ルクセンブルクは月41万円! 農場や皿洗いの求人に日本人が殺到…円安で人気「ワーホリ」厳しい現実

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ルクセンブルク40万7092円、オーストラリア36万9002円、オランダ34万6575円、イギリス34万3809円、ニュージーランド32万7037円……。
これは、日本人のワーキングホリデーが可能な国、上位5ヵ国の「月収」(’24年9月10日時点)だ。留学エージェントの「スクールウィズ」(東京都)が10月、「2024年度版 ワーキングホリデーにおける国別、最低賃金月収の実態調査」で明らかにした。
ワーキングホリデー(ワーホリ)とは、休暇や留学などで海外に滞在する間の就労を18~30歳に限って認める制度。日本は1980年のオーストラリアを皮切りに、ニュージーランドやカナダなど30ヵ国・地域(’24年6月現在)との間でこの制度を導入している。
冒頭の「月収」は、スクールウィズが、ワーホリが可能な30ヵ国のうち最低賃金を定めている25ヵ国を対象に実施した調査によるもの。各国の最低賃金に規定の労働時間をかけ、算出した「月収」を順位づけしている。
日本は最低賃金(時給)が1054円であるため、フルタイム(8時間×20日)で働いた場合、「月収」が16万8640円になる。最も高いルクセンブルクは、なんと日本の約2.4倍だ。思わず心を動かされる若い世代もきっといるだろう。
ワーホリに関する話題をよく見聞きする昨今だが、実際はどうなのか。スクールウィズ代表の太田英基さんに話を聞いた。
「私たちは留学エージェントで、現地での仕事を紹介しているわけではありませんが、円安が進んで留学費用の負担が増えているため、語学留学とワーキングホリデーをセットで希望する人が増えています。海外旅行がコロナ禍前の6、7割の水準なのに対し、留学は9割前後まで回復しているので、来年には100パーセント戻るんじゃないでしょうか」(太田英基さん・以下同)
スクールウィズの調査で月収が最も高いことが判明したルクセンブルクは、ワーホリ先としての注目度も高いのだろうか。
「ルクセンブルクが日本に対してワーキングホリデーの受け入れを開始したのは、今年の6月からです。今回の調査結果を受けて、ルクセンブルクでワーキングホリデーをしている人を探してみましたが、残念ながら現時点では見つかっていません。
人気が高いのはやはりオーストラリア、カナダ、イギリス、ニュージーランドといった英語圏の国ですね。
実際、オーストラリアの日本人へのワーキングホリデービザ発給数は、過去最多となっています。カナダは日本人のワーキングホリデー受け入れ枠が6500人ですが、今年はすでに定員に達しました。イギリスは今年から日本人の受け入れ枠を、これまでの4倍の6000人に拡大しています」
太田さん自身も留学を経験している。動機はこうだった。
「きっかけは、元マッキンゼー東京支社長の横山禎徳さんとの出会いです。大学在学中に友人と起業した会社がうまくいって、自分は無敵だと思っていた頃にたまたまお話しする機会があって。『きみはグローバルの意味を履き違えている』と、完膚なきまでにボコボコにされました。
当時の私は英語を話せなかったですし、外国人の友人も一人いただけ。あまりに世界を知らなさすぎることを初めて自覚し、『世界がどうなっているか見てみよう』と思い立ちました。それから2年後の’10年、会社を辞めて3ヵ月間フィリピンに英語留学したんです」
日本では、社会人の留学は多いのだろうか。
「全体の3割ぐらいだと思います。ちなみに、当社は社会人の留学が半分ぐらい。20代半ばから後半に会社を辞め、ワーホリ制度で語学留学する人はけっこういます。
社会人の留学目的としては、英語力を伸ばしてキャリアアップにつなげたい、異文化や海外生活を体験したいなどが挙げられます。海外でお金を稼ぎたいという人もいますが、その場合は留学よりワーホリをメインに考えているんでしょう。
でも一番多いのは、長い人生の中で1年ぐらいは海外で暮らしてみたいと、ふわっと考えている人たちかもしれません」
目的も将来展望もなく、ワーホリ制度で「ふわっ」と海外へ。滞在が有意義なものになるとは考えにくいのだが……。
「留学するのであれば、それ相応の英語力を伸ばして帰ってこないと、海外にいた1年間は何だったのとなってしまうことは確かです。だから私たちも、事前の英語の勉強から滞在している間の英語学習までしっかり自分の意思と計画を持って臨みましょうと伝え、現地での就労を考えている人には、働くのに必要な英語力を身につけるための有効な留学の仕方をアドバイスします。
というのも、英語をある程度話せないと、ワーホリで就ける仕事がかなり限られてくるからです」
ワーホリ目的でオーストラリアに渡航した日本人の厳しい実態が、メディアでたびたび取り上げられてもいる。
「オーストラリアの炊き出しに、ワーホリで滞在中の日本の若者が並んでいる姿がニュースで報じられましたが、それぐらい行き詰まっている人たちはいます。ワーホリで仕事に就けない日本人の大半は、英語がほとんどできないまま現地に行った人たちなんです。YouTuberやインフルエンサーの『稼いでいるよ』という発信が、少なからず影響している気がします。
それに、オーストラリアでは去年あたりから、仕事探しが激戦状態なんです。たとえば農場や工場の作業、レストランの皿洗いなどは、英語があまり話せなくても割と使ってもらえます。それが、ワーホリ人気で農場やレストランの求人に日本の若者が殺到するようになり、就労がままならない。英語が苦手だとどうしても不利で、苦戦する人が一定数いるようです」
オーストラリアは条件を満たせばワーホリビザで最長3年間の滞在が可能だが、1年もたずに途中で断念して帰国する人もいるかもしれない。
「軍資金として100万円持って渡航したとしても、生活費が高いので3ヵ月ほどで底をついてしまいます。その間に仕事に就くことができなければ、帰国せざるを得ない。そういう人が全体の2、3割はいると業界内で言われています」
ワーホリ成功者も、もちろんいるのだろう。
「たとえばワーホリ制度を使ってオーストラリアで働き始め、現地の会社にサポートしてもらってワーホリビザを3年まで延長し、仕事を続ける人はいます。
あるいは、英語力を身につけたうえで、プログラミングやデザインといった言語以外の武器を生かし、キャリアアップしていく人も一定数いるんじゃないでしょうか。寿司職人、バリスタ、美容師、ネイリストなど、スキルを持った人たちの成功例も多いと思います。
ただ、何をもって成功とするかでしょうね。1年なり2年海外で働いた経験値と、高めた英語力をもとにキャリアアップできれば、成功と言っていいんじゃないでしょうか。
ワーキングホリデー自体は素晴らしい制度ですから、賢く活用して世界に出ていく日本人が増えていくことを願っています」
では最後に、太田さんの「ワーホリで行くおすすめ国」を。
「オーストラリアではコロナの間、帰国できない外国人に対して特別に『パンデミックビザ』が発給されましたが、今年、そのビザの有効期限が切れる人が多いようです。外国人の働き手が出国することで、仕事探しの大変さが多少は緩和されるのではないかと言われています。もう少し様子を見る必要があるとはいえ、オーストラリアはやはり選択肢として欠かせない国でしょうね。
イギリスは今年から受け入れる人数が増えたので、日本人が現地でどんな仕事に就けるか調べて、検討してみてもいいかもしれません。
チャレンジしてほしいという期待を込めて言うと、ルクセンブルクをおすすめしたいところではあります。
英語力を高めたうえでのワーホリに関心がある人は、ぜひ相談してほしいですね」
▼太田英基(おおた・ひでき)株式会社スクールウィズ代表取締役。1985年、宮城県生まれ。大学在学中に仲間と株式会社オーシャナイズを起業。広告事業「タダコピ」を手がける。丸5年働いて会社を辞め、フィリピンで3ヵ月間の英語留学を経験。その後約2年間、世界50ヵ国を回った。’13年にスクールウィズを立ち上げ、代表取締役に就任。著書に『僕らはまだ、世界を1ミリも知らない』 (幻冬舎文庫)『フィリピン「超」格安英語留学』(東洋経済新報社)など。
取材・文:斉藤さゆり

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