妻の“デート報告”に嫉妬、僕も元カノに連絡したら…「浮気公認」が招いた夫婦の破滅

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芝田義直さん(48歳・仮名=以下同)は、結婚して26年になる妻の梨緒さんから「お互いに浮気公認っていうのはどう?」と突然の提案を受けた。2人の子供を育て上げ、ふたりの老後について話していた際のことだ。戸惑う義直さんに、妻は「お互いにこれからもう少し自由にいこう」と言う。そして夫婦関係には変化が起きていった――。
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それから半年ほどたったころだった。妻が新しい洋服を着て出かけようとしたところに義直さんが帰宅した。
「夜の外出も基本的に自由ということになっていたので、妻にどこに出かけるのと聞いたら、『デート』って。めったに着ないパステル調のワンピースが妙にきれいだった。妻の心の中に浮気願望があるのは確かだなと思いました」
その日、遅くに帰ってきた梨緒さんは上機嫌だった。仕事関係で知り合った人に食事に誘われたのだという。それ以上、聞きたい? 梨緒さんは上目遣いに義直さんを見ながら言った。
「聞きたいような聞きたくないような。でも知らないのも嫌だしと思って、どんなデートだったのか尋ねました」
待ち合わせはおしゃれなカフェだった。仕事帰りの彼は少し疲れた風情だったが、座るなり少しだけネクタイをゆるめた。その手つきがセクシーだったと妻は言った。
「それから食事した店のこと、交わされた会話の内容などをかいつまんで話してくれましたが、なんだか聞いているうちにイライラしてきました。なんだそいつのその言葉は、あまり頭のいいやつじゃないなとか、それって女を下に見てるんじゃないかとか、梨緒が食いつきそうなワードを並べて揶揄してみましたが、彼女は動じない。駅でさらっと別れたというから、『路上でキスなんかするなよ』と言ったら、彼女はため息をついて『あなたって、なんだか下品よね』って。あ、自分が妻に嫉妬しているんだとわかりました」
好意をもったのかどうかと聞くと、もともと好意がないのに食事なんか一緒にしないでしょとはぐらかされた。恋なのかと追い打ちをかけると、「ねえ、男女の間に恋以外のどんな感情がある?」と挑発された。妻にはもともと男友だちもかなりいる。友だち関係だと固定してしまったら友情が深まっていくだけ。そこから恋にはならないわよと以前、言っていたこともある。それなのに男女には恋以外の感情はないと断言するとは、前言撤回なのか、以前の言い分が嘘なのか。
彼はひとりで悶々とした。ただ、浮気公認で了承したのだから、文句を言うこともできなかった。
「僕は恋愛願望はありませんでしたよ。どちらかといえば今さら恋なんてめんどうだとしか思えなかった。それなのに、SNSで高校時代に短期間、つきあっていた元カノが『知り合いかも』と上がってきた。驚きましたが、つい連絡をとってしまいました。彼女、結婚したはずなのに旧姓になっていたから、気になったのもあって」
元カノの愛美さんからは、すぐに返事があった。高校生に戻ったようなメッセージのやりとりをしている中で、「実はつい最近、離婚したの。なんだかさみしくてね……昔の友だちって懐かしいね」と彼女のしんみりした文言があり、義直さんの胸のあたりがぐぐっと締めつけられた。
「久しぶりで会わない? と書いたら、『私はひとりだから、いつでもいいよ』って。そのときは“浮気公認”の件は忘れていました。それを忘れるくらい、愛美に気持ちがもっていかれたのかもしれません」
ただ会いたかった。それは自分の若かりしころへの思い入れに過ぎなかったのかもしれない。人は中年期になると、なぜか昔の友だちを懐かしく思うようになるものだから。それでも再会したところから、またふたりの人生の時計は動き始める。
「30年ぶりに会ってみると、懐かしいというだけではない何かがありました。離れていた時間の長さを感じるとともに、積み重ねてきた彼女の人生の重みというのかなあ。愛美は『年とっちゃった』と笑ったけど、それはこちらも同じこと。思い出話や近況や、とにかくしゃべってもしゃべっても時間が足りなかった」
愛美さんが結婚して遠方へ行ったという話は、20代後半のころに噂で聞いたが、彼は当時、子育て真っ最中で友人たちが開いたパーティにさえ行けなかった。その後も高校時代の友人にはほとんど会っていなかったから、愛美さんがどうしているのかまったく知らなかった。
「結婚して、でも先方の実家と折り合いがよくなくて、5歳のひとり娘を連れて実家に戻ったそうです。ところが娘は交通事故で亡くなった。愛美の父が連れ出していた時に起きた悲劇で、それを機に両親とも疎遠になったって……。悲しい話ですよね。『私は死んだまま生きているようなもの』と自嘲的に言った彼女の顔がつらかった」
悲しみに沈んでいても娘は浮かばれない。そう思って仕事をしながらボランティアを始めるまでに10年かかったと彼女は言った。通信制の大学で学んで資格を取得、今は仕事の中でその資格を生かしているという。
「彼女の重みのある言葉、説得力のある表情、すべてが僕に突き刺さってきました。この人をもっと深く知りたい。そう思っているとき『義直くん、うちに寄って飲み直さない?』と言われ、断る理由などなく、ついていきました」
すんなり男女の関係になった。高校生のころはキス止まりだった。彼女に触れたいと思ったがかなわなかった。30年という時を経て、ふたりの思いと体が交わった。こんなことが起こるなんて、人生は捨てたものじゃないと思わず彼はつぶやいた。
「私もそう思ってると彼女が言いました。会えてよかった。もう2度と会えないとしても、今日のことは忘れないって。『何言ってるんだよ。これからも会おうよ』と言ったら、奥さんに悪いからと。うちは大丈夫、もう家庭内別居、卒婚してるんだと言ってしまいました。本当は卒婚じゃないのかもしれないけど愛美の関心を得たかった」
これからいろいろなところへ一緒に行こう、今度はここで僕が料理を作るよ。彼は気持ちが舞い上がり、彼女を喜ばせるようなことを並べ立てた。彼女の顔が徐々に輝いていくのがうれしくてたまらなかった。
「その日、家に帰るといつもなら寝ているはずの妻が待ち構えていました。思わずぎょっとしたんですが、妻は妻でなんだかはしゃいでる。『今日ね、またデートしたの。この前とは別の人』という。『今度、ドライブに行くことになった』というから、よかったねと答えました。正直言って、梨緒の言葉が心に入ってこなかった。僕は自分の身に降りかかった恋に酔い始めていたから」
それでも日常生活は穏やかに進み、義直さんは愛美さんにどっぷりとはまっていった。外泊などしたことのなかった彼が、愛美さんのところで寝込んでしまい、朝方帰宅したことがあった。すでに起きていた妻は何も言わなかったが、数日後、「ねえ、家庭を壊さないという約束じゃなかった?」と言いだした。
「浮気なんかしてないよ、オレはととっさに言ってしまいました。この前は酔った部下を介抱していただけだ、と。じゃあどうして何も言わなかったのと言うから、聞かれなかったからと答えました。夫婦でこういう会話をするのはおかしいと思いながら。そのときわかったんですよ。妻が浮気公認にしようと言いだしたのは、夫婦間に本当に刺激が必要だと思っていただけなんだ、と。デートしたと妻がいちいち言うのも、僕の妻への気持ちを刺激しようとしているんだと」
妻の“浮気公認発言”は、あくまでもデートをするくらいのことで、それが“本気の恋”であってはいけなかったのだろう。「あなた、今まで誰かとデートしたという話もしたことがなかったじゃない。それなのにどうして突然、外泊なのよ」と妻は怒った。
「だから部下を介抱していただけだってばと反論したけど、妻は完全に浮気をしたと思い込んでいました。まあ、当たってるんだけど。僕はしらを切り通すしかなくて、結局、これって普通の不倫した夫と怒っている妻の図式から抜けていないと思った。浮気公認なんて新しいようなことを言っておいて、実際に疑惑が起こると怒るのはおかしいだろと妻を責めてしまった」
それだけ愛美さんへの思いが強かったのかもしれない。自分の恋を邪魔されるのが嫌だった。だって浮気を認め合おうと言ったのは妻のほうだから。彼の理屈ではそうなる。妻は妻で、あくまでも若くして結婚して馴れあった夫婦の刺激剤として言いだしたこと。デートしたことを報告しあう程度のものと予測していた。だが、目の前の夫の心はここにない。魂を抜かれた肉体だけを目の当たりにして、こんなはずではなかったと思ったのだろう。
「たぶん、梨緒が浮気公認を言い出さなかったとしても、愛美に再会したらこうなっていたとは思うんです。でも梨緒にとっては思惑が外れたということなんでしょう。人の気持ちは想像通りにはならないものですよね。僕だって愛美にこんなに気持ちがいくとは思っていなかった……。オレと一緒にいたくないよねと言ったら、梨緒が頷いたんです」
その後、彼は家を出て愛美さんのもとへ身を寄せた。これ以上、一緒に住んでいたらかえって梨緒さんを傷つけると思ったからだ。梨緒さんが離婚するというなら彼は応じるつもりだが、彼から離婚を申し出る気はない。
「愛美は最初、『再会できただけでうれしかったから、一緒に住みたいとか結婚したいとか思ってないから』と言っていたんです。じゃあ、僕は家を出てひとりで暮らすよと言ったら、それならうちに来て、と。一緒に暮らして2年近くなりますがうまくいっています。なにもかもがすんなりスムーズなんですよ、愛美とは。それはもう、不思議なくらい。長年一緒に暮らしてきたようなあうんの呼吸ができている」
様子が気になるので、たまに自宅に顔を出すが、梨緒さんは彼と話そうとはしない。子どもたちからは、一時期、毎日のように電話がかかってきた。
「おかあさんが死ぬって言ってる、今すぐ見に行ってと娘から真夜中に電話が来たときは驚きました。すぐ駆けつけましたが、梨緒は眠っていた。薬を飲んだようにも思えなかったし、少しワインが残ったグラスがあっただけ。お酒を飲めない梨緒がワインを飲んでいるうちに娘に愚痴を言ったんでしょう。何かあればすぐ駆けつける、戻ってこいというなら戻る。すべてきみの決断に任せるという内容のメモを置いておきました」
その後、梨緒さんから「あなたはずるい」とメッセージが来た。確かに僕はずるいと義直さんは言った。だが、自分が離婚すると決めるわけにはいかないと彼は考えている。
「こんなことになって梨緒を傷つけたのはわかっている。でも元はといえば梨緒が言いだしたこと。ある意味では、夫婦で愛美を傷つけているとも言えなくはない。いや、そんなのは全部屁理屈ですね。僕が今、一緒にいたいのは愛美なんです。それだけ」
義直さんは、やっと心の内が吐き出せたと笑みを浮かべた。妻から妙な申し出があろうがなかろうが、彼が愛美さんと再会したところでこうなることは決まっていたのかもしれない。愛美さんと会えたことで、彼の心の中にあった「若くして結婚したために、若い時代を楽しめなかった」という後悔が洗い流されたのは確かだろう。
「今が青春なのかもしれません。幸せです」
羨ましくなるくらい、ストレートな言葉が漏れてきた。
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「浮気公認」の定義をめぐって、夫婦にはズレがあったのかもしれない……。一体どちらが悪いのか、そのいきさつは【前編】にて――。
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部

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