昨年8月に埼玉県三郷市の運送会社敷地内で社長の男性を刺殺したとして殺人罪などに問われた内田洋輔被告(30)の裁判員裁判が9月にさいたま地裁で開かれ、同月6日、室橋雅仁裁判長は懲役17年の判決を言い渡した(前後編の前編)。
【写真】腕にはガッツリ入れ墨が入っている
内田被告は事件を起こした直後、川口警察署に出頭していた。逮捕後の取り調べでは「やられる前にやった」と、被害者男性とのトラブルを匂わせ、自身の身に危険が差し迫っているかのような供述をしていたが、公判では「やられる」心配が全くなかったことが明らかになった。内田被告は被害者男性から借金をしており、返済を求められたが応じず、最終的に滅多刺しにしていた。
埼玉県三郷市の運送会社「AKトランス」敷地内で、同社を経営していた大川幸一郎さん(52=当時)が殺害されたのは2023年8月29日夜のこと。従業員からの通報を受け警察官が駆けつけたところ、意識のない状態で駐車場に倒れている大川さんを発見。病院に搬送されたがまもなく死亡した。駐車場には広範囲にわたり血痕が残されており、大川さんの上半身は包丁で滅多刺しにされていた。
通報から約1時間後、現場から20キロほど離れた川口警察署に出頭し、「間違いない」と大川さん殺害を認め逮捕されたのが、自称アルバイトの内田被告だった。のちに殺人と銃刀法違反で起訴された内田被告は、9月2日にさいたま地裁で開かれた裁判員裁判初公判で「間違いありません」と公訴事実を認めた一方、冒頭陳述で弁護人は「『やられる前にやった』……出頭した内田さんはこう話しました」と、大川さんとのトラブルを主張した。ところが公判で取り調べられた証拠からは、むしろ内田被告が借りた金を大川さんに返済していなかったことが分かった。
検察側冒頭陳述や証拠によれば、内田被告は2022年に詐欺未遂で有罪判決を受け服役し、2023年1月に出所した。その後、かねてより知人関係にあった大川さんから借りていた生活費などの返済を求められるようになったという。しかし内田被告が返済に応じないことから同年3月、大川さんは内田被告同席のもと、被告の父親に代理で返済して欲しいと求めたが、父親もこれに応じなかった。
借金返済の話し合いは事件の2日前から「AKトランス」にて改めて行なわれた。8月27日、大川さんは内田被告に借金返済を求めたが、内田被告は応じなかった。この日、内田被告はスーパーで包丁を購入していた。
事件前日にも話し合いが行なわれたが、27日同様、平行線をたどる。そして当日、内田被告は包丁を持参して話し合いに赴き、内田被告を自宅まで送るため車に乗り込もうとしていた大川さんを後ろから刺したという。「被害者からの借金返済要求から逃れるために殺害を決意した」と検察官は指摘している。
会社に設置された防犯カメラ映像には、大川さんが背を向けた隙に、内田被告がトートバックから取り出した包丁で大川さんの背中を突き刺す様子や、逃げる大川さんを何度も刺し、さらに敷地内に倒れた大川さんに馬乗りになって刺し続ける様子が記録されている。大川さんは事件前に足を骨折しており、全快には至っていなかった。犯行に使われた包丁は刃渡り17.4センチ。遺体には18か所の傷があり、そのうち腹部の傷は深さ16.1センチ。刃がほとんど根元まで刺さったとみられる。
まさに滅多刺しだが、犯行に及んだ当の内田被告は弁護人からの被告人質問に対して「大川さんへの恐怖」があったと繰り返した。被告が言うには、「前刑の詐欺未遂は、暴力団の準構成員であった大川さんから指示された」ため「服役しているときに関係を断とうと決意していた」のだという。出所後は「連絡を取る頻度が減っていったため、大川さんから警告を受けるようになった」ことから、再び会うようになったと語った。
「会うようになってから大川さんは『自分の目の届くところで仕事をするように』と言い、『AKトランスのドライバーとして働け』と言われました」(被告人質問での証言)
内田被告とその父親とで、借金返済について話し合いをしたことについても、「今後、大川さんの会社で働くにあたり父親に説明したいと言われていたのに、話が違っていたので、なぜ借金の話をしているのかと思った」と内田被告は語る。約300万円の借金は内田被告としては「借りてないし、払う必要はない」と思っていたという。そして事件当日、大川さんと借金返済の話し合いになり〈返済ができないのなら親のところに行くしかない〉と大川さんに言われたため、包丁で刺した……と語った。
(後編に続く)
◆取材・文/高橋ユキ(フリーライター)