【前後編の後編/前編を読む】旅の思い出をネットにアップしたら「心霊写真だった」 カメラ好き女子大生が映した“季節外れの怪異”とは
これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。
相談者の未佳さん(仮名・35歳)は学生時代からお小遣い稼ぎとして、画像素材ストックサイトに写真をアップしている。だが、過去に1度だけ、サイトから写真を取り下げたことがあるという。それは大学2年生のとき、同級生3人と行った冬の北海道・函館旅行の際に撮れてしまった写真。美しい夜景やおいしそうなグルメ……すべてアップする予定だったが、全員でスナップ写真を撮った際に「心霊写真」が撮れてしまったのだ。そこに写った黒髪ロング、水色の涼しげな服の「彼女」に未佳さんは見覚えがあった。それというのも……。
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【写真を見る】「幽霊でもいいから会いたい」残された遺族の心を救う“死者との再会”
未佳さんには仲の良い同い年の従姉がいた。 母方の伯母のひとり娘だった。母と伯母は非常に仲が良い姉妹で、家同士も近かったことから、従姉と彼女はきょうだいも同然に育った。 従姉も都内の大学に進学が決まり、家が他県にあったので、2人でアパートを借りて下宿する予定で、一緒に物件探しをしていた。 ところがその最中に、従姉は自宅の階段から転落して脊椎を傷め、休学を余儀なくされてしまった。 未佳さんは従姉とアパートに一緒に住む計画を断念して、大学の学生寮に入った。
そして学生生活が充実するにつれて、日頃は従姉の顔を思い浮かべることすらなくなっていった。
やがて夏休みになったが、従姉はまだ快復していなかった。車椅子で過ごしているそうで、表情は暗く沈んでいた。体つきも変わり、別人のように小さく萎んでいた。
「未佳ちゃんはいいなぁ。本当にうらやましい」
従姉はそう言って、ふだん何をしているのかを盛んに聞きたがった。 気の毒に思い、求められるままに話しはじめたが、従姉の要求はキリがなかった。
大学に入って以降の未佳さんのすべてを知りたがり、学んでいることや新しい趣味のみならず、寮のようすや先生方について、新しい友だちの容姿や出身地、見て面白いと思ったものや食べたものまで、3時間にわたって延々と詮索した。
未佳さんは面倒になり、また、従姉があまりにも熱心なので、空恐ろしくも感じられてきて、最後は適当な理由をつけて逃げるように伯母の家から立ち去った。
その後、母から、従姉が精神科を受診していることを聞かされた。
「背骨が折れて立てなくなってから感情の浮き沈みが激しくなって、家に引き籠もってリハビリにも行かず、伯母さんたちがどうしたものかと思っていたら、とうとうドアノブで首を吊ろうとしていたんですって。だから精神科に連れていったそうなの。治療を受けて良くなるといいけど……」
それ以来、未佳さんは、従姉に会うのを避けるようになった。
家族で集まれば会話をしたが、一対一で会おうとはもう思わなかった。
従姉を嫌いになったわけではなかったとのことだから、察するに、当時の未佳さんは希望と若々しい生命力に溢れており、同じように明るいエネルギーに満ちた者たちを本能的に求め、逆に、陰の気配を遠ざける傾向があったのだろう。
また、かつて親密だったからこそ、痛ましく変貌してしまった従姉を目の当たりにするのも苦痛だったに違いない。
最後に顔を見たのは、今年の夏休み中のことだったという。
従姉は爽やかな水色の半袖ブラウスを着て、伯母が押す車椅子に乗っていた。
伯母夫婦と従姉、未佳さんと両親の6人で、レストランで会食したのだ。
元気な頃の従姉はショートボブだった。その髪は今や胸もとまで伸びていたが、髪の毛の豊かさと、痩せてやつれた顔や貧相な体型との対比が露骨で、痛々しかった。
しかし、その場では、それなりに和やかに時が過ぎて、やがて最後に記念撮影をすることになった。
未佳さんは、いつもの習慣で自分のデジカメを持ってきていた。
そこで、店員にカメラを託して、シャッターを切ってもらった。
そのとき従姉は未佳さんの右隣にいた。
写真は上手く撮れていた。従姉も笑顔だった。
未佳さんは従姉と伯母たちにデータを送る約束をし、帰宅後ただちに自分のパソコンに写真データを取り込んで、それを伯母あてにメールで送信した。 ――まさか、伯母がメールを開封する前に、従姉が自分の部屋のドアノブで首を吊って死んでしまうとは予想だにしていなかったのである。
従姉は、元気な未佳さんと会ったことで、絶望を深めてしまったのかもしれない。
せめて同い年でなければ、彼我の違いを比べたとしても、そこまで力を落とすことはなかったのかもしれない。
あのとき2人を会わせるべきではなかったと大人たちは後悔したのではなかろうか。
後に伯母が未佳さんに話したことによれば、誰よりも従姉その人が未佳さんに会いたがっていたそうなのだが。
未佳さんは、元気いっぱいで旅行を満喫している大学の同級生たちに、こんな話を打ち明ける気にはなれなかった。
しかし、旅行を終えて、帰省中だった実家に戻ると、すぐに件の写真を母に見せた。
「1枚目も怖いけど、2枚目の方が危険な気がする」と母は言った。
未佳さんがブレて写り、すぐ横が黒く翳っているのは、従姉が未佳さんをあの世へ連れていきたがっていることを表しているに違いないというのである。
「伯母さんに言う?」と未佳さんが問うと、母は首を横に振って、「まさか!」と否定した。
「そうでなくても半病人みたいになっているのに、こんな写真が撮れたと知ったらショックで倒れてしまうよ。これは、このままにしておくわけにはいかない。この写真のデータはどうなっているの?」
「SDカードに入ってるよ」
「じゃあ、それをお寺でお焚き上げしてもらいましょう」
「……え?」
未佳さんは躊躇した。
なぜなら函館で撮った他の写真も、全部、同じSDカードに入れていたからだ。
良い写真がたくさん撮れていた。画像ストックサイトに送るつもりでいたから、お焚き上げするわけにはいかない。
しかし、もちろん、必要な写真データをパソコンに取り込んでからやってもらう分には困らないわけである。 そこで未佳さんは心霊写真2枚を残して、他の写真データをパソコンに移した。 しかる後に、母に付き添われて菩提寺に行き、住職にSDカードを託し、厄除けの護摩祈祷を受けた。
住職の読経を聞きながら、未佳さんも従姉の供養を願って真剣に祈り、帰るときには清々しい気持ちになっていた。
さらに、母と2人で従姉の墓参りをしてから帰宅した。
「もう大丈夫でしょう」と母は安心した口調で言い、未佳さんも同感だった。
だが、これで終わりではなかったのだ。
画像ストックサイトに函館の写真をアップして1週間後、未佳さんがストックサイトの自身のアカウントをチェックしたところ、函館山で撮った夜景の写真に不気味な人影が写っていることに気がついたのだ。
最初は無かったものだ。
画面の右端の方に、うっすらと白っぽく、人の顔のようなものが浮かんでいる。
おまけに、目を凝らしてよく見れば、その顔の下には水色が……はっきり言ってしまえば従姉が最期の日に着ていたブラウスのそれだとしか思えない色が、淡く滲んでいるではないか。
未佳さんは震える指でパソコンを操作して、その写真をストックサイトから削除した。
それから函館旅行で撮った他の写真も確認してみたのだが……。
「全滅でした」と、インタビューのとき、未佳さんは声に自嘲を滲ませて私に言った。
「欲をかいてデータを移したのが全部無駄になってしまいました。どの写真にも従姉の影が写り込んでいたので、全部消すしかなかったんですよ。何も抵抗せず、カメラから取り出したSDカードを素直にお焚き上げしてもらえばよかったってことです! ……海鮮丼の写真も見逃してもらえなかったんですよ!」
最後のひと言に思わず吹き出すと、未佳さんも笑い声を立てた。
だが、すぐに、「今はこうして笑っていますけど、あのときは“怖い”なんて単純な言葉では片づけられませんでした。従姉の執念を思い知らされた気がして、哀れでもあり、同情もしましたし、もちろん恐ろしくもあって」と、おっしゃったのであった。
ストックサイトから函館で撮ってきた写真をすべて削除した後、未佳さんは再びお寺で厄除けしてもらったという。
また、その後は、今に至るまで、従姉の祥月命日には墓参りをしているそうだ。
「命日のお墓参りについては、当然と言えば当然なんですけどね。なぜって、結局、従姉の死から2年ぐらいして伯母夫婦は離婚して、その翌年に伯母が癌で早死にしてしまったので、うちの実家が従姉と伯母のお墓を守っていますから」
「ご実家がお墓を? 伯父さんは、どうされたんです?」
「行方がわかりません。いえ、本気で捜せば見つけられるかもしれませんが、伯母が入院したことを母が電話で連絡したら『わかりました』とだけ言って、どこかへいなくなってしまった。親戚一同、伯父に呆れてしまって、誰も本気で捜そうとしなかったんです。離婚後に独りで住んでいたアパートはもぬけの殻で、会社も辞めていた、とは聞いています」
「家も仕事も捨てて? そこまでして姿をくらますのは只事ではありません。もしかして伯父さんもお亡くなりになっているのでは?」
「そうかもしれません。でも、どうしようもありませんから、今のところは、従姉と伯母の御霊の安らかなることを祈るばかりです」
未佳さんがパソコンに保存していた函館旅行の写真データも、なぜか消えてしまって、どこをどう探しても見つけられなかったのだという。
「私は、この件については、もう何もかも済んだと言いたい気持ちです。ただ……当時からずっと気がかりなことがひとつだけあって……初めて人に打ち明けるのですが……ストックサイトから函館の写真を削除する前に、1枚だけダウンロードされてしまっていたんですよ!」
「え? それはつまり、誰かが心霊写真を買ってしまったということですか?」
「はい。しかも、その人は変なものが写っていることに気づかずにダウンロードした写真をンターネット上で表示される何かに使ってしまって、従姉の怨念が残るデータが世の中に拡散している可能性もゼロではないのです」
私は「従姉さんはもう成仏なさったでしょうから、もしもその写真が今も此の世に存在しているとしても、怪しい影は消えているのでは?」と言ってみたが、どんな言葉も無責任な気休めに過ぎない。そうであってほしいと切に願うばかりである。
―――【記事前半】では、大学時代の未佳さんと友人の函館旅行と、そのときに撮れてしまった「心霊写真」について語られる。
川奈まり子(かわな まりこ) 1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)
デイリー新潮編集部