バツイチ女性と結婚、産まれた息子が「自分に似ていない」 悶々とする44歳夫の前に前夫が現れ告げたコト

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【前後編の後編/前編を読む】2年交際の恋人は“人妻”だった… 「譲ってやるから金払え」と夫から提示されたお値段は
猪田栄一朗さん(44歳・仮名=以下同)は、妹からの紹介で6歳年上の美都さんと交際を始めた。だが2年が経った頃、美都さんは「あなたの妹さんも知らないことだけど…」と、実は既婚者であると明かした。夫とは腐れ縁の関係で、家にはめったに帰ってこないヒモのような関係だという。意を決して接触した栄一朗さんに、その夫は「譲るよ。300万くらいでどう」と告げる。会社から金を借り、栄一朗さんはなんとか金を工面した。
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栄一朗さんが美都さんと結婚したのは、それから1年後。ようやく帰国して外資系の会社で働いていた妹はとても喜んでくれたが、彼は美都さんが再婚であることは妹に伏せた。妹がショックを受けるのは見たくなかった。
「新婚生活は楽しかった。美都はフルタイムで働いているのに、家事もほとんどこなしてくれました。僕も気づけばやるんだけど、『あなたは仕事に集中して』と妙に古風なところもあって……。これからはとにかく仕事をがんばるしかないと僕も心に誓ったとき、美都が妊娠しました」
子どもはいずれと考えていたが、すぐにほしいわけではなかった。だが、美都さんは早くほしかったそうだ。結婚時にそのくらいのことは話し合っておけばよかったと思ってもあとの祭り。喜んでいる美都さんを見て、彼自身も気持ちを切り替えた。
「美都は、子どもがいても私は仕事を続けるから、一緒に育てていこうねと満面の笑顔でした。それを見たら、僕もうれしくなってきた。夫婦って、こうやってさまざまなできごとを喜び合いながら生きていくんだと実感したんです」
娘が産まれ、その4年後、とびきり元気な4キロを超える男の子が産まれた。美都さんの母親も全面的に協力してくれた。義母は、娘の前の結婚生活を知っていたから、そこから救ってくれた栄一朗さんに、いつも感謝の言葉を絶やさなかったという。
「美都も僕も、子どもたちのいる生活が重要だったし、仕事も充実していた。生きてるなあとよく思いました。日々、生きている実感がある。学生時代も講義とバイトで忙しかったから、忙しいのは変わりないけど、実りある日々を送っているのが喜びでした。美都はなかなかの肝っ玉かあさんで、僕にもビシバシ指令を飛ばす。やっぱりこの人の言うことを聞いていればいいんだなと安心した日々を送っていました」
だが、実際にはほんの少しの「違和感」があった。それがだんだんと自分の心の中で色づき始めていった。見ないようにしていても心に巣くう違和感の陰は濃くなっていく。
息子が小学校に上がった5年ほど前、近所の人やママ友から「息子ちゃんはママ似なのかな。パパには似てないわね」と立て続けに言われ、彼は違和感の正体を受け止めざるを得なくなった。
娘は鼻の形や指などが栄一朗さんに似ていたし、性格的にも違和感がなかった。だが、息子にはふっと「他人」を感じるときがあった。そもそも骨格が自分とは似ても似つかない。部分的に似ているところも見いだせない。性格は素直なのだが、妙に頑固なところがあり、それも彼や美都さんの想像を超えるものだった。だがまだ子どもだ。しかも似ている似ていないは主観的なものが大きいし、息子は誰より彼に懐いていた。息子が最初に発した言葉は「パパ」だった。あのときの感動を、栄一朗さんは忘れてはいなかった。だがその半面、疑惑がふつふつとわいてくる。
「疑念をもつ僕がいけないんだと思っていました。美都の前の結婚のことだって、僕は水に流して結婚した。あの男からきちんと奪い取った妻なのだから、僕が信用しないでどうするんだと……」
それでも沸いてくるのが疑念というもの。いっそDNA鑑定をとは思ったが、大事な妻を疑ったり試したりしてはいけないと自分を戒めた。
「美都の言動に不信を抱いたことはなかったけど、疑念が濃くなると、彼女が残業といっても実は男と会っているのではないかと、さらに妄想が広がっていくんですよね。その妄想だけが暴走していくような気がして、自分で自分が怖かった」
幸せすぎて怖いのだと自分に言い聞かせた。平和な家庭を守るためには何でもしようと決めた。
ところが2年前、あの男が目の前に現れた。美都さんの前夫の圭司さんだ。たまたま栄一朗さんが出勤後、体調が悪くなって早退したときのこと。昼過ぎに帰宅して玄関を開けたら話し声が聞こえた。美都さんは彼より早く出社していったし、子どもたちは学校だしと思いながらリビングに入ると、美都さんと圭司さんがソファで寄り添っていた。
「固まりました。もちろん、美都も圭司さんも固まっていた。何やってんのと言ったような記憶があります。圭司さんはおろおろしてた。あのとき僕を脅した彼とは、すっかり印象が変わっていた。美都は『違うの。たまたま街でバッタリ会って』と言ったものの、あとが続かない。何度もこうやって家に入れていたのか、おまえら、どういうつもりなんだと、日頃の自分からは想像もつかないような汚い言葉が次々出てきました」
わかった、栄ちゃん、落ち着いてと美都さんが言った。と同時に、ガバッと圭司さんが土下座した。
「申し訳ない。美都を譲ってほしい、と。300万円は返すからって。何がなんだかわからなかった。僕の後頭部でブチッと音がして、圭司さんに殴りかかりました。人を殴ったのは生まれて始めてだった。圭司さんをバシバシ殴ったのに、彼は反撃してこなかった。鼻血が出ているのに気づいてやめたとき、僕の右手は真っ赤になっていた」
急に冷静になった栄一朗さんは、いつから関係をもっていたのか、息子は圭司さんの子なのかと尋ねた。美都さんはびっくりしたような顔になった。
「違う、1年前からだと。街でばったり再会し、ヨリが戻ってしまった。夢を追っていた圭司さんだったが、その夢は半分かなったような形で仕事になった。性格もすっかり穏やかになった彼に再度、惚れ直してしまったのだと美都は正直に言いました。実は子どもたちも、ママの友だちとして彼に懐いているとまで聞かされて、ショックは大きかった」
美都さんは、「私たちが会うのを公認してくれるか、もしくは離婚か」と突きつけてきた。こっちが被害者なのに、何を言ってるんだと栄一朗さんはブチ切れた。
「それはわかってる、でも現実として、私たちは関係を続けていきたい。人の気持ちを縛ることはできないでしょうと美都は冷静に言った。私は栄ちゃんのこと、好きだよ、だからこそ3人で子育てに関わったほうがいいような気がするんだけどと。何を言ってるんだと思いましたが、確かに離婚したら子どもたちはショックでしょう」
そこから栄一朗さんの苦悩が始まった。圭司さんは「ふたりの決断に任せる」と言った。だが、美都さんが自分を選ぶとわかっていての発言だろう。栄一朗さんは悩み、迷い、苦しんだあげく、子どもたちを最優先という結論に達した。
「結局、離婚はしない、家庭は維持する。美都が圭司さんと会うことを許容する。そう決めました。だからといって僕ら夫婦の関係が壊れたわけでもないんです。美都と圭司さんが会うのは月に2回まで、家庭には決して迷惑をかけない。そういう条件を圭司さんはのみました。彼は、『自分にとって、美都は人生のミューズだ』とまで言っていた。でも考えたら、僕にとってもそうなんです。妻は生きる指針みたいなもの」
美都さんと圭司さんが会う日は、栄一朗さんは早めに帰宅して子どもたちと夕食をとる。いつか親がこんな状況だったことを子どもたちが知る日が来るかどうかはわからない。できれば隠しておきたいが、いつか知らせてもいいかもしれないとときどき思うと彼は言った。
「というのも、そういう事態になってから、僕と圭司さんはたまに飲みに行くようになったんです。彼は若いころの美都への仕打ちを反省していて、あのとき僕に美都を譲ってよかったと言う。自分にとっても美都にとっても、あなたは救世主だったと。でも僕は彼らの救世主でいたいわけじゃない、僕は僕で美都との生活が幸せだったのに、あなたが出てきて苦しいんだと訴えた。わかります、と圭司さんは言うわけです。なんだこいつと思いながらも、そういうやりとりを重ねていくうちに、お互いを尊重するようになって……。なんだかわからないけど圭司さんと仲よくなってきちゃったんですよ」
栄一朗さんはそう言って苦笑した。本来は敵といってもいいはずなのに、お互いに理解ができるようになって敵視するのもばかばかしくなったという。
「不倫公認というわけでもないんですが、みんなが幸せになるには、それぞれが少しずつ痛みを抱えていくしかないよね、という感じかなあ。その話が出たころ、義母が急逝したんですよ。昨日まで元気だったのに、朝、ベッドの中で冷たくなっていたそうです。人はいつそうなるかわからない。それも僕の決断に大きな影響を与えました。美都と圭司さんと僕と、3人、いつ死んでも後悔のないようにしたい。そんな気持ちもあって、この生活になったんです」
常識外れはわかっていると栄一朗さんは言う。だが、今のところ誰かに迷惑をかけているわけでもない。大人3人が責任をもって、この関係を続けていこうと決めたのだ。そして、彼は息子が自分の子だとわかったことでホッとしたとも語った。
「いや、でも今なら、たとえ息子が圭司さんの子だとしても、僕と息子の関係は変わらないと自信をもって言える。こんな選択をしたせいか、常識外れでもいいんだ、常識の外に幸せがあるかもしれないと思えるようになったんですよ」
それがいいか悪いかはわからないけど、少なくとも僕らはいい着地点を見つけたと思っていると彼は力強く言った。
「これから美都と子どもたちとで中華料理を食べに行くんです。最近は子どもたちがたくさん食べるから経済的に大変で……」
そう言いながら去っていく彼の足取りは妙に軽かった。
谷崎潤一郎VS佐藤春夫のようなことにはならずにすんだのは、3人が冷静に判断し、真ん中にいる美都さんの意志がしっかりしていたからだろう。男ふたりが勝手に物事を決めた時代とは違うのである。
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傍から見れば奇妙な三角関係だが、現在は絶妙なバランスの上に成り立っているようだ。そもそものきっかけは「300万円で美都さんを譲る」という圭司さんの申し出だった――の経緯は【前編】で詳しく紹介している。
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部

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