増える若者の孤独死 セルフネグレクトの実態「風呂に入らない、片づけない」「誰にも頼れない」【報道特集】

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自分の世話を放棄する「セルフネグレクト」。いま、 生きていくために必要な食事や入浴をおろそかにする、セルフネグレクトに陥る人が増えている。特に若者に増える背景には何があるのだろうか。その実態を取材した。
【写真で見る】運び出されたごみは3トン セルフネグレクトの実態
5年前、猛暑が続く東京でごみに埋もれた賃貸アパートの一室で生活する男性、Aさん(30代)を取材した。
10年間住み続けた部屋を引っ越すのをきっかけに清掃業者を呼び、部屋を片付けることを決意したという。
1メートル以上の高さに達したゴミに、エアコンのリモコンが埋もれてしまったままの生活が5年続いてきた。
Aさん(30代)「リモコン無くしたときに(エアコン本体)の中でスイッチを発見しておすことはできた」
爪切りも、何度購入しても使ううちにゴミに紛れてしまい、何足かあった靴も玄関まで続くゴミの下敷きになっている。
小型冷蔵庫の扉が開けることができず、使っていない。
宅配ピザを利用していたのは、ゴミが30センチほどの高さの時まで。それ以上積みあがって以降は、ドアを開けたときに部屋の中を見られることが恥ずかしくなり、利用できなくなったという。
清掃業者「もっと低いときにヤバイと思ってた?」Aさん(30代)「思ってない」清掃業者「仕事は?」Aさん(30代)「派遣でいろんな現場に行ってるんですけど、工場倉庫が多い」
この日運び出されたゴミは3トン。清掃業者の作業員5人で5時間かかった。
後日、きれいになった部屋で改めてAさんに話を聞いた。
Aさん「本当はこっちの方が便利なはずなんですけど、きれいな部屋がちょっと落ち着かない。これまで風呂は汚くなってたんで、湯舟には浸からず、シャワーを浴びていました。ゴミを平らにしてその上に寝る生活にだんだん慣れていきました」
ゴミを溜めてしまった理由の一つが、この賃貸アパートに共同のごみ捨て場が無く、ゴミが捨てにくいということだったという。
Aさんが派遣される工場倉庫には、真夏でも大型扇風機があるだけで冷房設備がない。汗だくになって仕事をし、それが終わると最寄りの駅のコンビニで夕食用の弁当と2リットルのペットボトル入りのお茶を買うことが日課になった。
一方で、ペットボトルのゴミ回収日は2週間に一度だけ。回収があるその日に、アパートの敷地の端にゴミ袋に入れて出さなければならない。週7日働くこともあったAさんにとって、次第にそれが億劫になっていったという。
Aさん「ペットボトルをまとめて捨てようとは思っていたんですけど、まとめてというのが何年もたまっていった」「現場の忙しさ・仕事のほうを優先して、仕事で稼ぎたくてかえってきたときクタクタで、暑くてクタクタで何もする気が起きなかった」
Aさんのように生活環境が悪化しているのにそれを改善する気力を失った状態を“セルフネグレクト”と言う。
日本では体力が低下し、健康状態が悪化した高齢者の問題として捉えられてきたが、近年は若者や働きざかりの人がセルフネグレクトに陥るケースも増えている。
NPO法人「エンリッチ」の紺野功さんは、弟がセルフネグレクトに陥った末、孤独死したのをきっかけに5年前から孤独死を防ぐ活動を始めた。
弟の由夫さん(当時51歳)は、同じ東京で一人暮らしをしていたが、9年前の2月中旬、突然警察から「自宅で亡くなっている」と連絡があった。驚いたのは、弟の死因だった。
紺野功さん「警察から“直接的な死因は低体温症である”と言われました。2月の中旬で、都会でもそういうことがあるんだなと驚きました」
荷物の整理のため弟の自宅を訪れると、部屋は趣味や仕事の関係する雑誌やパソコン機器などに埋め尽くされ、ベッドに寝た形跡はなかった。
正月に実家で集まったときは元気だったため、普段の生活ぶりを知らず、セルフネグレクトに陥っていたことにも気づかなかった。
紺野功さん「風呂付のマンションではあるんですけれども、浴槽に水をためた形跡が無い、風呂に入った形跡が無い、別に生活に困っていたわけでははないのですが暖房設備もエアコンもない」
発見が早ければ命は助かったのではないか?
アプリの開発をしていた経験をいかして紺野さんが作ったのが、LINEによる安否確認システムだった。
利用者は自由な時間・頻度を設定して、LINEの通知を受け取る。通知を受けとると「元気でいる」証としてOKを押すだけ。
個人でも、集合住宅や団地の住人としてグループでも、サービスに加入できる。
5年間で登録者は14000人を超えた。利用者の年齢層は、60代以上が32%を占める一方で10代~30代が20%、40代が20%、50代も27%いるという。
30代の女性BさんはLINEの安否確認サービスに加入した一人。
東京に出てきて15年以上、賃貸アパートに1人暮らし。小さな会社を転々としているうちに「もしここで死んだら?」と考えるようになった。
Bさん「婚活もしてきましたが、30歳を超えたとき結婚を諦めました。自分が人の面倒を見るのは構わないのですが、人に自分のことをお願いするのが苦手。父親が脳梗塞をして母親が苦労しているのを見たのも、後のことはきちんとしようと考えたきっかけです」
毎朝送られてくる、LINEの安否確認サービスにOKを押す。
それだけではなく、万が一の時に備えて、生命保険の証券や公共料金の引き落とし、銀行口座と連絡先を記したファイルも用意した。
Bさん「このアパートの住民も回覧板は回ってきますが、顔も名前も知りません。会社の同僚とも、深くプライベートなことまで関わろうとはしなくなりました。ネット社会が進んで、その気軽さを楽しむ一方で若い人が孤独死で亡くなるのをニュースなどで知ると“ああ、こういう時代になったのかな“という思いはあります」
この4月から、社会から孤立していることにより心身に有害な影響を受ける状態になるのを防ぐことを目的とした「孤独・孤立対策推進法」が施行され、自治体には支援団体で構成する地域協議会を設置する努力義務が課された。
だが、孤独死を防ぐ活動をしている紺野さんはこう訴える。
紺野さん「この5年でデジタル庁もできてデジタル化が進み、お年寄りにスマホの使い方などを伝える活動は大変やりやすくなりました。一方で、地方自治体などを回ると孤独・孤立対策推進法のために具体的に何に取り組むか、方針を立てているというところはほとんどありません」
「ニーズはすごく高いと思います。お年寄りだけでなく、若者たちからも “ネットでの繋がりはあっても、困ったときに頼れる人がいない”という 声をたくさん聞きます。コロナ禍の“ステイホーム”は、そういう人間関係を浮き彫りにしました。それだけで何とかなるという問題ではないですが、行政には早く有効な施策を打ち出してほしいと感じます」
「報道特集」では、若者の労働環境や生き辛さをテーマに取材をしたいと考えています。情報提供は番組ホームページまでお願いします。

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