常識に縛られる妻は「つまらない女」 不倫がバレて“しぶしぶ再構築中”の45歳夫が語ったホンネ

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【前後編の後編/前編を読む】「おかあさんは恋に落ちたんだよ」怒りも嘆きもしない父… 自由すぎる親に反発した45歳夫が結婚相手に求めたもの
自らの不倫がバレ、現在、加地宏一さん(45歳・仮名=以下同)は妻の愛美さんとの関係を再構築中だという。宏一さんを育てた両親は、本人にいわせると「ヘンな人たち」。頻繁に移住を繰り返し、彼が高校生の時には子供を置いて揃って留学するも、「おかあさんはあっちで恋に落ちた」と父だけが帰国したほどだ。その後に戻ってきた母のことを、父は受け入れたという。そんな変わり者の家庭に反発するような“常識への憧れ”で選んだ結婚相手が、しっかりものの愛美さんだったはずなのだが……。
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宏一さんの両親は「孫」もかわいがってくれた。だがもちろん、ふたりは子どもといえども、ひとりの人間として扱うタイプ。何かを押しつけることもなく、孫が意思表示ができるようになるとおもしろがっていた。
「そんなに頻繁に会うわけでもないけど、妻は僕の両親を嫌がっていましたね。『かわいがり方が普通と違う』って。変わってる、子どもが普通に育たないと危惧していた。そんなにたいしたことはしてないんですよ。3歳くらいになると、子どもに食べたいものを自由に選ばせたり、洋服なんかも自分で組み合わせて着てごらんと言ったり。徹底的に本人の意志を大事にすること、何でも本人に選ばせることが大事だと親は思ってる。そのために彼らは待つんです。決して子どもを急かさない。相手は子どもなのだからヘンだと妻に言われると、僕としては両親をかばいたくなる。人間にとっていちばん大事なのは自由だと妻に力説したりして。言っているうちに、あ、僕はあの両親に育てたられたから、内心は本気でそう思ってるんだと気づきました」
そのうち愛美さんは、子どもが何かすると「まあ、あなたの子だからね。あのご両親だから」と言うようになった。それが不快だったと宏一さんは言う。
「人は自分のルーツを否定されると頭に来るんですね。僕はきみの両親を否定したことはないはず、どうしてうちの親をバカにするんだと言ったら、『別にバカにはしてない。変わってるなあと思うだけ』って。せっかく結婚したのだから、うまくやっていこうと思っていたのに、妻が『あまりに常識的』なことに少しずつ不満がたまっていきました。あんなに常識に憧れていたのに」
仕事と家庭だけだと煮詰まっていく感じがして、また音楽を始めた。たまたま取引先に音楽好きがいてバンドに参加しないかと誘われたのだ。ギターを出してきて弾く彼を、愛美さんはにこりともせずに見ていた。
「ライブハウスでの演奏会に出るための練習に5歳の息子を連れていったんですよ。息子、やたらノリノリになっちゃって。みんなに才能ありそうと言われてその気になりました。息子にピアノを習ってみるかと聞いたら、僕はドラムがいいって」
別にプロにならなくてもいい。自分も何度も辞めてはやはり音楽から完全に離れることはできなかった。好きなことがあれば人生は救われる。宏一さんはそう思っていた。彼はロック好きだが、息子はなにやらジャズに反応することもわかり、バンド仲間もおもしろがってくれた。
「だけどある日、愛美からライブハウスに連れていくのはやめてと言われました。夜、連れていってるわけじゃない。練習は週末の午後です。かまわないだろうと言ったら、もうお受験に間に合わないからって。お受験なんてさせるつもりはないと言うと、『あなたの常識ではそうだろうけど、私の常識ではお受験させるの』って。勉強なんてどうでもいいという家庭で育ってますからね、妻の言うことには大反対しました。なにより息子が練習に行くのを楽しみにしてるんですから。おとなしくずっと練習を聞いているんですよ。それでバンド仲間にドラムを習うのを楽しみにしてる。息子から楽しみは奪えません」
3人の子を育てながら、自由に楽しく生きてきた両親を、つくづくすごいなと彼は思ったそうだ。お互いに相手の存在をまるごと受け止めるだけの器があったのだとも気づいた。
息子にも宏一さんにも受験の意志がなかったため、小学校は地元の公立に入学した。息子は調子がいいタイプで、クラスの人気者らしい。妻にはそれもあまり好ましくないようだ。目立つと仲間はずれにされるのではないかと危惧し、調子のよさだけで世の中渡ってはいけないと息子に言うのを聞いて、宏一さんは「息子の好きにさせろ」と声を荒げてしまったことがある。
地道に生きてきた妻に敬意を抱いていたのに、いつしか「つまらない女」だと思うようになっていた。そんな自分の変化に宏一さんは驚いたという。
「いちいち意見は合わないけど、だからといって妻を責めるわけにもいかなくて。それぞれの価値観ですからね。ただ、妻は狭量なので僕を責めてくる。だんだん疲弊していき、帰宅して夕飯をとり、息子が寝てから、ときどき近所の居酒屋に出かけるようになったんです。それまで地元の人とのつきあいも息子関係以外にはなかなかなかったんだけど、居酒屋に行くようになって知人も増えました。新たな世界がまたできてホッとした」
よく顔を合わせる同世代の美奈子さんという女性と世間話をするようになった。既婚だが夫は出張が多く、子どもがいないため「ここで飲むのが唯一の趣味」と笑っていたが、彼女がいないとき店主に聞くと「バリバリのキャリアウーマンらしい」とのことだった。
「だんだんお互いの仕事のことにも触れるようになっていき、彼女が美容関係の会社を経営していると知りました。僕の会社よりずっと大きかったけど、経営論みたいなことも話せる相手ができて、だんだん彼女に興味がわいてきましたね」
めったに酔わない彼女が、1度、泥酔したことがある。彼は自ら送っていくと名乗りを上げた。彼女のマンションの部屋に入り、寝かしつけてから鍵をかけて、その鍵を新聞受けに入れて店に戻った。
「あらぬ噂をたてられるのは嫌だったから、ちゃんと店に戻りました。その一件で、店主や常連さんたちも信用してくれるようになった気がします」
次に彼女に店で会ったとき、「先日はありがとう。ごめんなさい」と言われ、「宏一さんが紳士でよかったね」と周りからも冗談が飛んだ。だが男と女はどうなるかわからない。周りが「単なる飲み仲間」と関係を決めたところで、ふたりの心の内はそうではなかった。
「あるとき彼女が『明日、早いから』と浅い時間で引き上げ、僕もそろそろと店を出ると、なんと彼女が物陰に隠れて待っていたんです。『どうしてもふたりで話したくて』って。それだけで気持ちが通じ合った。黙って彼女のマンションへ行きました」
彼女とは体でも会話ができたと、彼はすごいことを言った。お互いの心がぶつかりあい、言葉にならない熱いものが行き交っていた。ふたりはそれから時間を絞り出しあうようにして逢瀬を重ねた。
「ただ、近所だし共通の知人もいるしと、かなりリスキーなつきあいですよね。でもそのスリルがさらに僕らを燃え上がらせた。彼女は『あなたとだと、どんどんよくなる』と言ってくれるから、男として自信がわきおこってくるんです」
リスクはじゅうぶんわかっていたのにやめられない。それが不倫の魔力なのだろうか。案の定、妻にばれた。愛美さんは淡々と「どうするつもりなの」と言った。「こんな人が父親だって言えるの」と責められ、「人間にはいろんなことがあるっていつか息子もわかってくれるさ」と言ってしまった。その言葉が愛美さんの怒りの火に油を注いだ。
「離婚しましょう、2度と息子には会わせないと言われて焦りました。ひたすら謝って謝って、離婚だけは回避しました。妻は傷ついたんだと思うけど、自分が傷ついたとは言わなかった。ただ『世間体が悪い』『息子に恥ずかしい人間にならないで』ということだけ。恋をするのが恥ずかしいことなのか、こんな親ではいけないのかは息子が決めることですからね。妻は僕が僕の両親みたいになるのを恐れたんでしょう。僕は僕で、不倫した母の血を受け継いでいるのかとおかしかったですね。母は本気の恋だったという話だったけど、僕だって美奈子には本気でした」
美奈子さんにことの顛末を打ち明けた。彼女は「ほとぼりが冷めるまで待つ? それとも別れるしかないのかしら。友だちに戻ろうか」とさまざまな案を出してきた。別れたくないのよと言われ、自分も同じ気持ちだと宏一さんは伝えた。
数週間後、美奈子さんから鍵と地図が送られてきた。メモには「逢い引き場所を確保した」とあった。なんと彼女、部屋を借りてしまったのだ。
「手際がいいというか、自分の欲望に忠実というか。でもそういう美奈子が魅力的だと思いました。それ以降、その部屋でときどき美奈子と会っています。刹那的だけど本気の恋だとふたりとも思っている。恋を長続きさせたいわけじゃないんです。燃え尽きたいんです」
宏一さんの言葉に力が入る。一方で、彼は愛美さんとの「家庭」を再構築すべくがんばっているところだとも言った。それはひとえに息子のためだ。この春、息子は中学に入学する。息子が成人するまでは、一応、両親が揃った家庭にしておきたい。
「家庭の形なんてどうであってもいいと思うんですが、今の段階で離婚したら、息子に会う障壁が高すぎる。だから現状維持を選びました」
不倫相手との関係を続けながら、妻との再構築を実行するのは至難の業だと宏一さんは言う。それは当然だろう。彼から妻への愛が感じられないからだ。それなりに情はありますよ、息子の母としてリスペクトもしている。彼はそう言うが、それは情であって愛ではなさそうだ。
「再構築」は遅々として進んでいない。彼は妻に笑顔を向ける努力をしているが、妻から笑顔が返ってくることは少ない。再構築をするために会話を増やそうと話したのだが、息子がいないと妻と話すことがないと焦燥感だけが募る。
「妻とは、本当に関係が崩壊するのを見届けるために日々、生活しているような気がします。息子は、両親の関係がそこまで壊れているとは思ってないでしょう。こういううわべだけの形を維持することが、息子にとってもいいことなのかどうか。最近は、そんなふうに考えるようになっています」
美奈子さんは、どちらかというと宏一さんの母親タイプだ。自分のしたいことはする、我慢はしないと断言している。子どもがいないことがコンプレックスになっているようにも見えない。「できなかったものはしょうがないわよね」という感じだ。
「あっけらかんと事実を受け止めて前に進んでいく。そんな美奈子が好きなんですが、美奈子は『私は夫のことも好き』と平然と言っています。夫とは友だちのような信頼関係がある。でもあなたといると、私は女でいられるのって。うまいことを言いますよね」
この恋がどういう終焉を迎えるのか、宏一さんには想像ができない。ただ、男と女としてお互いをむさぼるように欲している。愛でなくていい、ただの情欲でもいい。それでも美奈子との縁は切りたくない。でも息子とは離れたくない。思い切り本音をぶちまけてくれた宏一さんは、少しすっきりしたと笑顔を見せた。
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「常識」を求めていた宏一さんだったが、結局、血は争えないということなのか……。彼が育った破天荒な家庭環境については、記事前編で詳しく紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部

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