〈高級タワマン“貼り紙炎上”問題〉本当に配達員はいじめられているのか聞いてみると…「タワマンはああしろこうしろと指示がある」「お高いから共有部分の劣化とか気にする」との声が続々

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東京都渋谷区の高級ブランドマンションでAmazon宅配便の配達員に対して掲示された差別的な貼り紙の問題が余波を広げている。SNSに投稿されて炎上、管理会社が貼り紙をはがしたものの、Amazonに限らず、日々奮闘する配達員がマンション内で“冷遇”されてきた実態が浮かび上がってきた。都内の複数の地域で、配達員やマンションの住人、管理会社の関係者に事情を聞いてみた。
“炎上”の現場となった高級マンションと、炎上後に貼り紙が“はがされた“エントランス
問題の貼り紙は「~Amazon宅配業者へのお知らせ~ 建物の美観を損なう恐れのある『角バッグ又は籠等』を使っての館内配達は禁止です。損傷の恐れある行為として警察に通報します。※防犯カメラ作動中」という内容で、8月24日にX(旧Twitter)に投稿されて炎上、すぐにはがされた。
配達員が床を傷つけたことなどがあり、現場のマンションには約2年前から掲示されていたという。しかし、こうした宅配便の配達員とマンションのトラブルは、さまざまなありようで各地に潜在するようだ。
JRや東京メトロが乗り入れる都内有数のターミナル駅である錦糸町駅周辺で配達中の「ヤマト運輸」の40代男性配達員は、こう証言した。「基本的に、注意や指導を受けるトラブルは『誤配』で、これは会社からもさんざん、言われます。でも、配達先のマンションの床をどうこうとか技術的な部分はあまり言われた記憶はないですね。僕はこの地域を1年くらい担当してるけど、台車を使っていいところとダメなところは分かれてますね。高級マンションがうるさいということではなく、昔ながらの物件でも禁止されてるところもあるし、結局は管理人さんとかの裁量によります。
問題の貼り紙はどこなんですか? 渋谷区ですか。僕が担当している錦糸町のあたりは下町で優しくて、逆に気遣ってくれて『あー! いつもご苦労さんねー!』って言ってくれたりします。再配達したら、『申し訳ないですね』って飲み物くれたりなんかもします。新宿・渋谷とは違いますよ(笑)」
今回のAmazonのように、個別の業者が“標的”にされることはあるのだろうか。「まぁ、どこも個人個人じゃないですかね。これはどの世界もだけど、人によると思います。配送業は歩合制の業者も多いから『お金を稼ぎたい』って目的が先走って、一度に荷物を何個も運んだり、雑にバンバンやったりするヤツがいたりね。荒っぽくなるヤツもいるし。やっぱり人間性が出ますから。
僕なら例えば、来年もこのエリアでやりたいなと思ったら、お客さんも自分も気持ちよくやりたい。だから『今日届けられなくても、これが明日につながればいいや』って思ってるから、急いで雑にやったりしませんよ。結局、何でも『温かみ』でしょ、商売って。飲食店でも従業員に冷たくあしらわれたら、もう二度と行かないでしょ。配達員も同じですよ」
同地域でピックアップ待機中のUber Eats配達員の2人組にも声をかけてみた。「こういう貼り紙みたいな注意を受けたのは、『入口に自転車を止めるな』くらいかなぁ。タワマンとかだと『ああしろこうしろ』ってお達しが多いことはデリバリー仲間から聞きますね。あとはタワマンでセキュリティが厳しいところだといちいち入館登録をするため紙に記入しなきゃいけなくて、届けるのに時間がかかるのが大変なことはあります。例の貼り紙には『角バッグを使っての配達禁止』とありましたが、バッグはけっこう大きいので、背負ってるとこっちも邪魔なんですよね。店内でも周りにぶつかっちゃったりするし」(30代配達員)
「飲食店からはバッグに関しての注意書きがあります。ピックアップ画面には店舗からの注意事項が出るんですけど、『バッグは置いてきてください』とか『バッグを背負っての入店不可』とかは多いです。だから、店の前にバイクを止めて、袋で商品もらって、戻ってきてバッグに入れるみたいなのはよくあります。マンション側からなんか言われた経験はないですけど、港区とか渋谷区とかみたいな地域だとあるかもしれないですね」(20代配達員)
次にもんじゃ焼きがソウルフードとして知られる中央区月島に移動して、聞き込みを続けてみた。まずはマンションの住民から。「誤配で嫌になることはあるけど、何か壊されたりとか傷つけられたりっていうのはないかなぁ。私が引っ越したてきたとき、入口とかエレベーターにカバーをして、それでもけっこうぶつかるところはぶつかったと思うけど、何も言われてないしね」(60代主婦)
「うちはないけど、あっちの高層マンションでは台車禁止とかがあるみたい。やっぱりお高いから、共有部分の劣化とか気にするんじゃないのかな。修繕費がけっこうかかったりするから。バッグは台車に比べて傷つけたりすることはなさそうだけど、あれってすごく大きいから、振り返ったら壁をこすって黒ずんだりとかするんじゃない?あと、なんかコボしたりしたら、拭いても跡は残るからね。ある程度の『注意』は仕方ないんじゃないかな」(50代女性)
食料品を搬入していた50代の男性はこう語った。「私は向こうの店からここの保育園に搬入してるだけなんだけど、こういう渋谷のマンションみたいな扱いはこの辺ではないですね。今も台車を使ってるし、周りでも台車や大きなバッグがダメっていうのは聞いたことがない。タワーマンションでも変わらないんじゃないかな?」
“マンション側”の見解も聞いてみた。錦糸町のマンションの入口横の受付にいた50代の男性スタッフに問題の貼り紙を見せると…「こういうのはあんまり見ないし、付近でも聞いたことないです。高層とか高級なマンションではあるのかなぁ。こういうのは管理組合の判断で出してることが多いんじゃないかな。でもうちでもクレームがあったら、ここまでじゃないけど何らかの対策はすると思います。結局、多くの住人から意見があったら無視するわけにはいかないので」
付近で清掃していた管理会社の男性清掃員2人組はこう答えた。「こういうのは本当に管理人による。この辺はわりとのどかでうるさい人もいないけど、言う人は低層とか安い物件でもこういうのは貼り出す。タワマンでも気にしない人はいるし、本当にさじ加減次第。だから現場のうちらは振り回されるんだよね」(50代男性)
「僕は見たことないけど、よそじゃたまにこういうルールは聞きますよ。まぁ、この画像みたいにインターホンの上とか、ここまで派手には出さないと思いますけど。特に台車で重い荷物積んだりすると、ローラー痕が残っちゃうこともあるんじゃないですかね」(30代男性)
再びもんじゃの街・月島へ。渋谷で“迫害”を受けたAmazonの配達員を見つけたので、貼り紙の画像を見てもらい、見解を聞いた。
「Amazonが名指しされてるけど、例えば台車がダメなのは佐川もヤマトも一緒ですよね? まぁ、こういうのはやっぱりタワマンに多いですね。僕は今、普通のマンションから出てきたばっかりですけど、(タワマン群を指して)たぶんあっちのほうはNGじゃないかな。住人というより、管理組合が決めるようですよ。僕もこの辺のタワマンで台車NGのところに『なんでダメなんですか?』って聞いても『組合で決まってるから』って。理由はなくその一点張り。置き配についても、お客さんはOKなのに管理組合がダメっていうのはけっこうあります」(40代男性)
「僕も昨日Xで貼り紙見ましたよ。Amazonは間口が広いから、いろんな人がいるというのもあるんじゃないですか。僕のエリアだけかもしれないけど、教育担当もいないし研修もなかった。登録を済ませてあとはオファーを受けるだけなんで。外国の方もいますよ。ただ、犯罪歴などにはきちんと気を遣っているようです。登録するときに、5年だったか6年だったかの間に『警察にお世話になったことないですか』みたいな照会があって、僕もそれをクリアしてます。Amazonから配達業務を始める人は、配達のことは誰も教えてくれないことが多いんで、独自で周りに聞いたりYouTubeの配達動画を見て研究したりしてます。マニュアルは一応あるんですけど、実際の現場はそれで対応できないことが多いじゃないですか」(30代男性)
配達員もそれぞれ努力をしながら配達をしているようだ。届けられるほうもその大変さに思いを馳せる必要があるのではないか。
※「集英社オンライン」では、宅配業者や運送業に関するトラブルについて情報を募集しています。下記のメールアドレスかXまで情報をお寄せください。メールアドレス:[email protected]@shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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