日本で100万人を超える子どもが生まれたのは2015年が最後だった。2022年には出生数が80万人を下回る。2024年の出生数は70万人を切り、2025年の日本人の出生数は66.5~66.7万人になるという(正確な出生数は翌年の6月頃にわかる)。ここ10年で急速に出生数が減少しているのだ。
それでは今後はどうなっていくのだろうか。実は、どんなに有効な政策が展開され、一人ひとりの女性が産む子どもの数が増えたとしても、将来的に出生数が大きく増加することは考えられない。なぜなら、これから母親になりうる女性の人口が減っていくからだ。
近年、こどもを産むのは30代が中心である。2030年までは、各年の30代の人口は約120万人で、その半分弱、約60万人の女性がいる。しかしその後は、毎年数万人単位でその数は減っていく。2030年に30歳になる女性は約58万人いるが、2040年には52万人、2050年に30歳になる、2020年生まれの女性は41万人しかいない。岸田政権が打ち出した異次元の少子化対策が、「2030年までがラストチャンス」としているのも、それ以降母親になれる女性の人数が急減していくからである。
2000年代に少子化対策がうまくいっていれば、30代の女性の急速な減少を10年は遅らせることができただろう。つまり、今起きている少子化は30年後のさらなる少子化を招くことになるのである。
2000年代は、団塊ジュニア(1971~74年生まれ)が30代になる出産期に当たっている。この世代は毎年200万人以上(女子は100万人以上)生まれているので、本来なら2000年代には出生数がもっと伸びていいはずだった。この時期に若い世代が安心して子ども産み育てやすい環境を整備していたならば、団塊ジュニアが第2次ベビーブームと呼ばれたように、第3次ベビーブームとまではいかなくとも、もう少し出生数の回復が見られたと思われる。
日本社会にとってきわめて残念なことに、人口の多かった団塊ジュニアとポスト団塊ジュニアこそ、就職氷河期世代なのである。バブルが崩壊した1990から2000年代にはまだ親世代に当たる団塊の世代が現役で、むしろ人手は余っていた。そして日本の企業の多くは人件費を下げることでバブル崩壊を乗り切ろうとし、団塊ジュニアの、とりわけ女性たちは時代の中で翻弄されてきた。
女性の働き方をめぐっては、1986年に男女雇用機会均等法が施行されたが、多くの企業には子育てしながら女性が働き続けるルートが定着していなかった。1992年に育児休業制度が導入されたものの、当初は育休を取得して就労を継続する女性はごく少数だった。そして、当時都市部では保育園がまったく足りていなかったため、妊娠することは退職を意味していた。
さらに、1999年には派遣法が改正され、非正規雇用で働く人が増える。育児休業制度をはじめとする両立支援策は、長らく正規雇用の人しか利用できなかった。制度は充実してきたとはいえ、その恩恵を受けられたのは一部の人だけだったのだ。そもそも子育て支援に対する社会の理解も充分ではなかった。
2000年代の状況を振り返ってみたい。
筆者は2003~07年の間、横浜市の副市長として子育て支援制度の充実や保育園の整備などを担当した。この頃、横浜市は待機児童も多く、保育園をいくら作っても追いつかない状況だったのだが、新たに保育園を造るのは本当に大変だった。予算確保、土地探しや保育士確保もさることながら、それ以上に苦労させられたのは、「保育園ができるのは迷惑だ」という近隣住民の反対運動である。当時はまだ日本全体も横浜市も人口が増えていたので、子どもが社会にとってどれほど大事な存在か、どうして保育園が必要なのか、いくら説明しても、なかなか理解してもらえなかった。
反対されたのは保育園新設だけではない。2000年代は、ようやく子育て支援が本格化しようという時期だったが、親子のための施設を整備したり、支援制度を拡大しようとすると、高齢者を中心に「若い親を甘やかしている」「最近の母親はなっていない」「昔の母親は冷蔵庫も洗濯機もない時代に何人も子どもを育てていた」という批判の声が寄せられた。保育園新設への反対運動も子育て支援政策への批判も、日本全国で同じように起こっていた。
そして、結婚や子育てにたどり着けない人たちへの支援も必要になっていた。介護保険の窓口には、親の介護が必要になり始めた子の世代が相談に来るようになった。非正規で働いている人は、介護のために仕事を休めばたちまち暮らせなくなる。介護保険の担当者は「親に介護保険制度を利用してもらうにしても、非正規で働く息子や娘たちは今後どうなるのだろうか」と心配していた。
子育て支援や保育園を充実させれば、若い親たちは喜んでくれた。しかし、一方では、就労の底が抜けたようになっていた。安定した雇用や経済的見通しが立たなければ、結婚や子育てもままならない。「結婚や子育てできる人は恵まれている」「子育て支援は恵まれた人への支援だ」という批判もあった。非正規の収入では、自分1人か、2人で働けば大人2人は食べられても、子どもを持ち育てることは難しい。若い世代に次世代の子どもを養育するゆとりがなければ、子どもを産むはずがない。
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