後部座席にいた7歳と5歳の姉妹が事故死 シートベルトをしていたのに「命を奪う凶器」になった理由

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8月18日午前11時頃、福岡県福岡市早良区の国道で軽乗用車(スズキワゴンRスマイル、以下ワゴンR)と西鉄バスの正面衝突事故が起きた。ワゴンRが中央車線をはみ出したことが原因で、この衝撃によりワゴンRの後部座席に乗っていた7歳と5歳の女児が死亡。地元のFBS福岡放送などによると、女児が亡くなった原因として「腹部に強い衝撃を受けるなどして」と報道。運転していた母親は足に重傷を負ったが命に別状はなく、バスの乗客もケガはなかったという。この事実が悲しみをより深いものにした。
筆者はこれまで子どもが乗車中に死亡または重傷を負う事故について独自取材を重ねて記事を書いてきた。
「ジュニアシートを使っていたのにベルトがおなかに食い込んで内臓損傷で死亡」
「チャイルドシートを使っていたのにハーネスが緩くて赤ちゃんが床に転がり落ちて死亡」
など、チャイルドシートを使っていたのに死亡……という事故についても何度か記事にしてきたが、今回の事故のように多くのメディアが報道することはなかった。今回大きく報道されたのは、安全の象徴ともいえる「シートベルト」を使っていたのにもかかわらず、2名の女児が死亡したことにある。
ではなぜ、「シートベルトを使っていた『のに』」死亡したのか。それは「シートベルトを使っていた『から』死亡したのである。シートベルトは身長150cm以上で安全に使える設計となっているため、それ以下の身長ではベルトだけで子どもを拘束するのは非常に危険なのである。まさに、今回の事故のように命を奪う凶器にもなりうる安全装備なのだ。
事故の全容はまだ判明していないが、これまで浮かび上がっている事実や関係者の話を総合すると、「女児の身長が150儖幣紊肪していないにもかかわらず、ジュニアシートをつけずにシートベルトをしてしまった」可能性が極めて高いことだ。
「シートベルトを正しく装着できた」と言えるのはどんな状態なのか。身長150儖幣紊△襪海箸鷲須で、肩ベルト(斜めのベルト)は鎖骨の上を通り、腰ベルトは両腰骨を通るように装着する。肩ベルトが首にかかったり、腰ベルトがおなかにかかったりするようならシートベルトはまだ早い。その状態で衝撃を受けると、肩ベルトで頸動脈を切ったり、腰ベルトがおなかを強烈な力で締め付けて内臓を損傷したりして、場合によっては死に至るのだ。
身長150cmに足らない子どもは、ジュニアシートなどを使って必ず座る位置を上げなければいけない。なお、「腰ベルトがおなかにかかって内臓損傷で死亡」というのは子どもに限らない。’21年に埼玉県内で起きた事故ではパトカーの後席に乗っていた警察官も腰ベルトがおなかにかかっていたことが原因で内臓を損傷し死亡しているのだ。
また、ジュニアシートを使う場合も身長125cmまでは背もたれとヘッドレストがついたものがマスト。125cm以上では背もたれなし座面だけのジュニアシートが使えるが、より確実な安全性を考えたら、150cmまで背もたれ付のジュニアシートを使うべきだ。そしてジュニアシートを装着する際も、鎖骨の上を通り、腰ベルトは両腰骨を通るように装着しなければいけない。
ただ、シートベルトの着用についての基準は今の日本にはなぜか、2つのスタンダードが存在する。
警察やJAFは「シートベルトは身長140cmで使用できるように設計されている」ことを前提に、「6歳未満の子どもを乗せる際には安全基準に適合したチャイルドシートを使う」ことを法律として義務付け、6歳以降は140cmに達するまではジュニアシートなどを使うことを推奨している。
一方、車を製造するメーカー側はシートベルトの着用基準を身長140僂砲靴討い襪、といったらそうではない。
自動車メーカーの集まりである自動車工業会(自工会)は、身長150cmの成人ダミー(AF05)を使って衝突安全性を検証している。それは国際的な安全基準がシートベルト着用を150cmとしているためだ。それ以下の身長ではシートベルトの安全検証そのものをやっていないため、自動車メーカー各社は「シートベルトは身長150cmを過ぎてから」としているのだ。このギャップが「命にかかわる誤解」を招く要因になっている。
つまり日本は、世界トップクラスの安全性能を誇る車を数多く製造する国であるのに、それに乗る子どもの安全性は蔑ろにされてきたと言っても過言ではないのだ。
自動車メーカーは身長150儖幣紊魎霆爐飽汰瓦魍稜Г垢觴存海鬚靴討い襪里法△覆JAFは「シートベルトは身長140cmで使用できるように設計されている」「140冖にはジュニアシートを使用することを推奨する」としてきたのか。筆者がJAFに問い合わせたところ、以下のような返答があった。
「当時のチャイルドシートや車のシートベルトの状況等を考慮し、このようなキーワードで啓発を行っておりました」
チャイルドシートやジュニアシートに子ども用ダミー人形をのせて実験した結果、安全とされたのが身長138僂世辰拭さらに、ドライバーが免許を取るときの最低身長は135僂箸気譴討い襦そのあたりのデータをもとに、「140儖幣紊任△譴丱掘璽肇戰襯箸鮖藩儔椎宗廚箸靴寝椎柔がある。いずれにしても、明確な根拠はないのだ。
一方、身長150儖幣紊魄汰幹霆爐箸靴銅存海鮃圓辰討た自動車メーカーで組織される団体(自工会)は、警察やJAFが140僂鮹緲儡霆爐砲靴討い襪海箸紡个靴討匹Υ兇犬討たのか。筆者は質問をぶつけたが、「自工会としては意見を申し上げる立場にございませんので、回答は差し控えさせていただきます」という返答にとどまった。
さらに、福岡の女児2人が事故で亡くなった数日後から世間を騒がせたのは、JAFが140→150cmに基準を見直すことを公表したことにある。なぜJAFは見直すことにしたのか。筆者の質問にこう回答する。
「今回の事件を受けて見直したわけではなく、各団体での(基準ではなく)目安が異なっていたため、3年前から再検討を行った結果として『150cm未満』に見直すことにしました。身長はあくまでお子さんのシートベルトが正しく着用できているかを確認するための目安であり、重要なのはシートベルトが首にかからず、腰骨を通るように正しく装着されることです」
なお、警察はいまだに、動きを見せておらず危険性の高い「140cm」を基準としているところがほとんどで、神奈川県警など「135cm」としているところもある。身長135cmの子どもにジュニアシートをつけさせず後部座席でシートベルトだけつけることは非常に恐ろしいことだ。これで死亡事故が新たに起こってしまったら、警察はなんとコメントするのだろうか?
JAFは来月中旬から「シートベルトは150cm超えてから」という方向で啓発活動を開始するという。長い間、警察やJAFは安全性が証明されていない身長140cmを「シートベルト着用基準身長」としていたことになるが、JAFが軌道修正の動きを見せた今、警察も従来の考え方を早急に見直し、「シートベルトは身長150冂兇┐討ら」と謳うべき時に来ているのではないだろうか。

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