富士登山で49歳が心肺停止、その時「看護師です」「大丈夫ですよ」と女性が声かけ心臓マッサージ

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今年8月、富士山6合目で登山者が心肺停止となり、居合わせた東京都豊島区の看護師黒永ゆみさん(28)と、安全指導センターに常駐する一般社団法人「マウントフジトレイルクラブ」のメンバーが蘇生に成功した。
山梨県富士吉田市によると、毎年数人の登山者が心肺停止となるが蘇生するのは珍しく、先月、黒永さんや同法人に同市から感謝状が贈られた。(高村真登)
8月6日午後8時半頃、安全指導センター前にいたクラブの西村祥和さん(35)は、登山者から「近くの仮設トイレで人が倒れている」と伝えられた。駆けつけると、けいれんした49歳の男性登山者があおむけに倒れていた。
男性は呼吸や脈がなく、西村さんや福田洋也さん(60)らメンバーが気道を確保して心臓マッサージを開始し、救急車などを呼んだ。西村さんがAED(自動体外式除細動器)を運んだその時、背後から声がした。「私、看護師です」
黒永さんは夫や友人ら4人で登山していた。センターを通り過ぎた後、騒がしくなったので振り返るとAEDを持って走る男性の姿が見えた。一瞬戸惑ったが、気づくと体が動いていた。
日々医療に携わり、「落ち着いて処置することの重要性」を感じるという。AED装着のため、衣服をめくる作業に指示を出しながらも、「大丈夫ですよ」と周囲に声をかけ続けた。
AED使用後、すぐに反応はなかったが心臓マッサージを再開すると、男性は息を吹き返し、意識も取り戻した。黒永さんの参加から5分ほどの出来事だったという。
男性は5合目まで運ばれた後、救急搬送された。黒永さんによると、現在は仕事にも復帰している。
西村さんと福田さんは登山ガイドも務め、心肺蘇生に関する知識は豊富だったが、訓練以外でAEDを使用したことはなかったといい、「黒永さんが来てくれて落ち着くことができた」と振り返る。黒永さんは「今回の出来事を忘れず、これからも医療の現場で頑張りたい」と笑顔で話した。
■遅れ1分で救命率10%低下
公益財団法人「日本AED財団」(東京)によると、電気ショックが1分遅れるごとに救命率は10%ずつ低下するため、蘇生には早期発見と救急隊が来る前の積極的な救命行動が欠かせない。男性を受け入れた富士吉田市立病院の担当者も「複数で作業を分担したのは好判断」と話す。
また、今回男性が倒れた場所はAEDが設置してある安全指導センターにほぼ隣接しており、男性はトイレの照明に照らされていた。幸運が重なって早く見つかった可能性がある。
マウントフジトレイルクラブの太田安彦代表理事は「蘇生できず、メンバーが落ち込むこともあるが、今回表彰され、みんなの士気も高まる」と笑顔で語った。

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