《子ども狙いの事件が急増》「日本のような対策をしている国はほぼない」「世界一キケンな場所も」…日本人が知らない“被害にあわない教育”とは

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〈「虫歯を見てあげる」女児の舌を舐めた犯人は、その後…子どもが巻き込まれる犯罪の“本当の恐ろしさ”《未成年を狙った犯罪が急増》〉から続く
今年に入り、未成年者を狙った「連れ去り」が急増している。警察庁によると、1~3月の連れ去り事件の発生は昨年の同時期に比べ3割増加したという。子どもの外出が増える夏休み、防犯のためにすべきこととは? 犯罪学を専門とする小宮信夫教授へのインタビューを再公開する。
【画像】日本は「世界一危険」…海外の防犯体制をまとめて見る
「『危ない人』ではなく、犯罪が起こりやすい『危ない場所』を避けるべき」。そう小宮教授が提唱する「犯罪機会論」という考え方、そして、日本のあちこちに潜む「世界一キケンな場所」とは……?(全2回の後編/はじめから読む)
初出:文春オンライン2023年8月24日配信
yamasan/イメージマート
◆ ◆ ◆
――「怪しい人について行っちゃだめだよ」「暗い道には気をつけて」……。日本ではよく耳にする声かけですが、「犯罪機会論」の考え方が浸透している欧米諸国では、こうした指導はほとんど行なわれていないとのことです。
小宮 そういう声かけをすると子どもは「普通の人」「明るい道」なら安全なんだ、と思い込んでしまいます。子どもを狙う犯罪者は身なりも普通ですし、好みの子どもを見つけるために明るい道を好む傾向にある。こういう教え方では、子どもを逆に危険に近づけてしまいます。
――では、子どもにどのような声かけして伝えることが防犯に効果的なのでしょうか?
小宮 「その人がいる背景・景色を見てごらんなさい。あなたの目の前の人はあなたにウソをつくかもしれないけど、景色は絶対にウソをつかない」と伝えてほしいです。
それと、「危ない場所」を見抜く訓練を生活に取り入れてみてください。「危ない場所」とは誰でも入りやすくて、周りから見えにくい場所。公衆トイレの個室などがそうですね。子どもと一緒に街を歩いているときでもいいし、車に乗りながらあちこち景色をみるときでもいいし、「ここはどうだろう? 危ないかな?」と話し合うことで、自然と違和感に気づけるようになります。

――被害を防ぐには、「危ない場所」に気をつけるという意識を高める……という方法しかないのでしょうか?
小宮 考え方として気をつけるのはもちろんいいのですが、例えば日本以上に海外では「犯罪機会論」に基づいた街づくりをしていて、システムによって犯罪を減らす、防犯体制ができているんです。

小宮 例えば、海外の公園には遊具を「大人向け」と「子ども向け」ではっきりとエリアを分けています。もし見知らぬ大人が「子ども向け」エリアに入ってきたら、違和感を抱くことができます。「入りにくい場所」をつくることで犯罪を減らすつくりにしている。これを「犯罪機会論」を用いた「ゾーン・ディフェンス」と呼んでいます。
ーー公園の他にも、「ゾーン・ディフェンス」が効果的な場所はあるのでしょうか。
小宮 どこにでもある「見えにくい」場所のひとつ、公衆トイレを例にみてみましょう。海外のトイレでは、男女のトイレの入り口を離していたり、多目的トイレも1つではなく、男女別々に作られています。また、完全な密室にならないように、足元が空いているところも多く、様子がおかしければ外からわかるように設計されています。
犯罪学の観点からみれば、「ゾーン・ディフェンス」がない日本の公園や、男女の入り口が同じの公衆トイレは、構造上、世界で一番危険であると思っていいです。

――たとえば、家族連れがよくいく場所の一つですが、人も多く、防犯カメラも設置されているようなショッピングモールなど屋内施設も危険なのでしょうか?
小宮 長崎の家電量販店で男児が誘拐される事件(2003年)がありましたが、当時お店にはお客さんがたくさんいたそうです。でも、警察が捜査をしても、全く目撃情報がなかった。居合わせた人は皆、商品に意識が行ってしまっていて覚えていないんです。
もし、子どもが誘拐される瞬間に気がついたとしても、「その人は大丈夫? 知り合いなの?」と通りすがりの人が介入してくるというケースはまずありえません。これは、「傍観者効果」というもので、「ちょっとおかしいな、一緒にいる人は、親じゃないのかな?」と違和感をもったとしても、見過ごしてしまうのです。
――「犯罪機会論」は欧米では50年前くらいから提唱されているとのことでしたが、他の国ではどうなのですか。
小宮 全世界で浸透してきていると思います。一番進んでいるのがイギリスとアメリカ、その次ほどにオランダやカナダ。アジアでは、韓国やシンガポールがちょっと前を走っている感じですかね。

日本が子どもに向けた防犯対策は未だに「防犯ブザーを渡す」「大声を出す練習をする」「走って逃げる訓練をする」ですが、もう海外でやっているところはほぼありません。こうした対策は「マンツーマン・ディフェンス」といって「襲われたらどうすべきか」という考え方です。
「マンツーマン・ディフェンス」と、そもそも「襲われないようにどうすべきか」という「ゾーン・ディフェンス」。どちらを選ぶことが、犯罪を減らすために効果的と言えるでしょうか。
――「マンツーマン・ディフェンス」は、小さくて力の弱い子どもは特に難しいですよね……。
小宮 そうですよね。犯罪機会論が普及していない日本では、子どもが一対一で犯罪者と対決することになる。そうなったらもうほとんど勝ち目はありません。犯罪者が犯行を諦める“景色”がもっと日本に増えてほしいですね。
――例えば国内で、小宮先生が注目している施設などはあるのでしょうか。
小宮 町内会などで「ホットスポットパトロール」をやっている地域があるそうです。「ホットスポット」というのは「入りやすく見えにくい」場所のことで、そこを重点的にパトロールしようという犯罪機会論を応用した取り組みですね。
藤沢市の全小中学校では、校門から受付までの道のりにラインが引かれています。これはゾーニングの一つで、普通の来客であれば引かれたラインを辿って歩きますよね。そこから離れて歩く学外の人間がいたら、「あの人の行動はおかしくないか?」と思ってもいいという指標になります。

――なかなか「犯罪機会論」が浸透しないのは、なぜなのでしょうか?
小宮 私の印象ではありますが、固定観念というものが強くあるんだと思います。「日本は安全」「今までこれでうまくやってきたのだから」ということで、新しいシステムを取り入れようという意識にはなかなかならないのではないでしょうか。「海外のやり方をなんでも取り入れるべき」というのではなく、犯罪機会論はこれまで多くの国で取り入れられ、効果も実証されている考え方です。
子どもをもつ方は本当に真剣に「どうしたら犯罪に巻き込まれることなく、自分の子どもを守れるのか」と考えておられます。他人事ではなく、自分にとって大切なお子さんが犯罪に巻き込まれないためにできることは何なのか。より多くの人に考えてみていただければと思っています。
(「文春オンライン」編集部)

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