〈「参加費は1万6000円」「息子と娘のリストが配られて…」未婚の息子(36)の結婚相手を探すため、親の“代理婚活”会場に潜入してわかった驚きの実態〉から続く
「なぜか結婚できないウチの子」に悩む親をターゲットにした新たな婚活ビジネス「代理婚活」が盛況だ。親が当人に代わって交流会に参加し、「お相手」候補の親と知り合って見合いや交際のきっかけを作る。大事な我が子に幸せになってほしい、それが参加者たちの動機だ。
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ここでは、自身も2人の未婚の息子を持つ母親であり、長年家族問題を取材してきたジャーナリストの石川結貴さんによる『ウチの子の、結婚相手が見つからない! 親の代理婚活でわかった「結婚の壁」』(文藝春秋)より一部を抜粋。石川さんが初めて参加した「代理婚活」の現場レポートをお届けする。(全4回の2回目/最初から読む)
◆◆◆
「はじめまして。45番なんですが……」
胸から下げた番号札を示しながら、私は第一候補の母親に声をかけた。白いカッターシャツにベージュのジャケット、白髪交じりのショートヘアでほとんど化粧もしていない。どちらかと言えば地味な印象は、かえって好感度が高かった。
彼女の娘を第一候補に挙げたのも長男との年齢の近さに加え、リストの「親から見た性格」の箇所に〈堅実、思慮深い〉とあったからだ。母親の向こうに、よく似た娘の好感度が浮かぶようで、私はつい期待した。
「どうも。こちらこそはじめまして。ええっと、45番の方ですね」
相手はそう言うと、手元の男性リストをめくり、45番の箇所をまじまじと見た。
画像はイメージ show999/イメージマート
「息子さんは36歳、会社員の方ですよね。失礼ですが、年収はおいくらですか」
えっ? と言いかけ、口の中が乾いた。いきなりこんなカウンターパンチをくらうとは、まったくの想定外だ。必死に動揺を抑えながら、私はどうにか言葉を探した。
「お相手の年収とか、気にされるんですか」
「ええ、そうですね」
こちらの動揺とは裏腹に、相手は落ち着き払っている。
「ちなみにどれくらいの年収の方をお望みなんでしょう?」
「まぁ1000万円くらいが希望ですね」
今度は喉の奥が熱くなる。外見の地味な印象とは対照的に、はっきりと「金額」を口に出せる強さにたじろいで、私は上ずった声で返答した。
「大変失礼しました。そういうご希望をお持ちとは存じ上げなかったので、ウチの息子では到底お相手にはなれないです」
なんとか丁寧な言葉を使ったが、依然動揺は収まらなかった。リストにあった〈堅実〉という性格が高収入の男性希望とは思いもしなかったし、そういう条件があるのなら誤解を生むような表現はやめてほしい。それとも〈堅実〉だからこそ高収入の相手を求めるのか、親はそう希望しても本人はどうなんだろうなどと、あれこれ疑問が飛び交っていく。
こうして初の交渉は、ものの数分で打ち切りとなった。ともかく時間の猶予はあるわけで、私は別の母親のもとへ向かったが、座席の前にはすでに5人の列ができていた。あらためて会場内を見渡すと、なにやら熱心に話し込む親同士もいれば、誰も近寄らずぽつねんと座ったままの親もいる。「候補」としての我が子の人気度が、否応なく可視化されてしまう現実がなんとも厳しい。
私は列に並ぶのを後回しにし、また別の親のもとへ向かった。父親らしき男性同士が身上書を交換し、互いにうなずいたり、軽く笑い合ったりしている。ちょうど話が終わったようで、すぐに私の順番がきた。
「はじめまして。45番の母です」
「ああ、45番さん。早速にありがとうございます。ウチでもお宅の息子さんにチェックを入れていて、あとでお席に伺おうかと思っていました」
ダークグレーのストライプ柄スーツを着た父親は気さくに笑うと、早くも娘の身上書を渡そうとする。勢いに押され慌ててトートバッグをまさぐると、私も相手の前に息子の身上書を広げた。
「なかなか好青年じゃないですか。モテるでしょう?」
息子の顔写真に目をやりながら、父親は愛想よく言う。お世辞とわかっていても悪い気はしないし、もしや先行きが明るいかもしれないと期待が膨らんだ。
お返しとばかりに女性をほめようとした途端、言葉に詰まった。年齢は34歳、リストの「親から見た子どもの性格」欄には〈明るい、朗らか〉とあり、だからこそ「お相手」候補にしたのだが、実際の当人の写真を見るとニコリとも笑っていない。運転免許証やパスポートの証明写真のようにまっすぐ前を見て、いかにも硬い表情だ。おまけに拡大コピーでもしているのか不鮮明、どう見ても好印象を与えるような写真ではなかった。
言葉に窮しているうちに、父親のほうは私が渡した身上書の記載項目を上から下へと指でなぞり、おもむろに口にした。
「息子さんの勤務先が株式会社○○○となってますが、こちらは上場企業ですか」
またも動揺したが、ここまでの父親の態度からすると、「念のため」くらいの質問かもしれない。
「いえ、違います。新興企業なので従業員数は100名程度だと思います」
「なるほど。いやね、私は新卒入社してからずっと上場企業、世間で言うところの有名企業で働いていたので、社名を見ればだいたいのことがわかるんですよ」
雲行きが怪しくなってきた。娘の自慢ならともかく、自分の経歴をふりかざすような親はどうかと思うが、といって本音を出すのも大人げない。
「立派なお父様がいらして、娘さんも幸せですね」
当たり障りないよう相手を持ち上げたが、話の方向性は私の思いとずれていく。
「立派かどうかはわかりませんが、私はM市に家が2軒あるんです。そのうち1軒は、娘が結婚したら住まわせようと思っていましてね。だから早くいい婿を捕まえろって、散々言ってきたんですよ。なのに娘ときたら全然女らしくなくて彼氏もできないし、30半ばになってもアニメやゲームが好きで、あれじゃあいつ婿を迎えられるのかと心配です。あっ、もちろん婿と言っても、婿養子を取るという意味じゃないですよ。今はサラリーマンも経済的に大変だし、嫁の実家が家を用意するなら助かるだろうと、そういう配慮ですから」
悪気はないのだろうが、自分の娘を「女らしくない」、平然とそう言える感性に引いてしまう。翻って娘の「婿」には男らしさを求めそうだし、自分が用意した家に夫婦が住むという前提ありきもなんだか怖かった。
なにより娘の身上書に貼付された写真の理由がわかった気がした。おそらく本人は乗り気ではないか、あるいは娘の承諾がないまま父親の独断で代理婚活をしているのだろう。だから見栄えのいい写真を用意できなかった、そう考えるとニコリとも笑っていない顔も腑に落ちる。
「今、お父様のお話を伺って、ウチの息子ではご期待に添えないかなと思いました。勤務先はたいした会社じゃないですし、M市にご用意されているという家に住むことも、たぶんむずかしいのではと思います」
相手の身上書を返そうとした私に、父親は再び愛想を取り戻した。
「いや失敬。今の話はあくまでも親の考えですから。娘の気持ちはまた別ですし、せっかくだから息子さんの身上書を見せてやりたいです。いいじゃないですか、ともかく交換しなきゃはじまらないんですから。息子さんにもぜひウチの娘の身上書を見せてくださいよ。見るからに優しそうな人だし、案外ウチの娘との相性がいいかもしれないでしょう」
なんとも如才ない言い方だ。根が小心者の私はまたも言葉に窮し、気まずい思いを隠すように硬い笑いを作った。父親のほうは息子の身上書をファイルケースにしまう。これで話はついた、そう言わんばかりに顎をしゃくって私を見た。
「では、こちらも娘さんの身上書をお預かりさせていただきます。お時間いただき、ありがとうございました」
人目がなければ自分で自分の頭を小突きたかった。あれほど懸念していたはずが、いざとなったら相手のペースのままに身上書を交換するとはなんとも情けない。その場しのぎで交換したところでうまくいくとは思えないし、双方の子どもにとってはさぞ迷惑な話だろう。
そう考えると最初に会った母親、「年収1000万円」と口にした彼女のほうが、私などよりよほどしっかりしている。あいまいな態度でごまかさず、言いたいことをはっきり伝えたほうが結局はお互いのためかもしれない。
気持ちを立て直す余裕もなく、交流の残り時間を気にしながら、私はまた別の円卓へ向かう。目指す座席に近づくと、「お相手」候補の父親と母親はそろって立ち上がり、律儀なお辞儀をしてくれた。
「はじめまして。45番の石川と申します。少しお話しさせていただいてもよろしいですか」
「ええ。私共は昨日F県から来て、ホテルに一泊しました。娘と話したら『45番の人がいい』と言うので、ご挨拶をしたいと思っていたんです。先にお声がけいただいてありがとうございます」
わざわざ上京し、代理婚活に臨んでいるという二人との会話は穏やかにはじまった。
兼業農家だった父親の定年退職後に夫婦で農業に専従し、37歳の娘は都内の会社に勤務している。リストの趣味欄には、〈旅行、読書〉とあり、同じ趣味を持つ息子との共通点を考えて候補にしたが、よくよく聞いてみると志向が違った。観光旅行ではなく山歩きや秘境が好きなアウトドア派の女性だ。

おまけに〈会社員〉と記されていた職業も勤務先は世界的有名メーカー、今は管理職で数人の部下を抱えているという。両親の話から察するにいかにもアクティブかつ優秀な女性のようで、私は早くもあきらめモードになった。
それにしても当の女性がなぜ「45番の人」、つまり長男のリストを見て「いい」と言ってくれたのだろう。
「息子は真面目だけが取り柄の平凡なサラリーマンです。正直、娘さんのようなすばらしい方のお眼鏡に叶うのかなって思うんですが……」
率直に伝えると、「ああ、それはですね」、父親はそう口にして手元の男性リストを太い指でめくった。
「ほらここ。お宅の息子さんは家事ができるって書いてありますよね? 娘はこれを見て、この人いいんじゃないかな、と言ってたんです」
父親が指さす「親から見た子どもの長所」という欄には〈家事なども進んで行う〉とあり、それは私が記入した参加申込書に基づいていた。
仕事で留守がちな私に代わり、息子は幼いころから家の仕事をよく手伝った。学生時代の数年間は海外で、社会人になってからは勤務地近くで一人暮らしをしていたから、掃除に洗濯、料理と一通りの家事はできる。
コロナ禍で会社がテレワークになると、ひとりの部屋で一日中パソコンに向かうことがつらいと言い出した。テレワークなら勤務地近くに住む必要もなく、アパートを引き払って実家に戻ってきたが、家事への意識はそう変わらない。通勤時間がないぶん、むしろ積極的に掃除や洗濯をこなしている。たくましさとか、格好よさとか、そういう売りには乏しいが、私からすればまぎれもなく「子どもの長所」だ。
その長所が、こうして評価されたのは素直にうれしい。けれども同時に複雑な思いも湧いた。父親が指さした45番の箇所に、(3)という手書きの数字が見えたからだ。
違う男性の箇所には(2)や(5)とあるから、おそらく候補の順位付けだろう。こちらも女性を順位付けしているわけだから当然と言えば当然だが、今しがた聞き取った話の内容と、三番手候補という現実を目にして、私はあきらめから撤退モードになった。
「家事の件、ありがとうございます。ただ、本人はおっとりしていて、親が言うのもなんですが、娘さんに比べたら全然たいした人間じゃないんです。ご検討いただいただけでも光栄ですし、これ以上のお願いは厚かましいかなって思います。せっかくお時間を頂戴したのに、申し訳ありません」
できるだけやんわりと、交渉の終わりを匂わせた。二人は戸惑い気味に顔を見合わせたが、短い間を置いて母親がおずおずと切り出した。
「やっぱり、トシを気にされますか?」
「えっ?」
急に振られてトシの意味がわからなかったが、どうやら年齢のことらしい。
「お宅の息子さんは36歳で、娘より1歳年下ですよね。男性と違って、女性はやっぱり歳が大事じゃないですか。ウチなんかじきに40ですから、そんな女じゃイヤだ、子どもだって産めるかどうかって言われても仕方ないと思うんです」
母親の横でうなずいた父親が、複雑そうな顔でつづける。
「私どもが住んでる田舎のほうじゃ、娘の同級生は2、3人の子どもがいるのがふつうですよ。今はそういう言葉は使わないかもしれないけど、娘なんか行き遅れです。リストを見たら同じ歳くらいの女性が結構いますけど、それは世間じゃあんまり相手にされなくて、だから焦った親が出向いてるのかなってね。お恥ずかしい話ですけど、ウチもなかなかご縁がありません。このままひとりで歳を取ったら寂しいだろうし、離れて暮らしている私どもにしたら、娘の将来が心配なんです」
まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。私は女性の「格が上」のようで臆していたが、相手の親は「歳が上」だからと遠慮していたらしい。
「親御さんのご心配はわかりますけど、今は40代で結婚したり、出産する女性だって多いじゃないですか」
フォローした私に、母親は苦笑いを浮かべる。
「そうなんですけどね。でもそれだって、お相手があっての話でしょう? 私も地元の知り合いに紹介を頼んだり、お見合いを組もうと思ってあちこちお願いしてまわったんです。でもなかなかいいお話がないし、たまにあっても娘の年齢とか、東京で働いていることを理由にお断りされたりして……」
小さく息をついた母親が、何か言いたげに父親を見る。視線に促されるように、父親が口を開いた。
「田舎じゃ若い人も少ないし、娘は東京にいるんだからこっちでお相手を探したほうがいいと思ったんです。こういう場なら親同士いろいろ話もできますし、娘の良さをわかってくれる方がいるんじゃないかなと。努力家だし、気配りできる子だし、職場でも慕われてるみたいなんです。今までひとりでいたのも、真面目に働いてるうちに婚期を逃しただけで、結婚したくないってわけじゃないですから」
同じ親として、我が子を思う気持ちはよくわかる。両親の誠実そうな人柄も垣間見えたが、一方でどう返せばいいのかわからなかった。二人が「歳」を気にするように、私はやはり「格」が気になるのだ。おそらく女性のほうが高収入、おまけに努力家と聞かされては、三番手候補の息子など相手にされないと引け目を感じてしまう。
けれどもふと思った。どちらが上とか下とか、それがどう問題なのだろう。私も、「お相手」候補の両親も、いったい何にとらわれて気後れし、こんなふうに相手を窺っているのだろう。
もしかしたら当人同士は上とか下とか気にせずに、案外意気投合するかもしれない。現に息子は女性を候補のひとりに選んだし、女性のほうは息子のリストを見て「いい」と言ってくれたという。どうなるにせよ選択権は彼らにあるわけで、代理の親が変に探り合い、話をややこしくしているような気がした。
「いろいろお話を伺わせていただき、ありがとうございました。せっかくの機会ですし、もしよろしければ息子の身上書をご覧ください」
一度は撤退モードになりながら、ここにきて私は身上書を取り出した。
「そうですか、ありがとうございます。なんだか無理を言ってすみません。こちらが今、お話しした娘です」
ホッとしたように微笑む母親は、手早く娘の身上書を差し出す。双方の交換が終わったタイミングで、主催業者のアナウンスが流れた。
──間もなく男性側のアプローチタイムは終了です。交流が終わった親御様は、順次お席にお戻りください。──
「お話しできてよかったです。確かに身上書をお預かりします」
「こちらこそ。ご縁につながるといいですね。どうぞよろしくお願いします」
私と「お相手」候補の両親は言葉を交わし、そろってお辞儀をした。受け取ったばかりの身上書をトートバッグに入れながら自席に戻ると、ほどなく次のアナウンスが流れ、今度は娘を持つ親からのアプローチタイムがはじまった。
〈7年で会ったのは80人、600万円以上を費やしたが…結婚相談所でついに“成婚退会”した男性(44)の苦すぎる末路「同じ空間にいることさえ苦痛で…」〉へ続く
(石川 結貴/ノンフィクション出版)