トラックの荷台に設置されたDJブースからメロディーが流れると、マイクを握った若い男女がこのような言葉を次々と発していった。
「家賃が下がれば旅行に行ける」
「家賃が高くて遊びに行けない」
「安くてイイ家どこにある?」
「家賃を下げろ」
3月14日、新宿駅東口で「家賃高すぎ。なんとかしろ!デモ」が開催。住まいの貧困ネットワークと首都圏青年ユニオンの主催によるものだ。
東京23区では、ワンルームが10万円、カップル向けが20万円、家族向けが25万円まで高騰。家主側が強気の価格設定で、更新時に一割以上の値上げを求められる事例も増えている。今後も家賃の相場はさらに上昇しそうだ。
「スーパーを何軒もハシゴして特売品を買ってしのいでいます」
江東区のコールセンターで10年以上勤務するも、昨年の夏、派遣切りに遭った50代男性のA氏はそう語る。
月収約30万円が失業手当の約18万円に。間の悪いことに派遣切りと賃貸物件の更新時期が重なる。さらに家賃の値上げが大家から通告された。風呂とトイレは別の1DKの19平米で月額約8万7千円。設備はそのままで、千円の値上げの「8万8千円」が通知されたという。A氏はこう憤る。
「たかが千円ですが、失業手当の身ではされど千円です。入居時にゴキブリは出ます、と告知されていましたが、隙間風や騒音にも悩まされ、住環境は劣悪です。安いところに引っ越したいのですが、新宿区内ではより高額な物件しか見つからない。
失業手当の18万円から家賃を引くと10万に届かない額で、物価も上がり、失業手当だけでは暮らせません。出費では家賃が占める割合が多く、スーパーの特売品でしのぐのも限界で頼れる制度があればと思います」
東京23区で新築分譲マンションの平均価格は1億3813万円(’25年)と、平均年収の約18倍に上り、庶民には手が届かない価格となっている。新築分譲マンションが値上がることで「買えない人にもしわ寄せが及んでいる」と高崎経済大学の佐藤和宏准教授は指摘し、こう語る。
「’10年のマンション価格と現在を比べて約2倍となっている。住宅価格の上昇が進み過ぎ、住宅ローン金利の上昇などもあり、本来なら持ち家を買っていたような世帯も、購入を諦め、賃貸で暮らすことで家賃相場が上がっているのではないか」
東京都23区のマンション価格はバブル期すらも上回り、普通に働く人が買えないような状況だ。総じて家賃も値上がり、普通に働く人が東京に家が持てない、住めないという事態になりつつある。
「自宅を買えば家具や家電を新調し、景気が刺激されるので、政府の住宅政策は持ち家を促す政策に偏っています。持ち家重視の日本の政策を抜本から見直すべき」(佐藤准教授)
’26年の税制大綱で住宅ローン減税は、期間を延長し、中古物件や狭い物件も対象とし、より拡充されているが、賃貸住宅に暮らす人向けの家賃補助などの支援はない。
家賃が高い東京都でも石原都政以降、都営住宅は建て替えのみで新設はされていない。小池都政で民間開発やファンドの仕組みを活用しながら、中間所得層を主な対象として家賃負担を抑えたアフォーダブル住宅を推進しているが、佐藤氏は「主に子育て世帯が中心で対象は狭く、供給も少ない」と効果が乏しいと指摘する。
住宅費の負担は約30年間も悪化し続け、低所得の借家人は可処分所得の40%以上を家賃に費やしているケースも少なくない。中間層でも家賃のために生活費を切り詰める人が増えているのではないか。
「ドイツでは市民によるデモがきっかけで、’14年に家賃ブレーキ法が成立している。新規契約時の家賃相場の1割超に引き上げることを禁じているもの。日本には家賃の上限を定める法的な枠組みが存在せず、築年数、立地などに基づく標準家賃の目安を整備し、自治体ごとに値上げ幅を制限できる制度が必要です」(佐藤准教授)
政府は新築・持ち家ばかりを優遇せずに、賃貸向けの施策にも目を向けるべきではないか。
取材・文・PHOTO:岩崎 大輔