不凍液などに含まれる有害物質「エチレングリコール」を投与し、一家4人を殺害したとして逮捕された、“毒殺夫婦”こと細谷健一容疑者(43)と妻の志保容疑者(38)。2人は東京・浅草でホテルを経営する「ホソヤ産業」の経営権や遺産相続を目的に、子供のみならず姉や両親まで殺害したとされている。
残された親族は何を思うのか。「ホソヤ産業」を一代にして築き上げたものの、志半ばで息子・健一容疑者に殺害された勇さん(当時73歳)の兄が、亡き弟への想いを語った。
前回記事『不凍液連続殺人事件「まるで悪夢を見ているようだった」…4人を毒殺した“浅草のボンボン息子”の叔父が語る「魔」の半年間』から続く。
「勇はね、やっぱり自分の会社を継がせるなら男の子しかいないってことで、ずっと倅(せがれ)を欲してた。だからケン坊が生まれたときは本当に喜んでて、教育にはずいぶんと力を注いでたよ。
お姉ちゃん2人は公立なのに、ケン坊だけ幼稚園から私立だからね。それ以外にも、ケン坊だけ小さなころから襟付きのシャツとか、やたら仕立てのいい服を着させてたのを覚えてる。それだけ勇は会社の跡取り息子として、手塩にかけて育ててたんだ」
父親の期待を一身に背負った健一容疑者は、都内の中堅私立大学に進学。だが、ボンボン息子の反抗期はここから始まった。勇さんの兄は、「これでホソヤ産業は安泰って感じだったのに、どこでケン坊は狂っていったのか」と唇を噛み締める。
「大学を卒業した後は、何を思ったのかフラフラしだしてさ、電気屋さんの販売員とか色んな職を転々としてたよ。それで何社か渡り歩いたあとに、ようやく勇の会社(ホソヤ産業)を手伝い始めた。だから勇からしても、自分が敷いてあげたレールを踏み潰されたというか、納得できない部分も大きかったんじゃないかな」
その後、健一容疑者の「結婚」を機に、2人の確執は決定的なものとなる。
「ケン坊の結婚相手(志保容疑者)が夜の店で働いてたみたいで、勇が大激怒したんだよ。どうやらケン坊は、その夜の店に同僚と通ううちに、そこで働いてた相手と付き合うようになったの。勇としても、やっぱり水商売の子よりも真面目な子のほうが良かったみたいで猛反対したわけさ。
だから当時は『あいつ(健一)にはガッカリだ』とか『もう親子の縁を切る』とか愚痴ってたけど、八恵子さんは『2人が一緒になりたいなら仕方ない』という感じで理解があったね。まあこれが原因か分からないけど、あの2人の間にはずっと確執みたいなのはあったんじゃないかな」
やがてボンボン息子は、己の私利私欲のためなら親族を殺害することも厭わない「毒殺夫婦」に成り果てた。健一被告は2018年1月から6月にかけて、母親の八恵子さん(当時68歳)、姉の美奈子さん(当時41歳)、父親の勇さん(当時73歳)をエチレングリコールを摂取させることで相次いで殺害した。
だが、勇さんに関しては入院するまでは一度も大病を患ったこともなく、幼少期から快活な子供だったという。勇さんの兄は「勇が死んだことについては当時からずっと疑問だった」と言い、こう続ける。
「勇は小さいころから体が弱かったとか、そんな子じゃなくて丈夫だった。家の中で本を読んでるよりは、外に遊びに行くタイプだったよね。まあ勇とは、年も9つ離れてたからあまり一緒に遊んであげられたことはないんだけど、一度だけ海水浴に連れて行ったことはある。勇が5歳くらいのころに九十九里鉄道に乗ってさ、九十九里の海岸で一緒に磯遊びして楽しそうに笑ってたよ」
勇さんは高校卒業後、地元・千葉県東金市から上京。なめし革の卸会社に就職し、今からおよそ45年ほど前に独立して「ホソヤ産業」を創業した。浅草の地場産業である皮革加工・販売を手がけていたが、2012年には雷門の近くにホテルを新築。近年では宿泊産業に力を入れるかたわら、プライベートでは毎月のゴルフを楽しみにしていたという。
だが、そんな生活もボンボン息子の「蛮行」により全てが壊された。勇さんの兄は、最後にこう声を振り絞った。
「今年で3人の7回忌だったから、5月に長女(健一容疑者の姉)と一緒に吾妻橋の近くにあるお墓にお参りに行ったんだ。もちろん事件について、長女にも聞いてみたいけど、それを口に出すのはタブーみたいになってる。あの子も聞かれるのは嫌だろうし、食事中も世間話をする程度だったよ。今でも毎日のようにケン坊のことは考えるけど、どうして家族を全滅させようとしたのか分からない。早く本人の口から話してほしい」
取り返しのつかない罪を犯した自覚に、細谷夫妻が打ち震えることがあるのだろうか。最初の逮捕から10カ月経った今も、夫婦は取り調べに対して黙秘を貫いている。
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