石丸素介さん(42)は、小学校時代の担任教諭による性被害の事実と後遺症の損害が、最高裁判所によって認められたのは2024年のことだ。
【画像】服役中の元ヘヒーシッターの男性から筆者に届いた手紙
しかし、その加害者の元担任・田中耕一郎容疑者(75)は2025年末に男児への性犯罪の疑いで逮捕された。
なぜ、性犯罪は繰り返されるのか。この疑問を解くカギとなる手紙が、「文藝春秋PLUS」で「ルポ男児の性被害」を連載中のジャーナリスト・秋山千佳氏に届いた。手紙の送り主は、男児への性加害で服役中の元ベビーシッターの男性だ。
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刑務所から一度に発送できる上限枚数の便箋に、びっしりと埋め尽くされた文字。
「石丸さんにとって、田中容疑者の名前を見るだけでも耐えがたい苦痛であるものと感じました。いわゆる“トラウマ”を抱えて生きていく運命を背負わせてしまった私たち加害者の罪は重いです」
差出人は、男児への性加害で服役中の元ベビーシッターの男性だ。
石丸さん――石丸素介(42)は、小学校時代の担任教師による性被害の事実と後遺症の損害が、裁判所によって認められている。
石丸素介さんは、小学校時代に担任だった田中耕一郎容疑者から性加害を受けた 文藝春秋
加害者である元教師・田中耕一郎容疑者(75)は、このたび、別の男児に対する児童買春・児童ポルノ法禁止違反(製造)容疑などで逮捕された。現在は完全黙秘の状態だ。
男性は、田中と同じく「多くの男児に性加害をして」きた立場だ。小児性愛症(ペドフィリア)という病だと自認してもいる。
だが獄中で、石丸をはじめ性被害者が声を上げる姿を追った『沈黙を破る 「男子の性被害」の告発者たち』(文藝春秋)を読み、自身の被害者たちを思って呆然としたという。性被害に遭った男児が成人しても苦しむ現実を、初めて詳しく知ったからだ。
今年1月、筆者の元に送られてきた最初の手紙には、こんな決意が綴られていた。
「次は私が、小児性愛や依存について実態を訴え、沈黙を破る番だと思っています」

子どもへの性加害を繰り返す者の再犯を防ぐには、どうしたらいいのか。
今年12月には、子どもと接する職に就く人の性犯罪歴を雇用側が確認する「日本版DBS」の運用が始まるが、その実効性を加害当事者はどう見るのか。
償いのあり方を探っている最中だという男性の声を、手紙での取材から紹介する。
「私は多くの子に時限爆弾を仕掛けてしまいました。しかもそのトラップを解除したくともできず、またその方法もわかりません。自分でやっておいて何を言っているんだと思われるかもしれません。今はただただ、自分の無力感に打ちひしがれ、罪の重さとその十字架を背負っていかなければと、痛感しております」

子ども時代の性被害のトラウマを「時限爆弾」と表現する当事者は、男女問わずいる。被害の瞬間や直後ではなく、後になって深刻な影響が表れることが珍しくないからだ。男性には被害者のその表現が胸に刺さったらしい。
田中の今回の事件の被害者である男児たちには、今のところ、目立った影響は出ていないそうだ。だからといって、時限爆弾がこの先もずっと弾けないとは限らない。

「被害者が加害者に望むことは、死んでほしいとか、反省してほしいとか、人それぞれあると思います。しかし、おそらく皆が口を揃えて言う最も大事なことは『新たな被害者を出さないでほしい』だと思います。今回、田中容疑者が再犯したことによって、石丸さんのそういった思いも打ち砕かれてしまったのではないかと想像します」
現在の男性は、被害者の視点に立ち、その思いを想像することができるようになった。

だが、そんな男性なら、田中のように事件を繰り返す恐れはないのだろうか。
男性は「書くかどうか迷ったのですが」と前置きし、田中の立場へと視点を移した。
「加害の場面は、容易に想像ができてしまい、自身の加害が呼び起こされ、気持ちが高ぶり、うらやましいと思ったのが正直なところです。私は治療を受けていないので、認知が歪んだままです。(略)今のありのままの姿を知っていただきたいと思い、書かせていただきました」

自身の罪深さを痛感しながらも、加害行為を「うらやましい」と思ってしまう。それこそが、男性が小児性愛症という精神疾患だと自認している理由でもある。
※この続きでは、服役中の元ベビーシッターの男性が自らの「認知の歪み」を語っています。約5500字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(連載「ルポ男児の性被害」第9回・後編)。「文藝春秋PLUS」では、この他にも多数の関連記事をお読みいただけます。
これまでの連載と後日談は、『沈黙を破る 『男子の性被害』の告発者たち』(文藝春秋)として書籍化されています。
(秋山 千佳/文藝春秋 電子版オリジナル)