国内患者は10人程度の希少疾患 ローハッド症候群を知ってほしい 病名を知らない小児科医も 「難病指定で未来が変わる」家族の願い

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我が子の病気を、より多くの人に知ってほしい。そう願い、「ローハッド症候群」の周知に取り組む、渡辺未来(みく)さん(@cocoshimimi)。
【写真】ローハッド症候群を発症する前の瑚々ちゃんと、母親の未来さん
ローハッド症候群は、健康に生活していた子どもに突然、急激な体重増加や発汗異常、呼吸不全などの症状が見られる原因不明の難病。呼吸機能の低下によって命を落とすこともあり、特に自発呼吸が低下しやすい睡眠時に注意が必要とされている。
なお、これまでに国内で報告されている患者は10人程度と言われている。発症率の低さゆえ、病名を知らない小児科医もいるため、未来さんは家族会の仲間と共に医療従事者への周知にも力を入れている。
愛娘の瑚々(ここ)ちゃんは1歳を過ぎた頃、急激に体重が増加。月に1kgほど体重が増加するも、身長は伸びず。同時期には片目の斜視や発汗異常も見られた。
また、嫌なことがあった時や痛い時に泣かないことが未来さんは気になっていたそう。
「それもローハッド症候群の特徴のひとつだと、後で知りました。感覚鈍麻や感情を司る脳の部分に障害が起きることもあるようです」
病院で相談するも瑚々ちゃんは元気であったため、医師たちも病気に気づくことは難しかった。
2歳10カ月の頃、瑚々ちゃんは突然、40度近い高熱を出す。
咳や鼻水などの症状はなく、翌日の日中には平熱になったため未来さんは安堵。唇の色が少し悪い気はしたが、瑚々ちゃんはお散歩も楽しめていた。
ところが、夜中に再び40度の高熱。小さな頃から飲ませていた解熱剤を与え、隣で眠ると、翌朝、瑚々ちゃんはいつもの起床時間になっても動かず。意識を失っていた。
大学病院へ救急搬送された瑚々ちゃんは、重度の肺炎と診断された。小児で重症の肺炎は珍しく、風邪症状もないことから入院して検査をすることに。
その後、肺炎は治ったが、眠ると血液中の酸素量を表す「血中酸素飽和度(Spo2)」の数値が下がるようになった。
感染症や睡眠中に何度も呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」のような物理的に喉が塞がる病気である可能性を考慮し、様々な検査を行うも原因は不明。そこで、呼吸中枢に障害があり、眠っている時に呼吸が止まる「先天性中枢性低換気症候群」の可能性も考え、遺伝子検査を行うことになった。
この結果が出るまでには時間がかかることや、瑚々ちゃんは寝る時以外元気であったこと、3歳の誕生日が迫っていたこともあり、一時退院。通院して原因を調べていくことになった。
「誕生日には、祖父母に私と同じ名前のリカちゃん人形をねだり、私にくれました。自分の誕生日なのに…」
自宅では血中酸素飽和度をこまめに測定し、就寝時には酸素マスクを装着。健康な人の場合、血中酸素飽和度は99~96%くらいだが、当時の瑚々ちゃんは85%あれば良いほうだったそう。
「でも、本人は苦しくないようで動いたり喋ったりしていました」
念のため、病院には数回相談。だが、元気そうな瑚々ちゃんの姿を見て、医師たちも首を傾げた。
「これも後で知ったのですが、ローハッド症候群は血中酸素飽和度が低くて体に二酸化炭素が溜まっていても脳が苦しいと感じられず、本人は元気なことも多いようです」
誕生日の翌日、瑚々ちゃんの血中酸素飽和度は65%に。いつもと様子が違ったこともあり、未来さんは病院を受診。再び入院生活が始まった。
入院時、医師は「先天性中枢性低換気症候群」の検査が陰性であったことを告げ、症状を総合的に判断すると、ローハッド症候群の疑いがあると話した。
「私は信じたくなくて、ネット検索しては、この症状は当てはまらないから…と、ローハッド症候群ではない理由を探していました」
入院後、瑚々ちゃんの呼吸状態は悪化。未来さんは、夜中の呼吸管理に励んだ。
「普通なら、子どもが寝たら親は少し休めるものだけど、瑚々は寝ると呼吸状態が悪くなるので、逆に目が離せない。呼吸器はつけていましたが、酸素を入れることで体に二酸化炭素が溜まり、意識障害を何度も起こしました」
気管切開を検討したほうがいい。ある日、医師からそう告げられ、未来さんは悩む。お喋り好きな我が子から声を奪ってしまうのか。食べる喜びも奪うのか。そう考え、県外の病院へセカンドオピニオンを受けにいったが、医師の見解は同じだった。
「後に、特に子どもであれば気管切開しても話せるようになることも多いと教えてもらいましたが、当時は知識が乏しかったので、とても悩みました」
熟考の末、未来さんは気管切開を承諾。手術は無事成功し、瑚々ちゃんはリハビリを開始できるほど順調に回復していった。
ところが、小児病棟へ移った日、瑚々ちゃんは急変。40度近い高熱を出し、意識はもうろう。医師は鎮静剤の離脱症状である可能性が高いと判断し、解熱剤を投与した。
すると夜中、心拍数が低下し、意識がない状態に。身体は血中酸素飽和度が測れないほど冷たかった。
医師たちの懸命な治療により、瑚々ちゃんは一命をとりとめる。だが、解熱剤によってアナフィラキシーショックを起こし、脳に血液が回らなかった時間があったため、脳障害となった。
「小さな頃から使っていた解熱剤だったので、誰にも予測はできませんでした。アナフィラキシーショックとローハッド症候群の因果関係は不明だが全く関連がないとも言えないと、医師には言われました」
その後、瑚々ちゃんは「ローハッド症候群抗体検査」を受け、ようやく病名が判明。ローハッド症候群の検査は2024年4月から製薬会社を介した検査法が導入されるなど、早期発見ができるような仕組みになってきたが、当時はローハッド症候群を研究している医師に病院側から直接依頼して検査をしてもらう以外に方法がなく、時間がかかったのだ。
急変後は指先すら動かなかった瑚々ちゃんだが、現在は手足を動かし、笑い返してくれるように。
「回復することはないとしても、成長はしてくれています。私にとって心の支えです」
家族会も、未来さんにとっては心の支えだ。同じ悩みを持つ仲間との交流で救われ、ローハッド症候群の子が学校やアルバイトに行く姿を見ては、希望を抱く。
「娘は脳障害を併発しているため寝たきりですが、ローハッド症候群=寝たきりではありません。他の子たちも入院は多いこともありますが、頑張って日常を送っています」
一方で、ローハッド症候群が指定難病になっていないため、将来に大きな不安を感じる。
「福祉制度を受ける際の説明が難しいですし、ローハッド症候群は症状の出方も重さも様々なので、そもそも福祉制度の条件に当てはまらない子もいます」
指定難病になることは、治療の可能性を広げることにも繋がると未来さんは話す。
「ローハッド症候群は自己免疫が関係しているであろうことから、免疫治療が有効な例もあります。でも、今は指定難病として治療が受けられないので自費になりますし、そもそも治療許可がおりないこともあります」
なお、瑚々ちゃんの場合は人工呼吸器を装着していることから、勤務中の預け先を探すことが難しかった。未来さんはリスクを覚悟し、遠くのショートステイを利用するようになったが、都会でなくても病気や障害を持つ子を安心して育てられるよう、福祉制度が整ってほしいと願っている。
「病気でも障害があっても、その子は普通に生きる権利があるひとりの人間。自分のやり方で感情を受け取ることもできるし、伝えることもできます」
産まれてからずっと、我が子は宝物。そう思い、娘を愛し続ける未来さんと頑張り屋の瑚々ちゃんが今より笑顔になれる未来の在り方を、一緒に考えていきたい。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)

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