法の番人であるはずの検察庁。その幹部の一人だったクズ男の卑劣な性犯罪の初公判が開かれた。事件の被害者である女性検事が明かしたのは、“共犯者”ともいえるゴマすり女性副検事の存在だった。かつて「関西検察」の雄として名高かった大阪地検の罪と罰とは。【前後編の前編】
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【写真を見る】逮捕された北川被告(65) 初公判では終始打ちひしがれた様子だった
手錠と腰縄を付け入廷した男は、全て埋まった傍聴席からの視線を浴びておじけづいたのか、終始打ちひしがれた様子だったという。
10月25日の大阪地裁大法廷。同じ場所で、かつて男は検事として舌鋒鋭く被告人の罪をただし、裁判長に厳罰を求めたこともあったろうが、今や立場は逆転。被告として証言台に立つと、か細い声で「争うことはしません」と起訴内容を認め、初公判は幕を閉じた。
男の名は北川健太郎被告(65)。故郷・石川の金沢大在学中に司法試験に合格。検事に任官すると大阪、京都、神戸の各地検で要職を務めて「関西検察のエース」と呼ばれた。大阪高検次席検事、最高検刑事部長を歴任、2018年に大阪地検のトップ・検事正に上り詰める。退職後は弁護士になったが、検事正時代に部下だった女性検事への準強制性交罪の容疑で、今年6月に大阪高検に逮捕、7月に起訴された。
地検の元最高幹部が性犯罪事件の被告となる前代未聞の裁判が始まったが、さらなる衝撃を世間に与えたのは閉廷後の出来事だった。
被害を訴えた現役の女性検事が自ら会見を開き、事件の全容を語ったのだ。
初公判では性被害者への配慮から、衝立で遮られた席に座った彼女も、この会見では音声への加工はしなくてよい旨を報道陣に話して、覚悟を決めて臨んだ様子がうかがえたという。
実際に裁判を傍聴、会見の様子を取材したライターの小川たまか氏によれば、
「マスク越しでも、普段はサバサバとして仕事ができる方だと分かる雰囲気を漂わせていましたが、話し出すと徐々に声が震え始め、最後まで涙声が続きました。今まで耐え忍んできた感情が、一気にあふれ出た印象を受けました」
正味2時間も行われた会見では、涙をぽたぽたと机に落とす場面もあったという。
事件は、18年9月12日に開かれた北川被告の検事正昇進祝いの会がきっかけで起こった。同僚たちと参加した彼女は、日頃の激務に加えて家事や育児の疲労の影響で、図らずも泥酔。机に伏し意識は混濁していた。宴席が終わると、彼女が乗車したタクシーに北川被告も強引に乗り込み、自らが住む官舎へ連れ帰ったのだ。
その時の様子を、会見で被害女性はこう語った。
「被告人は抗拒不能の状態にあった私の服や下着を脱がせて、全裸にした上で私に覆いかぶさり、避妊具を用いず性交に及びました。(中略)上司として尊敬していた検事正の被告人から性交されているという予想外の事態に直面して、恐怖して驚愕(きょうがく)して絶望して凍りつきました。私は抵抗すれば被告人から、自分の名誉などを守るために殺されると強く恐れました」
なんとか彼女は声を振り絞り「夫が心配しているので帰りたい」と懇願したが、
「しかし、被告人はそれを無視して『これでお前も俺の女だ』などと言って、性交を続けました」(被害女性)
行為が中断した隙に、彼女は這って下着を身に着ける。しかし、北川被告は再び下着を脱がせて布団に連れ戻し、口淫まで求めるなど、自らが疲れ果てるまで3時間近くにわたって、執拗(しつよう)にコトに及んだというのである。
翌日未明ようやく解放され、自宅に戻ることができた女性だが、被害を上級官庁に申告するまで、相当な葛藤があったとして、以下のように語っている。
「被害から6年間、本当に苦しんできました。ほぼ誰にも言えず、苦しんできた期間が長かった。強い恐怖や孤独、事件が闇に葬られるかもしれないと、不安も大きかった」
「すぐに被害申告できなかったのは、被告人から『公にすれば(自分が)死ぬ』『検察が機能しなくなり、検察職員に迷惑がかかる』と脅され、口止めをされ、懸命に仕事をしているたくさんの職員に迷惑をかけられない、検察を守らなければならないと思ったからです」
後編【女性部下を強姦し「時効がくるまで食事をごちそうする」 大阪地検元トップの性暴力、副検事が被害者を誹謗中傷していた疑惑も】では、女性の副検事が被害者を誹謗中傷し、被告人を庇うような発言をしていた疑惑についても報じている。
「週刊新潮」2024年11月7日号 掲載