SNSで知り合ったいわゆる「撮り鉄グループ」の中学生や高校生の少年7人が、今年4月~5月にかけて、JR蘇我駅(千葉県)をはじめ東京や神奈川などの1都4県において踏切の非常ボタンを押す、踏切に立ち入るなどして電車を止める行為を繰り返した事案が8月19日に報道されました。
SNSでは「撮り鉄の間では電車を遅らせる迷惑行為が自慢になるんだ」「少年だからと許される限度超えてるよね」「管理責任ある親はなにやってんだろ」などの声が上がっています。
少年7人は計9件の犯行に関わったとみられており、威力業務妨害などの疑いで家庭裁判所などに送致されました。
少年らは14歳~17歳であり、いずれも20歳未満であるため「少年事件」として取り扱われ、家庭裁判所で更生を目的とした「保護処分」の審理が行われる見込みです。
本件のように、故意に電車を止めたり遅延させたりした場合、刑事責任のほかに鉄道会社に対する損害賠償責任を負う可能性があります。
もし損害賠償を請求された場合、少年らは具体的にどのような責任を負うのでしょうか。また、犯人が複数いる場合の取扱いや、少年らの保護者の責任はどうなるのでしょうか。法的な観点から解説します。(弁護士・阿部由羅)
踏切の非常停止ボタンを不必要に押したり、遮断機が下りている踏切内に立ち入ったりして、意図的に電車を遅延させることは「不法行為」にあたります(民法709条)。
不法行為をした人は、鉄道会社に生じた損害を賠償しなければなりません。
具体的には、電車が遅延することで、鉄道会社には次のような損害が生じることがあります。
意図的に電車を遅延させた人は、鉄道会社に生じた上記の損害などの実額を賠償しなければならないのです。
実際の損害額はケースバイケースですが、大きな影響が生じた場合は、数千万円の賠償責任を負うこともあり得ると考えられます。
複数人で競い合って電車を遅延させる行為は、自分たちの娯楽だけを目的として多大な迷惑をかけているため、悪質と考えられます。
しかし、行為の悪質性だけを理由にして、賠償金が増額されるわけではありません。賠償金額はあくまでも、鉄道会社に生じた損害の実額を基準として算定されるためです。
もっとも、「悪質な行為によって鉄道会社の損害が拡大した」といえるなら、賠償金はより高額となるでしょう。
たとえば「遅延行為が繰り返されたことによって長時間・多数回にわたり運行の障害が発生した」という場合には、通常よりも損害賠償責任が高額となることも十分に考えられます。
本件のように複数人が共同して意図的に電車を遅延させた場合は、その全員が「共同不法行為者」となります。実際に遅延行為をした人だけでなく、電車を遅延させるよう唆した人や、見張り役をして行為を助けた人なども共同不法行為者に含まれます(民法719条2項)。
共同不法行為者は、各自が連帯して鉄道会社に生じた損害を賠償しなければなりません(民法719条1項)。
ただし、鉄道会社は共同不法行為者の全員に対してではなく、そのうちの1人に損害全額の賠償を請求することもできます。
たとえば、7人が共同して電車を遅延させ、鉄道会社に100万円の損害が生じた場合、鉄道会社は7人のうち1人に対して、100万円全額の賠償を請求することができます。請求を受けた人は、100万円全額を鉄道会社に支払わなければなりません。
もっとも、鉄道会社に対する賠償義務とは別の問題として、共同不法行為者の間における最終的な負担割合があります。
共同不法行為者の間では、それぞれが果たした役割などに応じて責任割合が決まります。
たとえば、A・Bの2人が共同して電車を遅延させ、100万円の損害が生じたとします。Aに7割、Bに3割の責任がある場合、最終的な負担額はAが70万円、Bが30万円となります。
前述のとおり、鉄道会社がAに100万円全額を請求した場合には、Aが鉄道会社に対して100万円を支払わなければなりません。
この場合、Aは本来の負担額を超えて支払った30万円について、Bに対して支払いを求めることができます。これを「求償」といいます。
冒頭で述べたように、報道によると本件で電車を意図的に遅延させた少年らの年齢は14歳~17歳であり、いずれも未成年者(18歳未満の者)だったとのことです。
未成年者であっても、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(=責任能力)を備えていれば、自ら不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法712条)。
一般的に、責任能力のボーダーラインは10歳~12歳程度と考えられています。
したがって14歳~17歳であれば、知的障害を有するなどの事情がない限り責任能力が認められ、自ら損害賠償責任を負う可能性が高いでしょう。
未成年者は十分な資力を有しないケースが多いですが、それでも法的には、未成年者自身が損害賠償を支払わなければなりません。
一方で、責任能力のある未成年者の保護者も、監督義務違反の過失が認められる場合には、鉄道会社に対して損害賠償責任を負います(民法709条)。
保護者が損害賠償責任を負うのは、未成年者が電車を遅延させることを予見でき、かつ保護者がそれを阻止することができたといえる場合です。
たとえば、過去に未成年者が電車を遅延させる行為を繰り返したことを知っているなら、再発防止措置を講じるのが保護者の責任といえるでしょう。具体的には、本人に対してきつく注意する、学校に相談する、外出時間を制限するといった対応が考えられます。
これらの対応をなんら行っていなかった場合には、保護者も鉄道会社に対する損害賠償責任を負う可能性があります。
遅延行為をした未成年者に責任能力がない場合、未成年者本人は鉄道会社に対する損害賠償責任を負いません(民法712条)。その代わりに、保護者が監督義務者としての損害賠償責任を負います(民法714条)。
ただし、実際には、未成年者自身が損害賠償責任を負う場合でも、保護者が任意に損害賠償を肩代わりする例が多く見られます。
もし両親が肩代わりせず、本人にも支払い能力がない場合、鉄道会社がすぐに賠償金を回収することは難しく、分割払いなどの対応が検討されることになります。
なお、仮に本人が自己破産した場合でも、故意に列車を遅延させたことによる損害賠償責任は免責されない可能性が高いと思われます(非免責債権、破産法253条1項2号)。
■阿部由羅(あべ ゆら)ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。