋肉の減少を防ぎやすくなります。
クッキーや菓子パンなどの加工度の高い食品は、砂糖や脂肪が多く含まれて“カロリー密度が高い”ため、少量でもたくさんのエネルギー摂取につながりがちです。そのうえ消化・吸収も早いので満足感を得にくく、食べ過ぎを防ぐのが難しいのも問題です。
その点タンパク質を含む食品は消化・吸収がゆるやかなので、腹持ちのよい間食になるのが利点。
また、植物性タンパク質を多く含む食材は低カロリーかつ低脂質のものが多いもの。
温めた豆乳にきなこを入れて混ぜる「きなこ豆乳」なら、優しい甘さを感じつつ、タンパク質が上乗せできる最強の間食になります。
そのほかには、あたりめ、キャンディチーズ、プレーンヨーグルトなどもおすすめです。
材料がなければ筋肉は増えません。だからこそ、40歳を過ぎたら、タンパク質を食事から十分に補給することを意識してください。
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(大坂 貴史 : 医師)