過去のリベンジか…中学時代の同級生に全治1年の重傷負わせて「同意があった」 そんな主張が認められる可能性は?

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過去の“リベンジ”を果たすつもりだったのだろうか。
中学時代の同級生の顔を殴り、全治約1年の重傷を負わせた男性(26)が、傷害の疑いで警察に逮捕されたと報じられている。
北海道ニュースUHB(7月19日)などによると、男性の知人が被害者を呼び出し、函館市内の建物で5月、男性が顔を複数回殴ってケガを負わせた疑いがあるという。男性は「中学時代に暴行を受けた。被害者の合意を得て殴った」と事件の経緯を述べたようだ。
中学時代に暴行があったかどうかは不明だが、被害者の同意があれば殴ってもよいことになるのだろうか。元検察官の荒木樹弁護士に聞いた。
──「被害者の合意を得て殴った」との供述が報じられています。
犯罪捜査の過程で、「被害者の同意があった」という被疑者の弁解があった場合、捜査機関は、その内容を慎重に捜査します。
被害者本人から事情を聴取するなどして、犯行に至る経緯やその後の事情を検討して、本当に同意があったと言えるかを検討します。
たとえ、言葉の上では、「いいよ」などと同意とみなせる発言があったとしても、怖くなって仕方なく言ったのであれば、それは同意ではありません。被害者の同意は真意に基づく同意である必要があります。
──被害者の同意は犯罪の成否にどのような影響がありますか。
捜査の結果、被疑者の弁解通り、やはり真意の同意があったと判断される場合の扱いは、犯罪の種類によって異なります。
たとえば、性犯罪であれば、被害者の同意があったのであれば、そもそも犯罪ではありません。
殺人事件の場合、被害者の同意があったときは、「承諾殺人罪」が成立することになり、6カ月以上7年以下の懲役刑に処せられます。人の生命を奪うという重大な行為なので、たとえ同意があったとしても、犯罪として取り扱っているのです。
傷害罪については、法律上は明白ではありません。
最高裁は、保険金詐欺目的の偽装交通事故の事案について、たとえ、負傷した被害者役が承諾していたとしても、傷害罪が成立するとしています。
その理由について、同意の動機、目的、身体障害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて判断するとし、保険金詐欺という違法な目的のための同意なので、違法性を阻却しないとしています。
最高裁の解釈では、傷害罪については、被害者の同意があっても、形式的には傷害罪に該当し、ただ、被害者の真摯な同意があった場合には違法性がないということになります。
──今回のケースで被害者は「全治約1年」の重傷を負ったようです。
そもそも同意があったと言えるのかどうかが、最大の問題です。通常、重傷を負うほどの傷害を、被害者が同意することは常識的に考えにくく、そもそも被害者の同意はなかった可能性のほうが高いように思われます。
ただ、慎重に捜査した結果、やはり被害者が真意に同意していたと認めざるを得ない場合、検察の最終処分は非常に難しくなると思います。
被害者が同意した動機・理由・内容にもよりますが、最高裁の判例に照らしても、傷害罪が成立しない可能性もあります。また、仮に傷害罪が成立すると判断しても、量刑は相当に軽くなることになると思われます。
【取材協力弁護士】荒木 樹(あらき・たつる)弁護士釧路弁護士会所属。1999年検事任官、東京地検、札幌地検等の勤務を経て、2010年退官。出身地である北海道帯広市で荒木法律事務所を開設し、民事・刑事を問わず、地元の事件を中心に取り扱っている。事務所名:荒木法律事務所事務所URL:http://obihiro-law.jimdo.com

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