王将社長射殺事件2カ月前から周到準備 容疑者は会社員から武闘派へ

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平成25年12月、「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東(おおひがし)隆行さん=当時(72)=が射殺された事件で、実行犯として殺人容疑などで田中幸雄容疑者(56)が逮捕されて4日で1週間。
これまでの捜査からは、事件の約2カ月前から準備を周到に進め、襲撃を実行した状況が浮かび上がる。田中容疑者は取り調べに黙秘しているとみられ、京都府警と福岡県警の合同捜査本部は状況証拠や関係者の証言を積み重ね、動機や組織の関与を含めた全容解明に迫ろうとしている。
捜査関係者らによると、田中容疑者は多数の市民襲撃事件を起こした特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)系石田組の幹部。武闘派でヒットマンの役割を担う一人とされるが、30代前半までは会社員だった。過去の業界誌のインタビューでは「トラブルに巻き込まれ、組関係者に助けられたことをきっかけに組員になった」と転身の理由を明かしている。
平成20年1月には、福岡市の路上で大手ゼネコン「大林組」の従業員らが乗った車を銃撃したとして、令和元年11月、福岡地裁で懲役10年の実刑判決を受け、福岡高裁判決で確定。判決では組織を背景にした周到な計画性が明らかになっている。
王将事件でも、田中容疑者の関与が疑われる行動は、事件2カ月前の平成25年10月から始まっていた。容疑者が知人から借りた軽乗用車が、九州と京都を複数回往復。さらに京都市内でこの車から降りた男らが、事件に使われた盗難バイク2台のうち、ミニバイクの窃盗に関わっていた。
容疑者は事件当日の25年12月19日早朝、出勤してきた大東さんを待ち伏せて至近距離から発砲。銃弾4発をすべて急所に当てて殺害し、ミニバイクとは別のオートバイで現場から逃走したとみられる。
盗難バイク2台は事件から約4カ月後に現場の北東約2キロで別々に見つかった。オートバイは主に九州のホームセンターで流通するカバーがかけられ、銃撃の際に残る「硝煙反応」が検出されたが、それ以上の材料は得られなかった。
しかし、現場には重大な手がかりが残されていた。たばこの吸い殻だ。27年6月ごろ、府警が吸い殻を調べた結果、一部が田中容疑者のDNA型と一致した。ただ、第三者が現場に捨てた可能性を排除できず、府警は数年前、専門家にたばこの燃焼状況などについて鑑定を依頼。鑑定結果から本人がその場で捨てたとみて矛盾はないと判断した。
また、防犯カメラの解析で、事件当日に現場周辺でオートバイに乗った田中容疑者とみられる人物の姿を確認しており、捜査幹部は「この2つが逮捕を決定付ける重要な証拠となった」。事件前日にも複数のカメラが田中容疑者の姿をとらえていた。
ただ、犯行を裏付ける直接証拠はなく、田中容疑者も黙秘状態だ。捜査関係者は「黙秘は織り込み済み」としており、今後の捜査で立証の精度をどこまで高められるかが焦点となる。

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