〈「手足が短いこと」でも「ランドセルが背負えないこと」でもない…身長115センチの成人女性がふり返る“学校生活でいちばん辛かったこと”〉から続く
先天性の疾患・軟骨無形成症で身長115cmの後藤仁美さん。平均より身長が低く、四肢が短い特徴を持つこの障害は約2万人に1人の確率で発症し、日本国内には約6000人の当事者がいるという。
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後藤さんはその小さな体を活かし、モデルや俳優、さらにはドラマーとして東京2020パラリンピックの閉会式にも登場するなど、活躍の場を広げている。そして一昨年には第1子を出産し、現在は子育てに奔走中だ。
そんな後藤さんとパートナーの幸紀さんも交えて、出産や育児のリアル、「障害者」をめぐるメディアのあり方などについて話を聞いた。(全3回中の3回目/最初から読む)
身長115センチのモデル・後藤仁美さんとパートナーの幸紀さん 松本輝一/文藝春秋
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――「自分が恋愛の対象と見られていない気がした」というお話がありましたが、男性に対する苦手意識があった?
後藤仁美さん(以下、後藤) それは全然ありませんでした。兄がいたから抵抗感もなかったし、仲いい人は女の子よりも仲良くしているくらいです。
――抱えていかれたら怖いみたいな、フィジカルな怖さはないですか。
後藤 実際に経験はないですけど、恐怖はやっぱりありますね。だから、あんまり一人で歩きたくはないです。本当に連れ去れちゃうんで(笑)。
好意的に接してくる人でも、「障害者」として関わってこられると距離を置きたくなります。私個人ではなくて、障害がある人という括りで見られるのはちょっと……。

――「障害者」という括りで見てくる男性がいる中で、当たり前ですけど、パートナーの幸紀さんは最初から感じが良かったというか。
後藤 そうですね。本当に普通っていうか。
幸紀さん でも逆に、最初の頃は障害のことを僕が気にしなさすぎて、彼女をおいて先に歩いていっちゃうみたいなこともあったかも(笑)。今の方が手を繋いでとか、そういうのはするようになったかな。
後藤 そうだね。最初はあったかもだけど、後でちゃんと話してわかってもらったんだよね。
――幸紀さんにとって、後藤さんの障害が交際や結婚においてハードルになったことはありますか。
幸紀さん 気にしてなかったですね。むしろ、彼女のポジティブでいろんなことにチャレンジするところに僕がエネルギーもらえるというか。それで、今後の人生を一緒に歩んでいけたら楽しいだろうなって思ったんです。まあ、あとで性格としてネガティブな部分も知るんですけども(笑)。
――はじめて後藤さんを幸紀さんのご家族に紹介した時のことは覚えていますか。
幸紀さん うちの姉は「可愛い~」とかって言ってたよね。姉は保育士なんですけど、「ちょうど今これくらいの子たちと遊んできた」みたいな感じで(笑)。両親は孫ができたような感覚だったよね。
後藤 たしかにそんな感じだったね。
幸紀さん 障害のことは結婚する前から話してましたし、「子どもができたら1/2の確率で遺伝する可能性もあるよ」みたいな話もしましたけど、「あ、そうなの」みたいな。それに対していいとか悪いとかは特になかったですね。

――お子さんに軟骨無形成症が遺伝する可能性があるというのは、後藤さんも昔からご存知だったんですか。
後藤 はい、知ってました。私の両親は軟骨無形成症ではないので、自分自身は遺伝ではなく突然変異なんですけど。
――子どもが障害を持つかもしれないことに不安はありましたか。
後藤 自分がこの障害の当事者として楽しく過ごしてきたし、もし子どもが軟骨無形成症だったとしても、障害が理由で不幸だと感じるような人生には絶対させない自信もあったので、どっちが生まれてもいいと思ってました。
――妊娠・出産にあたって、何か気をつけることはあったのでしょうか。
後藤 軟骨無形成症の妊娠・出産例はたくさんあるんですけど、骨盤の形が狭いので、帝王切開になると言われていました。体が小さいので早く産まなければならなくなる可能性もあったので、なるべくお腹の中で育てられるように、無理はしないようにしていましたね。
――2024年5月に出産を報告されていましたが、子育てで大変だったことは?
後藤 腕が短いし手も小さいから、抱っこが大変でした。それこそ新生児の首が据わらない時は危なかったので、夫や、私の母が抱っこすることが多かったです。
その後は抱っこ紐を使って抱っこもできるようになりましたけど、今は重くなってきたのでなかなか大変です。

あとは、授乳クッションでも苦労して。
――授乳する時に赤ちゃんの体を支えてくれるクッションですよね。
後藤 そうです。授乳の時、自分の腕だけでは支え続けられないので、授乳クッションは必須でした。高さや柔らかさとか、留め方とか、ちょうどいいのがなかなか見つからなくて、3、4個買ったかな。
幸紀さん 授乳の時は僕が補助でいたほうがいいんですけど、外出先だと男性も入れる授乳室がなかなかなくて。なので、出先では施設に部屋を借りられるか相談したりとか、そういうこともありました。
――後藤さんが出産されたことはネットニュースにもなっていましたね。
後藤 自分のブログやSNSに投稿したのですが、ネットニュースなどに取り上げられて、反響に驚きました。祝福の言葉をたくさんもらった一方で、ニュースのコメントにネガティブなことも書かれたりしました。

――どんなコメントがありましたか。
後藤 「遺伝するかもしれないのに産むな」とか「子どもがかわいそう」とか。実際会う人でそんなことを言う人はいないんですけれど。
今後も、たとえ子どもがかわいそうな状況じゃなくても、大変な思いをしていなくても、外から勝手にいろいろ言われる可能性はありますよね。
――当事者ではなく、社会が変わる必要がありますよね。お子さんから将来、後藤さんの体のことを聞かれたらどう答えますか。
後藤 聞かれたら「生まれつきだよ」って答えると思いますけど、自分の子より先に、周りの子が「なんでちっちゃいの?」って聞いてくると思うんです。それは自然なことなのでちゃんと答えようと思ってます。
――後藤さんのキャリアに関わることも聞かせてください。俳優としても活躍されていますが、ハリウッドでは『白雪姫』の実写化で小人役をCGにしたことが物議を醸しました。この一件について、どのように見ていますか。
後藤 CGでなく、本物の俳優さんがやれたら良かったかなって思います。ただ、ピーター・ディンクレイジさん(※編注)が言うように、小さい人が小さい役しかできないのはどうなのか、という問題提起もよくわかるんです。
編注:『ゲーム・オブ・スローンズ』などの出演で知られる軟骨無形成症の俳優。
――「小さい人」「障害のある人」ということではなく、一般的な役でもいいわけで。
後藤 小さい役者さんが限られた役しかできてないっていうのが問題なのかなって。私自身、普段から皆と一緒に普通に生活しているわけで、なんの説明もなく、ただいるってだけでいいと思うんですけど、なかなかそういう役はないですよね。

大河ドラマ『光る君へ』(2024年、NHK)に同じ軟骨無形成症のDAIKIくんが出演していました。「障害がある人」という役柄ではなく、ことさらに小さいことを説明することもありませんでした。その作品の中で彼の存在が独特の雰囲気を作り出していて素敵だなって。
私自身もいろんな場所で活躍することで、皆と共に普通にいる存在なんだと知ってもらえたらいいなと思っています。
撮影=松本輝一/文藝春秋
(小泉 なつみ)