国民民主党の玉木雄一郎代表(役職停止中)が2月15日、朝の情報番組に出演した際、現行の「高額療養費制度」について「外国人がわずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養を受けられるのはおかしい」と指摘。「社会保険料は原則、日本人の病気や怪我のために使われるべきだ」と持論を展開し、SNS上で物議を醸している。現行制度の課題と、玉木氏の発言の真意とは…。専門家に話を聞いた。
【画像】外国人の高額療養費制度を巡る発言で物議を醸したのは
「数万円払ったら1億6000万円の治療が受けられれるのは、日本の納税者や社会保険料を払っている人の感覚からすると、『どうなんだ?』というところも踏み込んだ見直しが必要」
2月15日、読売テレビ「ウェークアップ」に出演した国民民主党の玉木雄一郎代表(役職停止中)は、外国人の高額療養費制度の見直しについて、こう言及した。
その後も自身のX投稿で、
〈外国人やその扶養家族が、わずか90日間の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる現在の仕組みは、より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきです〉
〈現役世代が苦労して支払う社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我のために使われるべきです〉
などと持論を展開した。
来日した外国人は、在留期間が3カ月以上の場合、国民健康保険の加入が義務付けられている。そのため、高額療養費制度の対象となる外国人は、社会保険など納税の義務を果たしており、観光や医療保養目的での短期滞在者はもちろん対象外となる。
さらに厚生労働省が公表した資料でも、2020年3月~2021年2月までに支給された高額療養費のうち、外国人の割合は約1%。玉木氏のほのめかす「病気を抱えながらこっそり来日し、高額療養を受けて帰国する外国人」がいた事例は、これまで1件も確認できていないと、厚労省が認めている。
結果、この玉木氏の発言は多方面で物議を醸すこととなった。
自民党の河野太郎前デジタル相は自身のXで、
〈国民健康保険に加入している外国人は、92万人、被保険者の3.6%ですが、外国人の医療費は合計で1250億円と全体の1.4%弱、国民健康保険に加入している日本人の平均年齢に比べて低いこと等を考えると、国民健康保険財政にプラスかもしれません〉
〈「外国人による健康保険の利用をやめれば我が国の医療費問題は解決する」というわけではありません〉
などと反論した。さらに、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」もホームページで「国民民主党 玉木雄一郎代表による、差別・排外主義発言に抗議します」と声明を発表した。
「正直、玉木さんがこんなことを口にするとは、意外です…」
そう驚いた表情を浮かべるのは、玉木氏と親交のある法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治学専攻)だ。
「高額療養費の主な対象者は日本人であって、財源や制度構築の問題を外国人のせいにするのは完全に論点のすり替えです。
そもそも高額療養費制度を利用した外国人ってそんなに多くないはずです。何人いるかのデータも示さず、かなり特殊な例を提示して、多くの外国人がフリーライドしているような誤解を与える発言でした」(白鳥教授、以下同)
近年、ヨーロッパやアメリカを中心に広がる「自国優先主義」や「外国人排斥運動」。そのようなポピュリズムの波は、これまで移民問題などに関心の薄かった日本にも押し寄せていると、白鳥教授は危惧する。
「所属する政党への支持を獲得するために、自国民ではない外国人をヤリ玉にあげることはナショナリズムを掻き立てる象徴的なポピュリズムの在り方です。外国人は投票権がないので、選挙時にはとても有効的な手段となり得ます」
最近では、兵庫県知事選で斎藤元彦知事の対抗馬となった元尼崎市長の稲村和美氏が選挙中、「稲村氏が当選したら外国人の地方参政権をすぐ導入する」といったデマがSNS上で流布され誹謗中傷を浴び、公式サイトで声明を発表する事態にまで発展した。
一方、それに反して、在留外国人の人口は国内で増加の一途をたどっている。2024年6月段階では国内の在留外国人の数が約359万人と過去最高を記録した。
超少子高齢化で深刻な人手不足に陥っている日本にとって、「外国人がいることで日本社会が成り立っている部分もあることを改めて考えるべき」と白鳥教授はいう。
「日本社会にとって、外国人は非常に重要な労働資源になっています。在留外国人は納税の義務も果たして住民としての責任を負っています。
外国人を叩いたり、追い出そうとする思想は結果的に日本の活力にはならない。ダイバーシティーや文化の多様性を認めて、彼らを日本の社会の一部として認識することが大事です」
国内に増える在留外国人の存在は、雇用や住居の確保といった面でもさまざまな問題や検討事項を抱えているのが現状だ。そこにきての今回の高額療養費制度への玉木氏の発言により、また新たな側面にスポットが当たったといえるだろう。
取材・文/集英社オンライン編集部