「人間関係リセット症候群」は「病名ではない」 精神科専門医に聞く“リセット願望”の正体

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昨今、SNSなどを中心に「人間関係リセット症候群」という言葉がよく聞かれるようになりました。文字通り、現在までに築いてきた自分の人間関係を、衝動的に断ち切って“リセット”してしまう行為を指すもので、「何も告げずに仕事を辞める」「連絡先やSNSアカウントを全て削除し、音信不通になる」「誰にも言わず、突然遠方に引っ越す」といった行動が具体例として知られています。
SNSでは共感する声も少なくなく、「正直よく分かる」「共感します」「時々、LINEもXも全部消したい気持ちになるのはこれかな」「前に連絡先全部消して、後悔した」といった人の他、「これって病気なのかな?」と疑問を持つ人もいるようですが、精神科専門医の田中伸一郎さんは「医学的な病名ではない」と指摘します。
「人間関係リセット症候群」とは何なのか、“リセットしたい”衝動に駆られたときはどうすればいいのか……専門医の観点から、詳しく教えていただきました。
「人間関係をリセットしたい」。そうした気持ちは、しばしば日常会話で耳にしますし、診療の場面でも話題に上ることがたまにあります。昨今では、SNS上などで「人間関係リセット症候群」という言葉もよく見かけるようになっています。
しかし、医学的な観点で見れば、これは病名ではありませんし、心理学の教科書にも載っていません。つまり、「人間関係リセット症候群」という専門用語は存在しません。そのため、今回は「関係をリセットしたい願望」という言葉を使いたいと思います。
この「関係リセット願望」は、ストレスフルな環境にさらされ続けると誰でも感じる、「もう嫌だ。全部投げ出したい」という気持ちの最終形態です。衝動的になりやすい性格傾向がある人に限らず、誰しも強いストレスにさらされれば、心身の緊張が高まり、イライラしやすくなり、ついには「関係リセット願望」を抱くようになるのかもしれません。
最近だと、「スマートフォンに登録した連絡先を全消去する」というたった一つの行動で「関係リセット願望」を実現させることが可能ですが、結果を考えれば、それを実行に移すわけにいきません。そのため、強めのストレスを感じ始めたときには、ひとまず「帰宅後はメールを見ない」「週末はスマホの電源をオフにする」「普段からアプリの新着通知をオフにする」といったことを思い切って試みてみるとよいと思います。いわば“プチ関係リセット”ですね。
「医学的な病名ではない」というと、「精神科医は『関係リセット願望』をどう捉えているのか気になる」という人もいるかもしれません。
一般には、「関係をリセットしたい気持ち」はネガティブな意味合いが強いかもしれません。身近な人からそうした気持ちを打ち明けられたとき、「そんなこと言わずに頑張ろうよ」と返す人もきっといるでしょう。
しかし、われわれ精神科医は、診察時に「関係リセット願望」が語られた場合、うつ状態に陥っていないか、発達障害が隠れていないか、まだ語られていない大事な悩みごとがあるのではないか、ひょっとしたら「自分なんか消えてしまいたい」などと考えていないか…など、さまざまな角度から診療を見直すことを考えます。
従って、正直に「関係リセット願望」を言葉にすることによって、置かれた苦しい状況を再点検し、そこから抜け出す方法がないかを検討するチャンスにつながっていくように思います。
では、「関係リセット願望」を感じたとき、どうすればいいのでしょうか。
まずは、心に「関係リセット願望」が出てくるような苦しい状況の中で、長い期間、孤軍奮闘しないようにしたいものですね。心の不調に気付きにくい場合には、睡眠・食事・排便の量と質などから体の調子をチェックするとよいでしょう。
意外に忘れられているのが、胃腸の調子です。「よく寝て、よく食べる」だけでなく「よく食べて、よく出す」ことも、心の健康にとって大切です。
「孤軍奮闘」という言葉を使いましたが、一人でストレスを抱え込まないこと、一人でストレスと戦わないことが大切です。「関係リセット願望」が強まらないようにするためにも、関係を続けたいと思うような相談相手を見つけておきたいところです。周囲にそうした相手が見つからない場合には、心の相談窓口などを利用することをおすすめします。

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