31歳下のロシア人女性と結ばれた59歳男性の実話

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

31歳下のロシア人女性と結婚するに至った59歳の男性。意外なところでつながったご縁と彼らの幸せな生活について追います(イラスト:堀江篤史)
<晩婚さんいらっしゃい、を昔からよく拝読させていただいております。私自身、50歳を過ぎて初婚、妻も初婚で、かつ国際結婚という特殊なケースです。妻とは国際交流サイトを通じて知り合い、4カ月後に入籍しました。妻は某東欧諸国の出身で、日本のマンガ、アニメなどが好きで中学生のころから日本語に接していたため日本語はペラペラです。結婚して4年たち、今も仲良く暮らしています。>
神奈川県在住の永田彰さん(仮名、59歳)から本連載の出演申し込みフォームに連絡があったのは今年6月。彰さんは「50歳を過ぎて初婚かつ国際結婚」という点を特殊なケースとしているが、もっと特殊なのは妻のアンナさん(仮名、28歳)との大きな年齢差であり、しかもアンナさんはロシアの大学を優秀な成績で卒業したエリートであることだ。
待ち合わせたのは横浜駅前の和食店。インタビュー場所を横浜に指定した彰さんが選んで予約もしてくれた。やや恰幅のいい彰さんは年齢相応の外見で特にオシャレでもないが、メガネの奥の目が澄んでいて表情も豊かなので若々しい印象を受ける。その傍らにぴたりと寄り添っているアンナさんは「BOSS」のTシャツとカチューシャ姿。ロシアの素朴な女子学生、という風情だ。
彰さんはIT関連の自営業を営んでいる。40歳のときに開業するまでは会社員をしており、結婚願望はずっとあったと振り返る。仲の良かった両親は2018年と2019年に相次いで他界している。
「好きな人と一緒に暮らせたらいいなという気持ちです。平凡な望みですけどね」
30代後半のときにはボランティア活動で知り合った大学生と交際した。彰さんは結婚を望んだが、看護師を目指して勉強に励んでいた相手との気持ちは一致しなかったという。世話焼きだけど強引なことはしない彰さん。その頃から年下女性に頼られる傾向があったのかもしれない。
「独立開業してからは、独身のままは嫌だなという気持ちが高まりました。妻と出会うまで婚活サイトで熱心に婚活をしていました」
相手の年齢や外見などにはこだわりはなく、人柄がよくて自分と相性のいい女性と一緒になりたいと思っていたと振り返る彰さん。しかし、一般的な婚活サイトとの相性はよくなかったようだ。20人以上と実際に会ったが、結婚を見据えた交際に至ることは一度もなかった。初対面の相手とも雑談はできるけれど口説いたり駆け引きしたりすることが苦手だから、と彰さんは自己分析する。
彰さんのようなタイプの独身者は男女ともに少なくない。コミュニケーション能力が低いわけではないが、押すべきときに押すことができないのだ。会話は弾む分だけ相手に「何を考えているのかわからない」と不明瞭な印象を与えてしまうこともある。
一方のアンナさんはどんな独身時代を送ってきたのだろうか。発言を促すと、意外なほどの勢いで話し始めた。
「私は12歳の頃からアニメにハマりました。その頃はやっていた『デスノート』がきっかけだったと思います。それから日本の漫画やゲームにもハマりました。一番好きなのは『週刊少年ジャンプ』の冒険ものです」
モスクワにある大学では日本語ではなく政治学を専攻したというアンナさん。哲学を含めた学問が好きで、アニメの登場人物などへの「推し活」も忙しくて恋愛する暇はなかったと笑う。アニメで修得した日本語の練習も兼ねて、日本人との国際交流サイトに登録した。2019年の秋のことである。
「恋人を積極的に探すつもりはなかったので、一番地味な写真を載せました。あ、でも、自分が本当は美人だというつもりはありません」
夢中で話しながらときどき顔を赤くするアンナさん。そのサイトでは、数カ月後に彰さんと知り合うまでは嫌なことが多かったと振り返る。
「相手への尊敬や優しさを感じられないような男性ばかりでした。私が外国人だからでしょうか。いきなり失礼なことを聞いて来たり。アカウントを削除しようと思っていたときに彰さんと出会うことができました」
婚活目的でサイトに登録した彰さんだが、アンナさんとのメッセージのやり取りでも持ち前の「無難な雑談力」を発揮。このたびは吉と出た。
「彰さんは最初から『アニメや漫画は好きですか?』と聞いてくれたんです。私はプロフィールにアニメのことなどは一言も触れていないのに! すぐに盛り上がりました」
彰さんはアニメや漫画にほとんど通じていない。ジャンプで言えば、『SLAM DUNK』すら読んだことがないレベルだ。それでも「広く浅い知識」があり、相手に合わせた会話は得意。「大の日本好き」で「本物のオタク」であるアンナさんがLINE電話で怒涛のように話す内容を受け止めることができた。
「私の話をよく聞いてくれて、自分の意見も言ってくれます。1時間や2時間はすぐに過ぎていきました。最初はいい友だちができたと思っていましたが、優しくて親切な彰さんに恋する気持ちが芽生えたのは否めません。東日本大震災のシェルターから引き取ったというワンちゃんの写真も優しそうな顔をしていました。血統書付きの犬などではなく、雑種です。彰さんは自分中心でも見栄っ張りでもなく、いたわる心を持っている人なのです」
芽生える、いたわるなどの細やかな日本語表現も駆使して、彰さんの人柄を絶賛するアンナさん。2カ月後には彰さんの誘いを受けて日本にやってきた。航空チケットは自分で用意し、4泊5日のホテル代は彰さんが予約して負担した。
「渡航費が自分持ちなのは安心感がありました。私はそれでも緊張していましたが、彰さんが東京をいろいろ案内してくれたんです」
この5日間も彰さんはアンナさんを口説くようなことはしなかった。それが敬意と優しさを重視するアンナさんにとっては大きな加点となり、ロシアに帰ってからは彰さんへの思慕の念がますます高まった。毎日の電話だけでは満たされなくなり、2カ月後に再び日本へ。今度は彰さんが住む神奈川県内で2週間過ごして結婚に至った。
「最初は年齢差が少し気になっていました。でも、こんなに相性のいい人はめったにいません。例えば哲学や政治学の話もすごく合います。大学の知り合いは成績にしか興味がないのでそんな話はできません。彰さんのような素敵な人と一緒になれないのは惜しいことだと思いました」
結婚直後にコロナ禍が拡大。さらにはウクライナ戦争が始まり、彰さんはまだロシアに行ったことがなく、アンナさんの家族とも会えていない。アンナさんの両親とすでに結婚して子どもがいる兄と姉は末っ子のアンナさんを気にかけつつ、彰さんと結婚して日本に住むことには反対しなかった。
「私の親戚は仕事などで世界中に散らばっているので、家族が外国に住むことに抵抗はありません。ロシアは離婚する人がとても多いので、親からは『うまくいかなかったらいつでも帰っておいで』と言ってもらっています。もちろん、私は不真面目でも無責任でもありません。日本という外国で暮らすことを全力で頑張っています」
専業主婦として家を守りつつ、自宅にいることも多い彰さんを「一番仲がいい友だち」だと認識し続けているアンナさん。コミックマーケットに朝5時から一緒に並んだり、ロールプレイングゲームがうまくいかないときに愚痴を聞いてもらったり。会話はすべて日本語。彰さんはロシア語をまったく解さない。アンナさんは彰さん以外の日本人と親しくしているわけではないが、冷たさや危険も感じないと語る。
「日本はお店のサービスはいいし、何より安全です。夜中にアイスを食べたくなったときに女性が1人でコンビニに行けます。街中でスマホを忘れても出てきます。ロシアではそんなことは考えられません」
子どもはいずれ授かればいいなという程度で、今は2人だけの生活を慈しんでいる。アニメやゲームだけでなく自然豊かなところも好きなアンナさんは彰さんとの散歩やドライブを楽しみ、彰さんのほうも50代半ばに訪れた意外な幸福を満喫中だ。
この連載の一覧はこちら
「何でも共有できて冗談も言い合える人が家族になってくれました。幸せってこういうことなんだなと感じる毎日です」
国際結婚に活路を見いだす人は少なくない。彰さんとアンナさんのケースは語学力や経済力よりも大事なものを示している、と筆者は思った。それは相手に対する誠意であり、思いやりのある言動だ。結婚相手が賢くて優しくて意志の強い人であればあるほど、表面的なもの以上に内面的なものが問われる。
本連載に登場してくださる、ご夫婦のうちどちらかが35歳以上で結婚した「晩婚さん」を募集しております(ご結婚5年目ぐらいまで)。事実婚や同性婚の方も歓迎いたします。お申込みはこちらのフォームよりお願いします。
(大宮 冬洋 : ライター)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。