わずか2分で返礼品 ふるさと納税「自販機」で再起図る高野町

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真言密教の聖地で世界遺産の高野山がある和歌山県高野町に今年6月、観光客らが手軽にふるさと納税できる自動販売機が近畿で初めて設置された。
同町のふるさと納税をめぐっては、かつて総務省に返礼品が「過度」と問題視され、一時制度から除外されるなど揺れた経緯があるが、今回導入した自販機には、少額寄付の選択肢も用意。順調に実績を伸ばしており、担当者は「ふるさと納税の底上げにつながれば」と巻き返しに期待する。
高野町が6月20日に運用を始めた自販機は、神奈川県のIT企業グローキーアップが開発。すでに関東や東海の自治体には導入されており、近畿では初めて高野町に設置された。
画面をタッチして操作。希望する返礼品を選択し、氏名や住所などの個人情報を入力。カードリーダーを使い、クレジットカードで決済すると、レシートが発券される。このレシートを設置場所の高野山宿坊協会中央案内所に提出すれば、返礼品と交換してもらえる。
当初は寄付額1万~10万円で運用を開始。返礼品には、町内の宿坊の割引券や町内で使える商品券などを用意した。町によると、自販機による寄付は9月末時点で49件、95万4千円と滑り出しは上々だ。
商品券が選ばれるケースが圧倒的に多く、担当者は「現地で使えるのがメリット。(返礼品の)送料が発生しないのでとても助かっている」と話す。
協会によると、利用者からは「ふるさと納税が自販機でできるなんて便利」という感想があったほか、報道で知って珍しがって訪れる観光客らがいたという。
「過度な返礼品」新戦略を模索
町は、ふるさと納税に揺れた経緯がある。
かつては、精進料理のごま豆腐や日本固有の常緑針葉樹「高野槇(こうやまき)」などの町特産品以外にも、クエ鍋用の切り身セットや熊野牛など和歌山全体の特産品、高野山を開いた弘法大師・空海の生誕地・香川にちなんだ讃岐うどん、空海が真言密教の根本道場とした京都・東寺とゆかりのある京菓子などを返礼品に設定した。
認知度は急上昇し、寄付額は平成25年度の約300万円から、翌26年度には約1億3500万円に急増。30年度には寄付額の半額にあたる旅行ギフト券を返礼品にし、寄付額は約196億3700万円に達した。
しかし、総務省は「過度な返礼品」と問題視し、大阪府泉佐野市など3市町とともに、令和元年6月にスタートしたふるさと納税の新制度から除外した。
しかし、泉佐野市の除外決定の取り消しを命じた2年6月の最高裁判決を受け、総務省は一転、参加を容認。高野町では翌7月にふるさと納税を再開した。再開後の新戦略を模索する中、着目したのが自販機だった。
「終了まで約2分!」観光客にアピール
先行して自販機を導入している自治体では、着々と実績を上げている。
2年12月に導入した神奈川県湯河原町では、遠方からの利用客も多い「湯河原カンツリー楽部」内に設置。返礼品にはゴルフ場利用券を用意した。
ふるさと納税の寄付額は自販機だけで2年度が約700万円、3年度は約1千万円。町全体でみても、2年度の約2億6千万円が、3年度には約3億8千万円に増えた。特に3年度は、50万円もするゴルフ場利用券を選んだケースが3件あったという。担当者は「インターネットに詳しくない人も、自販機ならば抵抗がない。知名度向上にも役立っている」と話す。
ただ、高野町の担当者は「ゴルフ場のような施設はないので、一度に大きい額よりも『3万円を10件』といった感じでコツコツとやっていきたい」と狙いを明かす。
その一環で、8月には返礼品付きで4千円という少額の寄付コースも新たに用意した。今後は、観光客に人気の森林セラピーなど高野山らしい体験プランも返礼品として検討している。
自販機自体もPRしようと「終了まで約2分!」などと書いたポスターも新たに作製。町内各地や、高野山につながる南海電鉄の主要駅に掲示し、利用を呼びかけた。
来年は空海の誕生1250年の節目で、観光客数の伸びが期待される。平野嘉也町長は「ぜひ自販機に活躍してもらいたい。財源が乏しい町なので、住民のために財源を確保したい」と意欲をみせる。(山田淳史)

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