9月1日は、1年間でもっとも子どもの自死が多くなる日だ。10代の自死や学校でのいじめが年々増加し続けているのは、どうしてだろうか? 都内の公園や街中で生徒を対象に街頭アンケートを行い、「令和のいじめ事情」について調査した。
〈画像で見る〉アンケートで明らかになった“令和のいじめ”と18歳以下の日別自殺者数(平成27年版自殺対策白書より)
多くの学校が始業式を迎える「9月1日」。文部科学省は、過去約40年間において、18歳以下の日別自殺者数は9月1日がもっとも多いと発表している(*1)。毎年100人以上の子どもたちが、夏休み明けに自ら命を落としているのだ。
厚生労働省と警察庁が2023年3月14日に公表した「令和4年中における自殺の状況」(*2)によると、小中高生の自殺者数は「514人」で、1980年に統計を開始してからはじめて500人を超える過去最悪の数字となった。なお、2024年3月29日に発表された「令和5年中における自殺の状況」(*3)では「513人」となっており、2022年と同水準の数字となっている。
また、文部科学省が発表したデータによると、日本の不登校状態にある児童生徒数は10年連続で増加しており、令和4年度の調査(*4)では、過去最多の約29万9000人の小中学生が不登校の状態にあると記録された。同調査では、全国の小中高校と特別支援学校で2022年度に認知されたいじめの件数が68万1948件(前年度61万5351件)に上り、過去最多となったことも判明。深刻ないじめの重大事態も前年度から217件増え、最多の923件だった。長年大きな社会問題として認知されているのにもかかわらず、なぜ、自殺者や学校でのいじめは一向に減少せず、増加し続けるのだろうか? まずは、現役の教師たちに昨今の状況を聞いてみた。
「最近は中学生でもLINEやSNSを使うのが当たり前。昔に比べて、子どもたちがスマートフォンを通じて密に連絡を取り合う機会が多いので、些細なことが発端となってトラブルになったり、いじめに繋がったりするケースが多いですね」(都内公立中学に勤務するAさん・男性・38歳)「毎年のように『SNSいじめ』が校内で問題になっています。SNSは教員や保護者から直接目につきにくいので、学校側がすべて把握するのは難しく、対策が取りづらい状況です」(都内公立高校に勤務するBさん・女性・42歳)児童・生徒ですら、スマホを持つのが当たり前となった現代。時代の変化に伴い、「SNSいじめ」の増加が各学校で問題視されているようだ。
次に都内の公園や街中で高校生を対象に街頭アンケートを行ない、「令和のいじめ事情」について調査。これまでに、身の回りでどんないじめがあったか聞いたところ、こんな声があった。
「いじめられている女子の裸の合成画像が、クラスのLINEグループに送られて来たことがありました。同じクラスの男子がふざけて画像を作ったみたいです。次の日、学校でその男子たちは先生に呼び出されて怒られていましたね。画像はLINEグループから削除されていましたが、『デジタルタトゥー』という言葉があるように、クラスにはまだ画像を保存している人がいると思うので、本当に怖いです」(都内私立高校1年生・女子)
「友人の学校では、別れた恨みで元カノの画像をアイコンにしたXアカウントを作って、いわゆる“エロ垢”のような投稿をする『なりすまし』をしていた生徒がいたと聞きました。投稿した性的な画像はアイコンの女の子とまったく関係ないものなんですが、アカウント名をその子にして、あたかも本人がポストしているように見せたかったようで。結局バレて先生と親に報告がいったようなのですが、被害者の女の子はそれがきっかけで、すごく病んでしまったそうです」(都内私立高校3年生・男子)
「昔、嫌いな奴をクラスのLINEグループから追い出したことがあります。やっぱりノリが悪い奴とか空気を読めない奴とかって、いるんですよ。そういう奴は、よくターゲットにされていましたね。直接トラブルがあったとかじゃなくて、『なんかムカつくなー』くらいの理由です。周りはそういういじめに気づいていても、みんな見て見ぬ振りしていました」(都内公立高校1年生・男子)
「たぶん、女子の『SNSいじめ』のほうが陰湿だと思いますね。Instagramに『質問箱』ってあるじゃないですか? 悪口専用のアカウントを作って、そこで自分が嫌いな子に対して『お前自意識過剰だよ』とか『ブス』とか悪口を送っていた子もいたそうです。メインのアカウントではないとはいえ、言われたほうは『これ、絶対あの子だ』ってだいたい勘づくんですよ。でも、リアルでは表向きの姿で普通に接してくるみたいです。悪口を言われた子が先生に相談して、学年集会が開かれましたね。外から見たら普通に仲良い女子グループって感じだったので、めちゃくちゃびっくりしました」(都内公立高校1年生・男子)
取材に応えてくれた生徒の中には、「いじめまではいかなくとも、ネットやSNS上のトラブルは日常茶飯事だ」と語った生徒も多数いた。「仲が悪くなってSNSのフォロー外したりとか、鍵垢(許可した親しい人たちしか見られないプライベートのアカウント)をブロックして見られなくしたりとか、そういう話はよく聞きます。でも、それはただ仲が悪くなっただけなんで、いじめとはまた違いますよね」 (都内公立高校2年生・女子)
「僕の学校では、リアルでもネットでも、いじめとかは別にないですよ。でも、勝手に写真を撮って、許可なくSNSにアップして、個人間のトラブルになることはよくあります。いくら友だちだからって、やっていることは盗撮と同じだから、自分がされたら嫌ですよね。やっている本人は、ただの悪ふざけのつもりなんだと思います」(都内公立高校1年生・男子)
しかし、こうした「悪ふざけ」が「いじめ」へと繋がっていくケースが学校現場では多いとのことだ。冒頭で取材に答えてくれた都内公立中学校勤務のAさんは、「こうした悪ふざけに気づき次第、早急に指導し、いじめに繋がる前に芽を摘むよう対策を心がけている」と話してくれた。また、調査を進めていくと、学校によっては「SNSいじめ」よりも、昔からあるようないじめのほうが頻繁に行われているところもあるという。
「SNSやネットを使ったいじめよりも、リアルでの直接的ないじめのほうが多いです。僕の学校には外国人の生徒も多いのですが、たとえば黒人の生徒に対して蔑称を使うなど、外で言ったら大変な目に遭ってしまうような悪口が飛び交っています。そういう子は、先生からは『冗談でも不謹慎だ』とめっちゃ怒られていますよ。僕も中国出身の子と喧嘩したときに、『チャイニーズ』と言ってしまったことがあります。そのときは僕も先生にめちゃくちゃ怒られたし、自分でも言い過ぎたなと後から反省しました」(都内私立高校1年生・男子)「ちょっとヤンキーっぽい感じの奴らにご飯をおごらされたり、購買でパンとかを買わされたりすることがあります。断ったら『ノリ悪い』とキレられて面倒なので、いつもおごってあげています。暴力とかは、今のところ振るわれてないです。たぶん、暴力を振るうと大ごとになると向こうもわかっているから、手を出してこないんだと思います」(都内公立高校2年生・男子)
一方で、「うちの学校では、いじめやSNSでのトラブルは一切ない」と答えてくれた生徒もいた。その生徒に「どうしていじめやトラブルがないのか?」聞いたところ、このように話してくれた。
「もし、いじめの被害者がSNSに投稿して、誰がいじめたか個人が特定されたら、一生を棒に振るじゃないですか。だから、今どきそんな馬鹿なことをする人はうちの学校にはいないんだと思います。学校でも、先生から『いじめは犯罪だ』と教えられています」(都内私立高校2年生・女子)
「いじめが先生にバレると大学の推薦がなくなるから、それを恐れている人が多いんだと思います」(都内公立高校2年生・男子)
情報化社会である現代において、いじめをすることは今後の人生を歩むうえでも大きなリスクにもなりうるため、「LINEや動画をさらされたら人生終わる」「自己保身のためにしない」と考える生徒も多かった。しかし、そういった考えでは根本の原因は解決しないのではないだろうか。時代の変化に伴ったいじめ対策が、より強化されることを心より願う。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班