「お客様は神様」。これは、三波春夫の有名なフレーズだ。その分かりやすく耳心地のよい響きゆえ、サービス業をはじめとする多くの会社で合言葉のように浸透した。令和の今でさえ、多くの人たちがこの考えを持っているといってもよい。私たちが普段から素晴らしいサービスを受けられているのは、少なからずその精神によるものが大きいはずだ。
しかし、そのフレーズによって勘違いしたカスハラが生まれているのもまた事実だ。行き過ぎた暴言や威嚇によって追い込まれ、メンタルに支障をきたす人たちは今も後を絶たない。
それから2週間後、後藤さんは元いた職場に復帰した。以前と一つも変わらない職場だが、唯一違うのは職場に彼女の祖父がいることだった。鳶職人として定年を迎えた初老の男性は、孫娘のために飲食店という慣れない足場に立つことを選んだ。