【清水 芽々】夫が土下座してまで「妻の身体」を求め続ける「多産DV」の闇…一見幸せそうに見える「子沢山家庭」なのに

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「妻の意思を無視した夫の一方的な性行為はすでにDVのひとつと認められていますが、『不同意性交罪』の施行によって、その認識がさらに深まることを願いたいです」
と話すのは、ベテラン保健師の神崎里恵さん(仮名・53歳)である。
産科看護師の経験があり、助産師の資格も持っている神崎さんは、これまでの医療現場での経験や、保健師として大勢の母親の相談に乗った実績から「夫の性加害によって望まない妊娠をして、やむを得ず出産を選択した妻」の存在に大きな危機感を抱いていた。
「妊娠・出産・育児は女性にとってかなりの負担になります。子どもが好きだからとか夫婦仲が良いとか、経済的な心配がないなどの理由があったとしても、心身にゆとりを持って臨めるのはせいぜい3人までです。私が把握している限り、自分から望んで4人以上の子どもを産んだ女性は半数以下です。多くの人は避妊に失敗したか、婚家や夫に強要されて出産しているのです」(神崎さん。以下同)
本間亜紀実さん(仮名・44歳)は昨年5人目の子どもを出産しているが、夫が参加した商店街の寄合で「実際は胸もケツも垂れてるし、アレもガバガバだよ? 仮に目をつける“物好き”がいたとしても、子育てに追われて、家を空ける時間がないから浮気なんて不可能だな」などとかげで侮辱し、「まあ、そういう風に俺が仕向けているんだけどね」と言い放ったという。
「妻に子どもを産ませて束縛する「多産DV」の闇…それほど好きなわけでも可愛がるわけでもないのに、子どもを欲しがる「まさかの理由」」より続きます。
怒りに震える中、夫は5人目の子作りを求めてきたという――。
亜紀実さんは「冗談じゃない!」と、これまでになく本気で抵抗したというが、逆上した夫は彼女を殴りつけ、強引に思いを遂げたという。立派な性加害である。
翌日から「自衛のために」亜紀実さんは子ども部屋で寝るようにしたそうだが、昼間子どもが学校や幼稚園に行っている間に性加害は繰り返された。
「年齢的なこともあり『もしかしたら妊娠しにくくなっているかも…』と期待しましたが、残念なことにデキてしまいました」
亜紀実さんはかかりつけの産科医に事情を話し、5人目を帝王切開で出産後に「卵管結紮術」という避妊手術を受けた。
「夫には言っていません。せめてもの抵抗です」
腱鞘炎のため手首に湿布を貼り、腰痛をカバーするためのコルセットを装着し、膝にはサポーターを巻いている亜紀実さんの身体には、多産による肉体のダメージを垣間見ることができた。
ふたり目は中村みづきさん(仮名・40歳)。こちらも5人のお子さんがいる。建設業だというご主人は7歳年下だ。
「夫とは10年前に結婚しました。私は彼を結婚相手として見ていなかったのですが、妊娠したので仕方なく、です」
それでも生まれた子どもは可愛く、夫婦としても円満だったというが、若いせいか性欲が強く、その一方で避妊を求めても夫は強く嫌がり、みづきさんは2人目、3人目と子どもを産むことになった。
「夫は『ひとり親方』で、収入が安定しないので私も働かざるを得ないのですが、そのために子育てが疎かになってしまっている現状がイヤでした。なので、4人目を妊娠した時、夫に『堕ろしたい』と言ったら『俺の子どもを殺すっていうのか!?』とキレられました。血走った目で睨みつけられ、首を絞められた時、私の人生はここで終わるのかと思いました」
この時の恐怖がトラウマになったみづきさんは、その後も夫の性加害を受け入れるしかなかったという。
「5人目は難産でした。産後の肥立ちが悪かったこともあって、私は育児ノイローゼになりました。そんな時にも身体を求めて来る夫に、私は思わず包丁を向け『これ以上妊娠させるのだったら、アンタを殺して自分も死ぬ!』と叫びました。精神的に限界だったのだと思います」
みづきさんの尋常ではない様子と剣幕に圧倒されたのか、その後夫はみづきさんの要求を受け入れてパイプカットをしたという。
「パイプカットをしても性欲は減退しません。ただ妊娠が困難になるだけです。夫に一方的に夫婦生活を強いられる苦痛は続いてます」
そんなみづきさんの救いは「子供たちが健やかに育っていること」。
「上の子は拙いながらも家事を手伝ってくれますし、下の子も妹や弟の面倒を見てくれます。正直、欲しくて産んだ子ではありませんが、産んだことを後悔はしていません」
3人目は、4人のお子さんを持つ日高澪さん(仮名・38歳)である。代々の地主である旧家の若奥さんだ。
「夫が長男だったので、義両親は跡取りの男の子を望んでいましたが、最初の子は女の子だったため『すぐに次の子を産みなさい』とせかされて、『母乳をあげていると妊娠ができない』という理由で無理やり断乳させられました。そうまでして年子で出産させられた2人目も女の子でした」
義両親は、年子の育児でへとへとに疲れている澪さんに「まさか、澪さん『女腹』じゃないでしょうね?男の子を産めないお嫁さんだと困るんだけど…」などと心無い台詞まで投げかけてきたという。
味方だった夫は最初こそ「気にしなくていいよ」と言っていたが、数年後、弟のところに男児が生まれると態度は豹変。「このままじゃ、弟のところに財産をとられるかもしれない。やっぱり男を産まなきゃダメだ!」と言って、澪さんに避妊なしの性行為を強要し続けた。
「そんな理由で子どもを産みたくないと思いましたが、義両親があからさまに我が家の女孫と弟のところの男孫を差別するようになったので、仕方なく相手をしました」
そして3人目を妊娠、出産するが3人目も女の子だった。
「上の子たちは妹ができたと喜んでいましたし、幸い手のかからない子だったので私は産んで良かったと思ったのですが、あきらかにガッカリした夫はほとんど3人目に関心を持ちませんでした。夫は義両親から『女腹の嫁なんてハズレだったね』と嫌味を言われ、弟夫婦からも『お兄さん可哀想』と憐れむような目で見られたそうです。夫はプライドが傷ついていましたが、優しい言葉をかける気にはなれませんでした」
おとなしくて聞き分けが良い、澪さんの娘さんたちに対し、弟の子どもは手が付けられないくらい我儘な気かん坊に育っていった。
澪さんの夫は「弟自体が悪ガキだったし、弟の嫁もヤンキー上がりだからしょうがねえよ」と不貞腐れ、義両親は「唯一の男孫があれじゃあ、先行き不安だよ」と嘆いたという。そして両者の思惑は一致し、澪さんはまた頼まれた――。
「『もうひとり産んで欲しい』と言われました。私はその場で断わったのですが、夜になって夫が『うちの親父とおふくろの頼みが聞けないっていうのか?日高家の将来がかかっているんだぞ』と凄んできました。
それでも私が首を縦に振らなかったのですが、夫は『どうしてもイヤだというなら殴ってても犯すぞ』と暴言を吐いてきました」
暴言を吐くのは義両親も同じだった。
「『言うことを聞けないなら子どもたち全員を連れてこの家を出て行きなさい。それで息子には新しい嫁をもらうから』と言われました」
精神的に追いつめられた澪さんにそれ以上抗う気力はなく、民間療法や迷信にも頼る形で産み分けを決行したが、授かった4人目も女の子だった。
義両親は生まれた孫を見に来ることもせず、夫はろくに口もきいてくれないという。
「毎日がお通夜のようだった」という日々が続いたある日、久しぶりに部屋にやってきた義両親と夫が膝を揃え「もうひとり頼む」と畳みに頭をこすりつけて「土下座してきた」そうだ。
しかしどんなに頭を下げられても、2人目から4人目までの3人を帝王切開で出産している澪さんは、もう子どもが産めない身体だった。
「それを知っていながら出産させようとするのは、私に『死ね』と言っているようなものです。もう限界だと思いました」
打ちひしがれた澪さんは自分の両親にすべてを打ち明け、実家に身を寄せることにしたという。
「別居して5ヵ月になります。最近弟嫁の妊娠がわかり、義両親の関心はそちらに移りました。それで夫も目が覚めたのか『もう子どもは産まなくていいから戻って来てくれ』と言っていますが、不信感は消えません」
澪さんは弁護士に離婚の相談をしているという。
幸せを謳歌している子沢山夫婦もたくさんいた。その一方で「多産DV」に巻き込まれ、苦しんでいる女性も一定数いる。
夫による妻への性加害は、これまで不問にされることが多かった。
「妻のつとめ」や「夜のつとめ」などという言い方をされて来たように、夫婦間の性交渉において「妻は受け身」であり、「主導権は夫が握る」という男性主体の文化が常態化していたことも一因だろう。
女性が受ける性加害は妊娠のリスクが伴う。妊娠中の心身の負担は言うに及ばず、出産となれば命がけだ。「授かりもの」であるはずの出産と子育てが「繋ぎ止める手段」や「性加害の結果」であってはならないと強く感じる。
【つづきを読む】「母さん、やめて」…交通事故で「他界した父」の身代わりに…15歳だった息子が母から受けた「おぞましい行為」
「母さん、やめて」…交通事故で「他界した父」の身代わりに…15歳だった息子が母から受けた「おぞましい行為」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。