「妻とだけセックスをしろって言うのかい?」「日本の女性は、不倫を理解して楽しんでいるよね」…声をかけてきた外国人・40代既婚男性の「驚きの言い分」

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現代の日本では、有名人の不倫が、時に政治・外交の諸問題や経済動向よりも深刻に報道されるという異常事態が続いている。
その熱烈さとは裏腹に、日常会話のレベルでは、恋人が既婚者であることや、配偶者や子供がいても恋愛活動に忙しいことなどが、時に罪の意識とは無縁にカジュアルに語られる。
一体、それはなぜなのだろうか?
今年5月に自身も既婚者となった作家の鈴木涼美さんが、結婚の外側と内側から、一夫一婦制の歪みとしての「不倫」について考察する。
本記事は、注目の新刊『不倫論 この生きづらい世界で愛について考えるために』より一部抜粋・編集してお届けする。
その男性は四十代とは思えない引き締まった肉体を高級な、しかし下品さのないスーツに包んでJFK発成田行きのフライトに搭乗した。
どこかで見た記憶はあるけれど、名前を見てもピンとこない。
スパニッシュ訛りの英語とカタコトの日本語で気さくに話しかけてくる彼に、手書きのLINE ID付きのビジネスカードを手渡されたのは、着陸準備のためにワインのグラスを片付けに行ったときだった。
職業柄、毎日のようにたまるこのような名刺には食傷気味ではあっても、嫌味のない笑顔には好感が持てたので、つい自分の連絡先も教えた。
仕事終わりにたまたまロッカー室で会った仲良しの同僚に彼の名前を言ってみると、私も好きだよかっこいいよね、と興奮気味の反応がかえってきた。
「あの人の旦那じゃん、ほら、たまにテレビに出てる」
同僚の口から出てきたのは、名前を聞けば顔が何となく思い浮かぶ女性アスリートの名前だった。どこかで見た記憶があったのは、彼女とともに雑誌やテレビのインタビューに答える姿を覚えていたからだ。
元コーチだか監督だか、鍛えられた肉体は彼自身のスポーツ界でのバックグラウンドを考えれば何も不思議ではない。
同僚の言葉に、なんだ、指輪してないと思ったのに、と答えたものの、彼の年齢や見た目を考えれば少なくともパートナーのいることは想像できたし、ちょっといいなと思った出会いに小さなオチが付くことには来年四十になろうという働く女はあまりに慣れていた。
昨年代々木上原の自分の住むマンションに越してきたちょっと年下のイケメン商社マンも既婚だったし、友人と行ったアート系イベントのレセプションで声をかけてきた人気スタイリストも既婚だったし、昨年別れたテレビ局員も、彼と付き合ってるときにしつこく口説いてきた音楽プロデューサーもみんなみんな既婚だった。
自宅に帰ると早速、スパニッシュ系美形の既婚四十代から出会いを祝福するLINEが届いていたけれど、可愛げを演出したいのか、「Tanoshimi!」「Arigato-ne!」などローマ字であえて日本語を交えて送られてきた文面に、彼女の心は冷ややかだった。
ぜひ東京で会いたいと誘ってくる相手に、your intentionがよくわからないわ、といった趣旨の返信をすると、ぜひロマンチックな関係を深めたいのだと言う。
同僚と話した後にしっかり名前で検索もして、 彼がよきパートナーとして女性アスリートを支えているのは確認したし、調べる限り、つい最近も外資系の雑誌で夫婦揃ってインタビューに答えていた。離婚のリの字も出てこない。
「パートナーとうまくいっていないの? 素敵なパートナーだと思うけど」
ノリノリでデートの提案をしてくる彼に釘を刺すつもりでそう返信すると、 今度は彼から着信が入る。不躾に鳴る数コールの間、考えてから通話ボタンを押した。
なぜ結婚の事実を知っているのか、あるいはデートが嫌ならなぜ連絡先を交換したのか、と問い詰められると思ったので、彼の言葉はちょっと意外だった。
「もちろん僕にはパートナーがいるよ、彼女は素敵な女性だけど、だからといって、僕に死ぬまで彼女とだけセックスをしろって言うのかい? そんな頑なな考えは人生を狭くしてしまうよ! 意外だなぁ、日本の女の子はアメリカと違ってみんなパートナーがいる僕との恋愛に前向きだし、ラブ・アフェアに肯定的な印象だったけど。二年間アメリカに住んでいたけど、みんなパートナー以外とセックスしたら呪われるみたいに思っている病気なんだよ。その点日本の女性はお金の面でフェアネスを担保さえすれば、不倫を理解して人生を楽しんでいるよね!」
これは大手航空会社に勤める友人の話。インターナショナルな不倫のお話。日本の女性のインターナショナル不倫市場での評価を垣間見た話。
私たちは実に多くの既婚者に声をかけられ、情事に誘われ、それに呆れつつも不思議にも思わない日常を送っている。
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続く記事『不倫芸能人への異常な懲罰感情、気軽に語られる婚外恋愛…「私たちは混乱している」作家・鈴木涼美が考察する、現代日本の「不倫」』では、現代の日本における「不倫」について、深く掘り下げて考察する。
不倫芸能人への異常な懲罰感情、気軽に語られる婚外恋愛…「私たちは混乱している」作家・鈴木涼美が考察する、現代日本の「不倫」

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