「歯石取りは痛い」と疑わない人が知らない真実

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歯石取りで「痛い」と感じるなら、その歯石取りは歯によいどころか、歯の寿命を短くしているのです(写真:mits/PIXTA)
むし歯にならないためには甘いものにだけ気をつければいい、と思っていませんか。むし歯・歯周病予防をはじめとする日本人の歯と口のケアは、世界標準からかなり遅れていると歯科医師の前田一義さんはいいます。前田さんの著書『歯を磨いても むし歯は防げない』から、むし歯にならないための口腔ケアを一部引用・再編集してご紹介します。
一般に「甘いものを食べる人ほど、むし歯になりやすい」といわれます。そこから「甘いものを食べたあとは、しっかり歯を磨きましょう」という話にもなります。
むし歯の原因が甘いものと考えられるのは、口の中の糖と炭水化物がむし歯菌のエサになるからです。そのため甘いものに気をつける人は多いですが、一方で酸っぱいものになると無頓着な人が少なくありません。
お酢や柑橘類など、すっぱいものは体にいいというイメージもあります。とはいえ、歯の健康という点では、すっぱいものも要注意です。
すっぱいものはpHの値が小さい酸性です。むし歯菌が出す酸に限らず、酸には歯の表面を覆うエナメル質を溶かす働きがあります。すっぱいものを食べすぎたり飲みすぎたりすると、酸で歯が溶けてしまうことがあるのです。
これを「酸蝕症(さんしょくしょう)」といいます。むし歯がむし歯菌が出す酸で歯が溶ける病気であるのに対し、酸蝕症は食べ物や飲み物の酸で歯が溶ける病気です。
たとえば、食べ物を吐いたり逆流性食道炎になったりすると、胃液が逆流して歯が溶けることがあります。これは胃酸が強い酸性の酸だからです。
すっぱい食べ物の代表格にレモンがありますが、レモンのpHは2.3です。胃酸は、それより強いpH1.0~1.5です。胃酸が強い酸性だから起こる現象で、同じことが食べ物や飲み物で起こることもあるのです。
私の患者さんにも「健康にいいから」とお酢を飲み続け、形が変わるほど歯が溶けてしまった人がいました。セラミックをかぶせる治療をしましたが、酢にはそれぐらい歯を溶かす力があるのです。
強い酸性の食べ物や飲み物は、意外にたくさんあります。ドレッシング、果物、柑橘系のジュースや飴などです。これらを摂るとき、とくに注意したいのが最後に何で終えるかです。
最後に食べたり飲んだりしたものが酸性だと、口の中はしばらく酸性が続きます。歯が溶けやすい状態で、そのまま歯磨きすると歯ブラシによる摩擦で歯を傷つけやすくなります。
これを防ぐには、食事の順番を工夫することです。私がイエテボリ大学歯学部の短期研修を受けたとき、予防歯科の第一人者ピーター・リングストロム教授が朝食を食べる順番を次のように解説しました。
「コーンフレークとミルク」「オレンジジュース」「パン、チーズ、紅茶」を食べるときです。
「コーンフレークとミルク」「オレンジジュース」「パン、チーズ、紅茶」
「コーンフレークとミルク」「パン、チーズ、紅茶」「オレンジジュース」
,僚臠屬膿べたときは、食後すぐの歯磨きは「問題なし」とのことでした。一方、△僚臠屬膿べたときは、食後すぐの歯磨きは「問題あり」とのことでした。オレンジジュースは酸性なので、口の中はしばらく酸性になっているからです。
,皀レンジジュースを飲んでいますが、その後に紅茶を飲んでいます。紅茶のpH値は5.7~6程度で、最後が歯が溶ける臨界pH(pH5.5)より高い状態になるから「問題なし」となるわけです。
食後すぐに歯を磨きたいなら、食事の最後は紅茶やコーヒー、麦茶、緑茶など中性かアルカリ性の飲み物で終えるのがベターです。あるいはガムを噛んで、唾液の分泌を促進する方法もあります。唾液の作用で、口の中が早く中性になります。
酸蝕症から歯を守るには、飲み方を工夫するのも一つの方法です。ストローを使い、できるだけ歯に触れないようにすることで、リスクを減らせます。
また、お酒のpHは、種類によってかなり異なります。ワイン、日本酒やビールなどの醸造酒は、総じて酸性です。とくにワインのpHは低く、日本酒やビールがpH4程度なのに対し、ワインはpH3程度です。
逆に焼酎やジンなどの蒸留酒はpHが高く、なかでもジンは、商品にもよりますがpH8ぐらいのものもあります。理論上は、食事の最後にジンを飲めば口の中はアルカリ性になり、歯が溶ける心配はないことになります。
(図:『歯を磨いても むし歯は防げない』より)
歯科医院で行う口腔ケアの一つに、歯石取りがあります。歯石とは、プラーク(歯垢)が石灰化して硬くなったものです。いわばバイキンの「死骸」なので、じつは歯石自体に害はありませんが、歯石の表面にはプラークが付きやすく、放っておくと、歯周病の原因になります。歯石は歯ブラシで取ることはできず、歯科医院で取り除いてもらうことになります。
この歯石取りについて、「痛くて当たり前」と思っている人が少なくありません。私も患者さんから「歯石取りで、歯をガリガリ削られて痛かった」という話をよく聞きます。
でも、これは誤解で、歯石取りが痛いか痛くないかは、手段の違いによるものです。
日本における歯石取りの主流は、「SRP(スケーリング・ルートプレーニング)」と呼ばれるものです。「スケーリング」は、スケーラーと呼ばれる器具を使って歯石をガリガリと除去すること。ルートは「歯根」、プレーニングは「滑らかにする」の意味です。つまり、ルートプレーニングは、歯根の表面の汚染されたセメント質を取り除くことです。
歯のセメント質を削るのは、セメント質についたプラークがバイキンで汚染されているという考えからくるものですが、この考えはすでに否定されています。1980年代には、歯のセメント質を削る必要はないことが明らかになっています。
にもかかわらず日本では、いまだルートプレーニンクが一般的で、歯のセメント質を削っているのです。「削る」のですから当然、痛みを伴います。なかには患者さんの負担を減らすため、麻酔を施す歯医者もいるほどです。
患者さんは歯がスベスベになって嬉しいかもしれませんが、歯の健康という面では問題です。削られたセメント質は再生されないので、何度も行ううちに歯はボロボロになっていきます。
削ったところからバイキンが入ってむし歯になることもあれば、歯の神経が損傷し、やがて死んでしまうことにもなります。やりすぎると、モロくなった歯が折れたりすることもあります。
つまり、歯石取りで「痛い」と感じるなら、その歯石取りは歯によいどころか、歯の寿命を短くしているのです。
現在、世界で主流となっている歯石取りは、超音波を使う方法です。超音波による微細振動で歯石を剥がし、粉砕していきます。ただし、使用時に出る独特の音と振動を不快に感じる人もいます。
そこで私のところでは、スイスのEMS社が推奨するGBT(Guided Biofilm Therapy:誘導的バイオフィルム療法)というシステムを採用しています。

GBTではプラークだけでなく歯石も除去します。ここでGBTの一連の流れをご紹介しましょう。
まずは染め出し液を使って、歯の染め出しを行います。歯に付いたプラークが可視化されるので、ここにジェット水流で特殊なパウダーを歯に吹き付けて、プラークを除去していきます。これを「エアフロー」といいます。これにより歯周ポケットの奥4ミリまで、プラークを取り除けます。
この方法なら患者さんはストレスがまったくなく、施術中に寝てしまう人もいるほどです。ただし、長期間放置された歯石は硬すぎて除去できないので、超音波で取り除きます。
逆にいえば、定期的にGBTを行っていれば、エアフローですべて取り除けます。プラークが歯石になる前に取り除けば、痛みもストレスも感じずにすむのです。
(前田 一義 : 歯科医師、日本歯周病学会認定医)

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