「車内から覚醒剤」「運転中にチューハイ」…運営終了の『個人間カーシェア』裏にある悪辣利用者の実態

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〈昨年末をもって完全終了となった個人間カーシェアリングサービスの『Anyca(エニカ)』。誰もが豊富な選択肢の中から安価に車を借りられるサービスとして話題を集め、会員数は91万人に達したが、10年を持たずにサービスを終了した。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏が、裏にあった悪質な利用者たちの実態に迫る〉
’15年9月に個人間カーシェアの先駆けとしてサービスを開始した『Anyca』が’24年12月31日をもってサービスを完全終了した。
近年急速に普及している「カーシェア」にはタイムズカーシェアのようなレンタカー型(ナンバーが「わ」のもの)と、個人所有の車両を貸し出す個人間カーシェアの2種類があり、『Anyca』は後者。個人間カーシェアのマッチングサービスを行っていた。個人間カーシェアはあくまで「個人所有車の共同使用」という観点から、有償貸渡業のレンタカー型カーシェアと違って「わナンバー」にはならない。旧車やスポーツカーなどレンタカーでは選べない多様な車種が選べることが人気の理由だったが、事件や事故などのトラブルが非常に多かったのも事実である。
こちらの記事では、これまで筆者が取材した中から、『Anyca』で実際に起きた悪質な利用者の実態について振り返る。
関西地方に住む小林智さん(仮名)は、’20年ごろから『Anyca』を利用して、個人間カーシェアを行ってきた。’23年末に車内の大掃除をしていた時、ダッシュボードとフロントガラスの間に透明の小さな袋が挟まっていることに気づいた。引っ張り出してみたところ、袋の中には白い粉状のものが入っていた。
「まさか? と思いましたね。写真やドラマなどで見たことはありましたが、当然、覚醒剤の実物を見たことはなかったので。いかにもそれっぽいけどどうするべきか……と悩み、『Anyca』のオーナー仲間に尋ねてみたところ、警察に提出すべきだと言われ、半信半疑で最寄りの警察署に持っていきました。鑑定の結果、間違いなく覚醒剤だということがわかり、改めて衝撃を受けました。
警察署では覚醒剤の小袋を持ったり、指をさしたりして写真を撮られるなど色々やらされました。指紋も取られましたし、私の全身写真も複数枚撮られるなどして結局、3時間以上拘束されました。発見された場所は外からでも見つけられる可能性があったので、警察に見つけられていたら、間違いなく聴取はもっと大変なことになっていたでしょう」
警察はその後、『Anyca』に利用者開示請求を行ったとのこと。いつからその小袋があったかは不明なので、過去数ヵ月間に借りたドライバー情報を獲得し、犯人の特定を進めているという。
’21年6月、FRIDAYは【「Anyca」で車を貸したらジモティーに出品されていた!】と題した記事を掲載した。被害者は、貸し出した高級スポーツカー「GT-R」を勝手に出品され、中古車業者が落札。犯人はいまだに分かっていないという。
実はこの時期、ほかにも『Anyca』でマイカーを売却されかけた利用者がいる。メルセデス・ベンツGクラス(ゲレンデヴァーゲン)のオーナー、山本隆史(仮名)さんが当時を振り返る。
「手口は複雑かつ巧妙なものでした。犯人はまず、『自動車オークション会社の覆面調査』だと言って、1日5万円でアルバイトを雇ったそうです。バイトから警察への告発を防ぐためなのでしょう、オークション会社の偽研修まで設定して『闇バイトではなく、正規の仕事』と信じさせていました。そしてそのバイトを『Anyca』に登録させて私のゲレンデをシェアさせ、犯人のもとまで運ばせる、いわゆる“受け子”のような使い方をしていました。
犯人はジモティーで勝手に私のゲレンデの売買契約を成立させていました。ゲレンデの購入者は、わざわざ九州から現金900万円を持って東京・赤坂の駐車場まで呼び出されたと聞いています。そこに、私のゲレンデに乗って現れたのは『取引の代理人』を自称する“行政書士の手塚”と名乗る男だったそうです。しかし、土壇場で購入者が何かおかしいと気づき、書類上のオーナーである私と赤坂警察署に連絡。“手塚”は警察が到着する直前に逃げましたが、お金もゲレンデもなんとか無事でした」
筆者はバイトに加担してしまった人物も取材したが、結局、バイト代は支払われていないという。
最後は「飲酒運転」の現場である。こちらは埼玉県在住の三井誠さん(仮名)が『Anyca』で貸したメルセデス・ベンツが返って来た後、ドラレコを確認して発覚した。貸し出した相手は態度が非常に悪く、返却予定を大幅に過ぎても車が返ってこなかったという。
「返却予定を過ぎても連絡がなく、結局2日も遅れて返ってきました。そして車内はお酒をぶちまけた跡があり、シミになって今も残っています……。ベタベタして色もついたままなんですよ。しかも何のお詫びもありませんでした。腹立たしいです。
車内で一体何をしたのか、とドラレコを見ていたら、運転席と助手席に乗る2人が缶チューハイや缶ビールを飲んでいました。昼も夜もです! そして車内にお酒をこぼしながら飲むシーンもドラレコに残っていました。録画されていたことには気づかなかったんでしょう。ドライバーは少なくとも2本以上の缶チューハイを飲んでいましたね」
飲酒しながらの運転、しかも車内にお酒をぶちまけて掃除もしない……。写真を見ると若い男性のようだが、こんな非常識な人間でも免許証さえあればドライバー登録ができて車も借りられるのが恐ろしい。しかも、『Anyca』は単なるマッチングサービスを提供する会社というスタンスなので「トラブル解決は当事者同士でお願いします」と深入りしない方針を貫いていた。
これらの出来事は実際に起きていたのか、把握しているのか。FRIDAYデジタルの取材に『Anyca』を運営していた『DeNA SOMPO Mobility』は以下のように回答した。
「サービス終了に伴い報道関係者様からのお問い合わせも受付できない状況でございますので、ご了承いただければと思います」
上記のような悪質な利用者のトラブルのほか、オーナーによる詐欺まがいの事件も多数起きていたという。多かったのは「ドアに擦り傷がついていた。修理代に10万円支払え」など、身に覚えのない修理代を請求されるケースである。
今回紹介した3つの事例は、言うまでもなく、一番悪いのは利用者である。しかし、それを規制する仕組みが確立されていなかったことも、『Anyca』のサービスが終了した一因だったのかもしれない。個人間カーシェアは、正しく運用できれば便利かつ低価格という夢のようなサービスだ。しかし、誰もが安心して利用できるサービス構築には、まだまだ課題が多いことも現実と言えよう。
取材・文:加藤久美子

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