じぃじ、おねがい!…年金月24万円・70代夫婦が直面する戦慄の「老後破産」危機。きっかけは、目に入れても痛くない8歳・愛孫が放った「無垢なひと言」【FPの助言】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

老後に向けて資産計画を立てる際、「子や孫」の援助についても盛り込んでいるという人はどれだけいるでしょうか? どんなに綿密に計画を立てていても、「孫」が原因で老後破産に陥ってしまうケースがあると、石川亜希子AFPはいいます。今回は、年金24万円で暮らすA夫妻の事例をもとに、老後破産危機に陥る原因と注意すべきポイントについてみていきましょう。
Aさん(71歳)は、1歳年下の妻(70歳)と東京郊外の住宅に2人で暮らしています。年金受給額は、夫婦あわせて月24万円ほどです。
支出額は、なるべく年金収入で収まるように努めています。そのため、大きな贅沢はできませんが、預貯金は退職金を含めて2,500万円ほどあり、住宅ローンも完済していることから、年に1~2回は夫婦で旅行を楽しんだり、趣味を謳歌したりと、悠々自適な生活を送っていました。
A夫妻には、40歳になる長女Cさんがいます。Cさんは結婚後、実家から車で10分ほどの距離に住んでおり、夫と子どもDちゃんを連れてたびたび実家を訪れていました。A夫妻にとって、Dちゃんは初孫にあたります。目に入れても痛くないほど、とても可愛がっていました。
C家の世帯年収は700万円ほどで、長女は夫の扶養内でパートとして働いています。Dちゃんが生まれたタイミングで住宅を購入し、住宅ローンも始まったばかりだったので、父であるAさんは、C家と食事をするときは費用を持ったり、孫の誕生日プレゼントを奮発したりと、なるべく長女の経済的な負担を減らせるように、できる範囲で援助していました。
「自分たちの生活はできるだけ節約し、お金はなるべく娘や孫のために使おう」と考えていたAさんは、特に無理している感覚はなく、いいバランスで生活できていると思っていました。しかし、数年後の孫の「あるひと言」から、事態は思わぬ方向へ展開することになります。
時が経ち、いつものように実家に遊びに来ていた長女Cさんと孫のDちゃん。Aさんが遊びに付き合っていると、8歳になったDちゃんは、次のように言いました。
「じいじ? あたし、〇〇中学に行きたい」
その中学校は、Aさんでも名前を知っているほど有名な難関私立校です。「あのね、ママに言ったら、じいじがいいよって言ったらね、って言われたんだけど、いい? お願い」
「まだ3年生だろ? いきなりどうしたんだ」突然の“お願い”に仰天したAさんは、いったいどういうことか長女に聞いてみました。どうやら、孫はまだ小学校3年生ですが、仲良しの友だちはすでに塾に行き始めているようで、自分も行きたいと言い始めたそうです。
「こないだ学校から帰ってきたら急に言い出してね、私もびっくりしたのよ。最初は、うちの収入ではとてもとても無理って思ったんだけど。とりあえず塾の説明会に行ってみたら、私立の教育方針や施設ってスゴいらしいの。特に女の子は高校受験だと選択肢が少なくて、中学から私立のほうがいいみたいで」
長女は塾の説明に感化され、すっかり中学受験させるつもりのようです。とはいえ、長女夫婦には住宅ローンもあり、そんな経済的な余裕はないように見えます。
「旦那はなんて言ってるんだ?」「う~ん、夫は乗り気じゃないようなんだけど……私は、お父さんが少し出してくれたらなんとかなるかなって」
Aさんが恐る恐る塾にかかる費用を聞いてみると、月に2~3万円とのこと。(なんだ、思ったより少ないな)と思ったAさんは、少し離れた場所でひとりで遊んでいた孫のDさんに向かって言いました。「よし、じいじがなんとかしてやろう」
「え、ほんとに!?」長女と孫は大喜び。Aさんは、可愛い孫の申し出のため、塾の費用を負担することにしたのです。

こうして、孫の塾代を支払うようになったAさん。最初はたしかに月に2~3万円だった塾代ですが、学年が上がるにつれ費用が上がっていきます。また、長期休みになると夏期講習や冬期講習があり、それにも別途費用がかかります。Aさんは、しだいに塾代の負担を重荷に感じるようになっていきました。
総務省の「令和5年度家計調査報告書」によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における家計収支は、平均で収入(年金など)が24万4,580円、支出が28万2,497円となっています。
本来ならばA夫妻は、娘家族に援助するどころか、自分たちの生活だけで精一杯のはずです。たしかに預貯金はありますが、長年住んだ自宅のリフォームや家電の買い替えなどもそろそろ必要になってくるほか、2人もいつまで健康でいられるかわかりません。手術や入院、介護が必要になれば、その分出費が必要です。
孫が小学5年生になる頃には、残高が月に10万円近く目減りするようになりました。「老後破産」という言葉が頭をよぎります。
お金が減ってしまうという不安から、以前のように趣味や旅行も楽しめなくなってしまいました。「安請け合いするんじゃなかった……」見栄を張った自分に後悔の念が募ります。
そんなある日、さらなる問題が起こりました。
いつも、実家では夫婦の不安をよそにくつろぐCさんですが、その日は違いました。現れるなり、真剣な面持ちでAさんに言いました。
「お父さん、私、娘としばらくここに住んでもいい?」
まさか離婚か、と思ったAさんでしたが、そうではありませんでした。どうやら、Cさんの夫に転勤の辞令が出たようです。
「こっちはせっかく受験体制なのに、もったいないじゃない? だから、夫には単身赴任してもらおうと思って。でも、2拠点だと生活費も2倍かかっちゃうから、家は賃貸に出して、私たちはここに住めばいいかな~って。それなら学校も塾もそのまま通えると思うし」
Aさんは、自分たちの都合しか考えていない長女の勝手な言い分に、堪忍袋の緒が切れました。
「いい加減にしてくれ! もうこれ以上の援助はできない。自分たちでなんとかしたらどうだ!」
普段は温厚なAさんが声を荒げたことに、Bさんも長女もびっくり。「……そうよね、勝手なこと言ってごめんなさい」長女は、改めて夫婦で話し合うと言って帰っていきました。
長女が帰ったあとで、言いすぎてしまったかな、と少し後悔したAさんでしたが、不安だったことを吐き出すことができて、すっきりしている自分もいました。

その後、長女は子どもも交えて家族で話し合い、夫の赴任先へ家族で帯同することに決めたようです。借入先の金融機関にも相談し、自宅は期間限定で賃貸に出すことに。賃料は住宅ローンの返済に充てることができるそうです。
引き続き中学受験は目指すようですが、塾は赴任先の校舎に転校し、首都圏の受験を目指すとのこと。
「私も向こうで働くし、これからはちゃんと家計簿もつけて、塾代も自分たちで出すわ。夫にも、そんなにお義父さんに負担してもらってたのか! って怒られちゃって」
どうやら、長女は夫にきちんと説明していなかったようです。
「それに、またこっちへ戻ってきたときにはフルタイムで働くつもり。いままで、お父さんたちの状況も聞かず、頼ってばかりでごめんなさい」
愛する娘と孫が遠くへ行ってしまうことに寂しい気持ちもありますが、こうしてようやくA夫妻には平和な日々が戻ってきそうです。
祖父母ならば、可愛い孫のためにできるだけのことをしてあげたいと思うものですが、優先すべきは自分たちの生活です。自身の老後資金をしっかり確保したうえで、無理をしない範囲で援助するのがいいでしょう。
子ども世帯に事情を伝えにくい場合もあると思いますが、きちんと話すことがよりよい関係を続けていくことにつながります。
石川 亜希子
AFP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。